昨今の情勢を受けてイラストの転載とかAI学習への対策がしたい人向けの話
この記事は、AI生成物の中でもイラストに絞った話をしています。
■前提知識
・AI生成画像がどうやって作られるかの大まかな仕組み
・i2i(image to image)とt2i(text to image)が何を指すか
・データセットとLoRAの違い
がざっくりでもわかっていることを前提として話しています。全く分からない!という方は少し調べてからだと理解しやすいかも。
読むだけなら理解していなくても読めます。
(すごくふわっとした説明:i2iは1枚のイラストを元にして別の画像を出力する、t2iはテキストで指示を書いてイラストを出力する。データセットは画像生成のための大本のデータ群で、LoRAは絵柄やキャラクターなど特定の学習に特化した追加MODのようなもの)
■記事を書いてる人
・グラフィックデザインの仕事をする
・TRPG立ち絵は趣味程度に描く
・生成AI(t2i)は活用派
・自分の権利物でない画像のi2i利用には反対
・特定個人の絵柄LoRAには反対
■今回の本題
自分の権利物を守ることは大切だしどんどんやっていいと思う。ただ、やりたいことと手段が噛み合ってない様子を散見するので、そこは一致させないと勿体ない!という気持ちで書いた記事です。
周りがやってるから、の同調意識でなんとなくウォーターマークを付けるよりも、何に対しての対策なのかを理解することで、ご自身により適した対応をしていけるのがベストだと思います。
ではここから、
【①人間による無断転載を防ぎたい】
【②自分の絵柄LoRAを作られること、i2iでイラストを転用されることを防ぎたい】
【③AI学習全般を防ぎたい】
の項目別のお話になります。
あくまで一個人が興味で調べた上でのお話なので、是非皆さんもご自身で調べてみてください。そして、なにか誤りがあれば是非ご指摘ください。
【①人間による無断転載を防ぎたい】
・自分の記名があるウォーターマーク、もしくはサインを入れよう!
これはもう既にやってる方も多いと思いますが、ぜひやりましょう。
入れられたサインを剥がすという行為自体がもうアウトなので、サインを入れてさえいれば自分の著作物を主張することは可能ですが、できれば絵柄の上に仕込むと、より剥がされにくくて良いと思います。
ただ、位置はどこでもいいと思ってます。i2iで剥がされにくくするために顔の近くに載せるとかそういう意見もあるとは思うんですけど、剥がされた時点で一律アウトなので、そこはせっかくの絵の妨げにならなくてもいいんじゃないかな……。
著作権侵害は親告罪なので、自分の絵が被害にあった際にサイン、もしくは記名のあるウォーターマークを入れておくのは有効な手札になります。
巷で配布されている記名のないウォーターマークでは、自分の権利物である証明ができないため、そういうものを使用するならサインを併記しましょうね!
Q.作ったウォーターマークを公開すると、保存されて消すのに使われるって聞いたけど……。
A.確かに消すことは容易だけど、「消す」という行為がアウトなので考慮しなくていいと思います。重ねてになりますが、自分の権利物を証明するためには、ウォーターマークのみではなく記名をしないと意味がないためお気をつけください。
【②自分の絵柄LoRAを作られること、i2iでイラストを転用されることを防ぎたい】
・学習阻害ノイズをかけよう!
個人の絵柄の学習を防ぎたい、もしくは自分の絵を読み込ませて転用されることを防ぎたい場合に有効です。ノイズをある程度強くかけることで、生成後の絵を崩すことが出来ます。
有名なものだとGlazeやNightshade、クリスタでも3.0ではノイズ加工に対応しています。こういったノイズはAI学習に対しての学習阻害を目的として作られたため、現状一番イラストを保護できるものです。
クリスタのノイズがどのくらい効果があるのか試してみました。自分のクリスタが2.0だったので、友人に協力して頂いております。いつもありがとうございます!
イラスト元:@Ayase_Pono / ぽの男子カタログ
クリスタノイズは、公式にも出ているようにi2i対策というよりは追加学習対策で効果を発揮するもののようです。
そのため、今回は作者の許可を得てLoRAにて効果を確認してみました。
Stable Diffusionのt2iで「1boy, highest quality, portrait」をプロンプト指定、ネガティブには「low quality」のみを入れたシンプルな構成です。学習枚数は元画像4枚に反転を含めた8枚なので、元のキャラクターの要素が強く出力されているのはご愛嬌としていただければ幸いです。
妨害ノイズといえど薄いと効果は当然あまり見られないので、最低でも25%は欲しいところ。50%まで入れれば相当効果が見られますが、元イラストへの影響が大きい部分は考えものですね。
ノイズが有効なのはわかってるけど、イラストの雰囲気が変わりすぎて嫌なんだよね、という方向けのウォーターマークについては次の項目で。
・ウォーターマークを入れるのは有効?
