たっこちゃん、齢ほぼ80歳 #20 捨てられない古着と悪夢
たっこちゃんは洋服を捨てられない。
うん十年もしまいこんだままの洋服は、選別して少しでいいから片付けてほしいんだけど、「不要なものはひとつもない」と言って譲らない。
以前も書いたけど、「痩せたら着る」「気に入ってる」「高かった」「イージーオーダーだ」「一度も着ていない」「そのうちリメイクする」などと理由はたくさん。
二人してまだまだ生きるつもりだけど、この先あの世から迎えが来たとき誰かが片付けるわけで、私にすればそのことを考えても、一歳でも若く元気があるうちに多少でも片付けておかなくちゃって思いがある。
100歩譲って痩せたとしよう、それでも若い頃とは体形が違うのだ。
着られるはずがない。
たっこちゃんには衣装ケースを出し入れして片付ける力はないというのに、あまりしつこく言うと不機嫌になるので黙るしかない。
そんなたっこちゃんだけど、先日夕方のニュース番組を観ていたら、若者に古着が流行っているとやっていて、なにげに
「たっこちゃんの服を菅田将暉が着てくれるっていうならあげる?」
って聞いたらあっさり「いいよ」と言っていた。
なんで?ファンでもないのに、なんで?
うんと昔、数十年前に勤めていたスーパーの制服まで置いてあり、さすがにいらんやろって思ったら
「痩せたら普段着にする。新品や」
と言う。
制帽はいらんやろというと
「掃除のときに被ったらいいやん」
と言い、その日一日は当て付けるかのごとく制帽を被って過ごしていた。
そんなことがあっての翌朝、たっこちゃんが言う。
「夢に◯◯が出てきてん」
「夢に◯◯出てきたことなかったのになんでやろ」
「◯◯がおいでおいでするねん」
だと。
◯◯というのはその制帽を被って勤務していた会社の社長で、たっこちゃんにとっては夢でも会いたくない相手なのだ。
「おいでって言われて行ってたらあの世に連れていかれたかもよ」
「絶対についていったらあかんで」
よく昔から夢の中で亡くなった人に呼ばれてついていったら死ぬって言うはなしを真に受けているわけじゃないけど、ちょっと心配だから言い聞かせる。
「だいたいあんな帽子を被ったりするからやん」
「そやなあ、しまっといて」
うーん、それでも捨てるつもりはないようだ。