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自動車逃亡バラード3

加藤くん宅に泊めてもらった翌朝、近くの喫茶店でモーニングを。そこで別れてひとり、吹田市にある国立民族学博物館へと。7年前に大阪へ遊びに行った際も加藤くんとここへ来た。そして今回もどうしても来たかった。

基本的な展示は前回と変わらずだったが、感じ方が違った。順路でいくと世界各国の民族にまつわる展示の後、わりと終盤の方に日本各地の展示、という流れなんだけど、世界を見たあとで日本を見ると、いやいや日本って結構やべえなって感覚で、一度見たはずなのに結構衝撃だった。血肉が踊る感じがした。うおう。

やっぱ日本に生まれたのは必然なんだなというか、それだけ感じるものが多かった。なにより祭礼、神事にまつわる彫り物、飾り、衣装そのすべてが緻密さと素朴さと荒々しさをはらんでいて、なんというか、人の手垢がしっかり混じってるというか、愛着が湧いた。ずーっと心の中でグッドグッド連呼してた。なんでそこ英語やねんって感じだけど。

そしてその展示物のひとつひとつが大抵は自然のものを素材として使ってるのものばかりだったってことも重要かもしれない。普通につくろうと思えばつくれんだ、っていう。帰ったら従兄弟の田んぼで取れた米の稲藁をもらってなんか作れるなーとか考えてた。なんせ帰ったら使える自然素材だらけだから、祭事うんぬん関係なく自分がつくりたいものをインスピレーション次第でどんなものでも作れる。つるかごだろうが草鞋だろうが竹竿だろうが帽子だろうがリースだろうがスプーンだろうがお面だろうが。わー楽しい。

民博にはかなり長いこといたし、世界各国を集中して見まくったせいでわりと疲れてしまって、民博内にあるレストランでわりと長いことボーっとしていた。あーなんだっけおれどこ行くんだっけ東京都民だっけ宮崎県民だっけそのどっちでもないんだっけ、おれ誰だっけ、ってな具合に。隣の席には配膳ロボットがオムライスをおじいちゃんのもとへ運んできておじいちゃん「おおきにな〜」なんて言ってるし、あれ、おれは人間なんだっけ、とか何とか。とにかく疲れていた。外へ出て植物園の隅っこに生えてたスダジイの落としたドングリ達を拾ってポケットに入れたりもした。太陽の塔の真ん前まで行く余裕すらなく背中だけ遠巻きに見て帰った。

夕暮れから夜。大阪から神戸。神戸あたりの地名はガガガSPの歌によく出てくるからいくつか知ってる。須磨、長田、元町、板宿。国道2号線沿いを走る元町駅のあたりは若者たちで溢れていて、飲みに行こうにも駐車代も高そうなので通り過ぎ少し車を走らせると、通り沿いにとてもド渋な居酒屋を発見。店内も活気がありそう、ってとこまでわずか2、3秒で判断し、すぐさま近くの駐車場を探し路地裏をぐるぐる回る。1台分だけ空いている駐車場にささっと車を停め、よっしゃ!と気合いを入れて歩いて店へ向かう。たいていちょっと入りづらそうだったり一度も入ったことのない飲み屋へ入る時はこうして気合いを入れる。アウェイなんて何処吹く風。まるで地元民になりきったように、「コント・地元の常連」って感じで、ロバート・デニーロよろしくの名演技でノーモーションで店に入る。いつもここのカウンターの角の席ですよ〜と言わんばかりに迷わず腰掛け、当たり前のように瓶ビールとハムカツとおでんの種を3つほど頼む。隣にいたこのお店に来るのは初めてだと話していた中年カップルがぼくのもとに置かれたハムカツを見て「へえ〜ここはハムカツもあるんだ〜」とつぶやいた時点でドッキリ大成功。