LoRAは手間だったのでi2iのみですが、自分のイラストでいくつか確認してみました。ウォーターマークを入れたイラストを、Stable Diffusionへ読み込ませ、「watermark,text,signature」を強くネガティブ設定したi2iを行っています。ウォーターマークはXでよく見かけた「@natanosurume」様のものをお借りしました。ありがとうございます。
レイヤーの不透明度は75%~で絵に被せるように配置(できれば100%に近い方が安心)することで、i2iへの効果を発揮してくれそうなことが見えてきました。検証はしていないので確実ではありませんが、絵柄LoRAにも対処できそうです。
続いて、ここまで大きく被せたくないな……という場合にどうなるかの確認も試していきましょう。
絵柄の変化・破綻は大きくウォーターマークを載せるよりも控えめになっている印象。LoRA作成にはほとんど防止効果はないかもしれません。この大きさだと意味が薄れそうなので、やはり、顔部分に重なるようにウォーターマークは載せた方がよさそうです。
また、オーバーレイで透かしをかけてみた場合も行ってみましたが、まあ通常レイヤーであるに越したことはないかな~という印象。破綻が増えないということは、元の絵を認識して近しく出力できているということなので……。あまり阻害できている感じはない印象です。
薄いレイヤーだと意味がなさそうなことは明確になりましたが、実際にLoRAを作って確認できているわけではないため、何%まで不透明度を上げたらいいか、は私も断言できないです。貴方の信じる不透明度を選んでください!
(上の検証では顔周りの絵柄全部変わってるじゃん、と思われるかもしれませんが、絵柄学習をさせたLoRAを使用してるわけではないため、そうなっています)
また、カラーハーフトーンを使用した対策については検証元が見つからず、「これがいいらしい」という噂しか見つけられなかったため今回は取り上げておりません。
【③AI学習全般を防ぎたい】
・インターネットにアップするのをやめよう!
元も子もないけど100%学習されたくない場合はこれしかないです。
AIに学習されたくないのになぜ自分たちが我慢して配慮しなくてはならないのか、と思う方もいるでしょうが、この記事ではありのままを申し上げています。
現行法で違法とならない限り、インターネットに放流した時点でどのような対策を取っていても学習の可能性はあるつもりでいてほしいです。ノイズを入れたから学習されない、透かしを入れたから学習されない、はできません。まあ違法になろうともそれを犯す人が0でない以上、100%にはなりませんが……。この辺を言い出すときりがないですが……。
じゃあ、防ぐんじゃなくて、学習されるのは前提としながらも、できるだけ阻害できないだろうか?というのが以下の話です。
・画像の解像度を下げること
Stable Diffusionで学習をする際の推奨サイズは512x512以上なので、それ未満のサイズであれば学習の対象から弾かれる場合があります。つまり512x512よりも小さい画像にすれば、クローラーでの学習から弾かれる可能性は高くなります。より強く弾かれたいなら256×256より小さくすると良いですね。
画像自体が小さくなってしまうのが難点ですが、イラスト一枚だけであれば256px未満長辺で4分割サムネにして表示させるのも良さそう。
(なお、これは学習ができない、ではなくて学習の対象から外されやすい、です。解像度を上げる処理をして学習データとして取り込むことはできますが、手間は増えるから優先度が下がりやすいよね、という話)
・学習阻害ノイズをかけること
やっぱここに戻ってくるんですよね。明確にAIの学習対策と謳われているものはやはり強い。学習はされたとしても、データとして生成に貢献しにくくなるので、自分の絵をデータセットの一端として意味のある使われ方をしたくない、という場合にはこれがいいと思います。
・鍵垢にする、画像にパスワードをかけるのは?
オープンアカウントより勿論学習されにくいので有用です。検索にも出てこないし。(悪い人の話をしだしたらきりがないので)信用できるフォロワーの範囲なら、安心した運用はできるはず。
鍵付きの画像掲載サービスも同様です。無差別に学習をしたい場合、逐一パスワードを解除しながら収集するのは手間なので、優先度が下がりやすいですね。パスワードを突破して学習をするとなると、もはや個人に執着があって個人の学習をしたい人だと思うので②のパターンにあたりそうです。
Q.ウォーターマークでAI学習禁止の文字を入れるのはどう?
