たっこちゃん、齢ほぼ80歳 #39 お姫さまカットがいやだった
コロナ禍でたっこちゃんは美容院を控えている。コロナだけが問題なのではなく、行きたい美容院がなかなか見つからないってこともあるんだが。
世の高齢者はどこで髪を切ったりパーマをあてているんだろう。
で、伸びた髪をどうしているかというと、私が切っている。白髪染めはかなり上手になったものの、カットは回数を重ねてもまったく上達しない。
たっこちゃんの髪を切りながら必ず思い出すことがある。
たっこちゃんに髪を切ってもらっていた子供の頃のことだ。
チョキチョキと切っておかっぱ頭やマッシュルーム頭が出来上がった最後、たっこちゃんはフェイスラインの髪をひと束取って耳たぶ辺りでバッサリ短く切り落とすのだ。
麻生めぐみのお姫さまカットにだ。
私はこれが心底いやだった。
「私お姫さまカットがすごくいややってん」
そう言うと、
「流行っててん」
「かわいかったやん」」
「白くて丸いから(顔が)よく似合っててん」
いまさら言っても仕方がないんだが、つい口に出してしまう。
「運動会のライン入り靴下もいややってん」
話はお姫さまカットから変わって、子供の頃の恨み辛みが吹き出してくる。
通っていた小学校の運動会では白の無地の靴下をはいてくるよう決められていた。ふだん真っ白の靴下をはかない私は、その日のために新しく買ってもらわなくてはならなかった。
それなのにたっこちゃんが買ってくるの決まって白の無地ではない。
赤いさくらんぼ刺繍が入っていたり、ライン入りだったり。
一番最悪だったのは白に水色と赤色と緑色の太いラインが入った靴下で、ラインなんてもんじゃない、横縞もようだった。
「あれな、遠くからでも見つけられるねん」
「いい考えやろ」
自慢気だ。
それをはくしかなかった私の気持ちなんてわかるはずはない。
「クラスの男子に文句言われててんで」
そう、小学生男児はちょっとのことを大きく問題にして騒いで楽しむのだ。
「それあかんのにぃ~」「違反や違反や」と非難ごーごーだったのだ。救いだったのはクラスにもう一人、柄物靴下をはかされた男子がいたことだった。
ひとりじゃないもん。だからマシ。
描いたイラストを見せて聞いてみた。
「これ、なんの絵かわかる?」
「……オリンピックかぁ……あぁ!あんたの運動会やん♪」
「わかった?」
「ボーダーの靴下はいてるやん」
ちゃんと覚えていた。
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