まあそんなことはどうでもよくて、なにより店内の佇まいと店員さんのキャラ立ち感が満載でたまらんかった。まず今にも西田佐知子の「神戸で死ねたら」でも歌い出しそうなスナックのママみたいな古株2人と、ホール全体のまとめ役的な仕事キレッキレの、ゴールデンボンバーの方ですか?みたいな風貌のあんちゃんと、それをサポートするこれまた仕事の出来る19のバイトの女の子と、オーダーとる機械の使い方がいまいちわかってないベトナム人留学生の男の子と。店員も客もとにかく活気があってお祭り騒ぎ状態で、すべてが酒の肴になった。


おでんの出汁を使った「おでんそば」。絶品だった

ほろ酔いの街から軽バンという自宅へ帰る。形状記憶型運転席スタイルにも3日目にしてようやく慣れて(といっても腰は痛い)、フロントガラスをシートで覆ってさっさと寝た。

翌朝からは移動メインで行こうと心に決め、夜明け前から車通りの少ない道を走る。行けども行けども夜が明ければ「社会」が始まる。「社会」は無関係な人さえも容赦なく巻き込んで行くので残酷だ。「社会」という強迫観念集団心理によって隅っこに追いやられたような形になるのはその図式以外の余白が与えられていないからで、ほんとはガン無視で行きたいとこだけど、やっぱりこちらもカモフラージュするわけで。「社会の一部ですよムーブ」決め込んどかないと何かと息苦しい。
夜明け前はそんな社会前の貴重な時間なので、まるですべての酸素を独り占めしたようで清々しく、早起きのおかしなテンションで暗がりの車道をかっとばしていた。

ひたすらに車を走らせると、広島を抜け山口の岩国市へ。ちょうどお昼時で、岩国を通ると必ず立ち寄る中華そば屋があるんだけど、ご多分に漏れず今回もそこへ向かった。

寿栄広食堂

毎回そこを通る時というのは青春18きっぷで移動している時で、だいたい岩国駅で1時間くらい乗り換えで待たされるので、その時間を使って立ち寄るのだ。だけど考えることはみな同じで、電車を降りると乗り換えの合間で立ち寄るお客さんの行列が出来る。過去2度ほど同じ目にあったし、今年の1月に18きっぷで東京へ戻った時もそんな状態だった。

しかし今回は違った。店内はわりと空いていた。ここのお店は中華そばとおいなりさんがおいしいのに加え、この店独自のスタイルで、前金制で入り口付近のレジで注文して金を払うと、店員のおばちゃんがレジ横に設置されているマイクを通して奥の厨房へ向けて「中華M!」とか「中華Lいなり!」とか叫ぶのだ。
「普通に地声で叫べばいいじゃん」なんて野暮なことは言っちゃいけない。これがこのお店の伝統(?)なのだ。いつだかそれを食べログのレビューかなんかで「マイクパフォーマンス」と呼んでいる人がいて爆笑した。これを見たいがためにここに来てる節もある。

中華そば。背脂乗っててうんめえ

そうそう、10年前の自転車バラードの際も岩国駅へ来ていて、駅前のお店で広島から駆けつけてくれたダダオさんと初めて会ったのだ。

ダダオさんと立ち寄ったお店は今はパン屋さんに変わっていたけど、ぼくはちょうど駅前に着いた時に自転車のブレーキワイヤーが切れたのも覚えてるし、ふたりで腰掛けたテーブル席の下で500円玉を拾ったのも覚えてるし、後日再び会ったダダオさんに「あの時風呂はいってなかったでしょ、めっちゃ臭かったよ〜」と言われたのまで覚えてる。それは忘れろ。

パン屋に変わってしまったお店の前でボーっと立ちすくみそんな記憶を回想していた。
その後の事もなんとなくだが覚えている。確かそこから少し進んだ所で野宿したのだ。ぼくは薄らでいく記憶を蘇らせる為に新岩国駅方面へ向かった。

ダダオさんと別れた後ぼくは寝床を探す為に自転車で新岩国駅へ向かった。しかし駅前は閑散としていて、公園はおろか安心して寝れそうな場所すらなかった。そこから一度引き返し、手前にあるどこかの歩道橋の下に簡易ダンボールハウスを建てて野宿したのだ。そこまでは覚えてるがどこだったろう。新岩国駅へ向かう手前にコンビニがある。あっ、ここでカップ麺買ったような、、、。その向かいにホームセンターが、、あっ!思い出した!ここのホームセンターでダンボールをもらったんだ!
すぐさまホームセンターの駐車場に車を停めて歩く。すると、あー!あそこだ!!歩道橋だ!!!!