A.無断転載は違法ですが、AI学習は法には触れないため、禁止と記載がされていてもあくまでお願いでしかありません。拘束力はないものとして認識した方がいいでしょう。意思表示として記載するのはいいことだと思います。繰り返しになりますが透かしを入れるなら記名も入れよう。
Q.邪魔な位置に大きくウォーターマーク入れるのは?
絵の邪魔になる位置ならば「その絵」については学習は阻害できるかもしれませんが、大量のデータセットのうちの数百枚がそれになったところで、生成AI全体への影響は微々たるものでしょう。何十万枚と、数多くの絵描きが同じ形のウォーターマークを同じ箇所に入れて投稿するなら全体への影響が出るでしょうが……。
また、AI学習は現行法で禁止できるものではありませんので、ウォーターマークを含めて学習することにより「ウォーターマーク」をネガティブプロンプトとして指定して、t2iの生成で出力しにくくするための学習にも使用できるとは思います。
(生成時にネガティブ設定をすることは、サインを消す行為とは別物です)
Q.私の絵は上手くないから学習もされないでしょ?
A.される!!!!!!!実際がどうであれ上手くないからされないとか、そういうことじゃない!!!
どんな絵でも、なにかの要素の学習になるのだということは誤解しないでください。酷なことを言うならば「上手くない絵」として学習に組み込まれてネガティブ設定のための要素のひとつとなることもある。また、「黒い髪」「赤い目」というような、要素の学習として使用できることも当然あるでしょう。あとこれ言ってる人はだいたいそれなりに上手いので反応に困る。
Q.Xはクローラーされにくいって聞いた
A.私も聞きました!このあたりは不勉強ですが……。
APIが有料化したのでXにおいてクローラーするには一定のハードルがあるのかな~という認識です(API購入すれば可能だけど)。ただ、オープンアカウントであればGoogle検索には画像は出るので、外部からの取り込みはどっちにせよできるんじゃないかな? サービス内部での挙動は上の限りではないです。
Q.外部サイトに移った方がいい?
好きな場所で活動するのがいい。ただし、MisskeyやBlueskyに画像を置いた=学習されない、ではないことに注意。自分のいるサーバーがAI学習を禁止していても、外部にはその規約は影響がないのでオープンアカウントである以上は学習の可能性はあります。
NotionとかXfolioとかの外部サイトは触っていないので今回の言及はほどほどにさせていただきますが、学習を走らせないよーと明言しているサービスに画像を置くのはアリなんじゃないかと思います。自分の姿勢と近いサービスを使用するのがいいですね。
繰り返しになりますが、絶対に100%学習されたくないよ!!!という方は、現状はインターネットに画像を公開しない、以上の対策はありません。日本の現行法では、許可があろうとなかろうとAI学習をすることは問題ではないためです。
掲載する以上は学習に使用される可能性はあり、それを認めた上で自分のスタンスに合う手段を取っていくのがいいのだと思います。
で、有効な対策としては
・アカウントを鍵にするor画像を置くページにパスワードを設定する
・学習阻害ノイズをかける
・不透明度の高いウォーターマークを絵と大きく重なるように載せる
が現時点では一定以上の効果は見られるのではないかと。
おわりに
昨今、生成AIが急な普及をしてきましたが、その傍らで世間一般の生成AIへの理解はまだまだ追いついていないと感じています。
画像生成AIに反対しているのに、機械翻訳やchatGPTのことを、多くのテキスト学習を含んだ生成AIだと認識せずに気軽に利用する人もいます。
また、t2iとi2iの混同も多く見られますので、反対の発信をしている人が「何に反対しているのか」という立ち位置が不明瞭なことも多いです。よくわからないけどこれを使っておいた方がいいらしい!というポストもよく見かけますが、それはご自身が身を置く界隈にはプラスにはならないはずです。
また、対策を取らない=悪い わけではありません。対策を取りたい方と同じように、対策を取らない方の思想や行動も同じく尊重されるべきです。
同調圧力はよくないので……。
なお、この記事はあくまで公開時の情報に限ります。今後、AI学習阻害のノイズがかけられていようとも問題としない学習方法が生み出されるかもしれませんし、法整備がされていくかもしれません。
技術の進歩は日々目ざましく、一度普及した生成AIが排除されることはもはやないでしょう。私もいちAI利用者として、多くの人間が仕組みを理解して、思想に合わせた対策を取れ、個人の被害が生み出されないように利用する環境が整っていくことを望んでいます。