あの日の歩道橋発見
近づく
ここだ〜
10年前。ここの錆の部分が
溶接して補強されてる!
あの日のダンボールハウス
日本一周より日本酒

ただ1日過ごしただけの場所になんだか不思議な愛着が込み上げて来て謎に泣きそうになる自分。NHKのドキュメント72時間でも密着せんだろう歩道橋に垣間見た過去の自分の残像。錆の補強に10年の月日を感じた。

飽きるまで写真を撮りまくり「いやー」とか「たはー」とか感嘆の声を漏らしまくり不審者レベル5ぐらいまで引き上げたところで歩道橋をあとにした。国道からは外れた場所なのでよっぽどのことがない限り立ち寄ることはないだろうけど、いつかまた通った時にこの歩道橋が無くなっていたらなんとなく寂しいな。

この日の目的はそれとは別にもう一箇所あって、自転車の際に立ち寄った、カラオケが歌える座敷の大広間のついた超ド渋温泉、「長沢ガーデン」を再訪することだった。到着した頃には日が暮れかかっていたが、それがまたよか雰囲気を醸し出していた。


10年前の記録
自転車で訪れた際はカラオケ大会をやっていて、
その印象が強い


長沢ガーデンは日帰り入浴が出来るのに加え、素泊まり3500円で泊まれる宿もついてる。お土産屋さんもあればレストランもあり、おまけに外にはうどんの自販機もある!

Tシャツがかわいくて買っちゃった(他所様の写真引用)

最高ですよね。前回は野営地を探す為温泉のみ入っただけだったので、今回はたっぷり満喫しようと、ひとっ風呂浴びて長沢呑みを敢行したのである。

写真ではわかりづらいがわりとお客さんいた。

レストランだからと侮るなかれ、ビール日本酒ハイボール、おまけに(高いけど)おつまみメニューも盛りだくさん。ここぞとばかりに頼みまくる。

タコ酢
あげ豆腐
天ぷら盛り合わせ
〆のそば


ただここは都度レジ前で食券を買っておばちゃんに渡さなきゃいけないので、ちょっとめんどい。最初からひとまとめに食券買っておいてあとから頼みたいものの食券はテーブル備え付けのベルで呼んで渡すのがいい。コント・地元の常連失敗でした。まだまだですね。

にしても最高の気分だった。この地にまったく縁もゆかりも無い各地から人を集めて大宴会開きてえなあなんて考える。カラオケ大会やりてえ〜。妄想を繰り広げ、にやにやしながら我が家(軽バン)に戻る。


日付が変わりまだ夜明けにはほど遠い時間に目が覚める。この旅では一度目が覚めたらそれが出発の合図なので(というか二度寝できない)、外へ出てうどんの自販機の前の椅子に腰掛ける。薄暗い蛍光灯の下でぼんやりと佇む自販機。旅先で何度かこいつに遭遇したことはあったが、一度も食べたことはなかった。
昨日レストランでさんざん注文しまくり、おばちゃんに「若いからよく食べるねえ〜」とまで言われたが、ここで食べない訳にはいかない。草木も眠る丑三つ時、ぼくは薄ぼんやりとした蛍光灯の下で「妖怪うどんすすり」と化した。

うどん自販機
具がねえ!


さあ、腹ごしらえをしていざ九州へ。妖怪うどんすすりは無事に辿り着けたんでしょうか。


つづく。

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