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ネタバレいっぱい海神再読第四十四回 終章 尚隆は何故、斡由の乱の後で元号を白雉に変えたのか。その次の元号を大元としたのか。

あらすじ:斡由の乱から十年後。王宮から抜け出す六太・尚隆に余裕な官吏たち。見降ろす下界には一面の緑野が広がっている。

●八章と終章の間

…というか、八章終わりのすぐ後で、尚隆・六太はそれまで知らなかった唯一のことを知っただろうと思う。そう、斡由と更夜が囚人を始末していたことを。
七章6・八章2後半でも書きましたが、きっかけはおそらく六太を逃した女官。六太が恩人である女官を探したら(探さないのは不自然だからきっと探した)、斡由が連れていけと命じて更夜が連れて行ってから行方がしれないことが判り、更夜の部下の大僕の証言から斡由最大の悪事が発覚する。
六太にとっては斡由の屑性が増しただけだろうけど、尚隆にはどうだったか。尚隆は斡由の死について、それまで完全には納得できてなかったんではないか。斡由が醜く振舞ったのは臣を切り離すため。そんなことをしなくても自分は誰も殺さないと伝え、斡由も理解したはずなのに、なぜ挑発して殺されようとしたのか?
その謎がやっと解ける。あれは罪から更夜を切り離し、独りで償うためだった。尚隆は愕然として納得したことだろう。
私は尚隆が天命を失っても六太を道連れにはしない論者です。何故って斡由が更夜を道連れにしなかったから。自分から道連れになっただろう更夜を斡由が突き放して生かして逝ったのだから、尚隆だって六太が一緒に逝きたいと言っても絶対に生かす。六太を死なせたら尚隆は斡由に負けちゃうからね。絶対にやらないよね。

●白沢は何故尚隆に仕えたか?

八章と終章の間にはいきなり十年がたってるんですけど、その間に起きたこととして、六官諸侯の整理が完了した、というのがある。「風の万里黎明の空」で白沢は尚隆の冢宰やってるけど、ここで尚隆の新たな朝廷の臣に加わってた可能性がある。
これね、尚隆から斡由のこと聞いてるとしか思えないのね。白沢たち元州諸官は自分の判断で斡由の謀叛に加担したんだから、たとえ尚隆が許したとしても続けて王に仕えるより仙人辞めそうに思う。諸官が志高ければなおのこと。でも尚隆が斡由を評価し看取ったと知ったなら、斡由のためにも尚隆に仕えちゃうよね。元州諸官はいきなり国府に仕えたのじゃなくて、最初は荒廃からまだ立ち直れてない州に行かされたりしたのかな。王なしで荒廃と戦い抜いた経験を生かして雁国全体に緑野を蘇らせることで逆賊の汚名を晴らしていった…と考えると大変胸熱。私は心中というのが好きでなくて、斡由が自分の目的達成のための殺人はしても、自分の死の道連れには誰もしようとしなかったのが大変好きなのです。斡由が元州諸官を道連れにしなかったが故に、三章2の元州の山野の緑が雁全体に広がった…と考えるとほんとに胸熱。

●雁史邦書

最後の雁史邦書で、斡由の姓名が接祐と判ります。祐には天の助けという意味があるから、まさに二人の王の間を接ぐ助っ人だったんだなあ。

それから、尚隆が斡由の乱のあと元号を「大化」から「白雉」に変え、八十七年後にさらに「大元」に変えて乗騎家禽の令を発して更夜との約束を守ったことが語られて物語は終わるのですが、この元号が意味深で。
最初の「大化」は日本最初の元号に倣ったんだなとわかります。次の「白雉」は日本でも「大化」の次だから倣ったとも考えられるけどしかしもう一つ。
常世では白雉は王朝の最初と最後を告げる鳥。尚隆にとって斡由の首を受け取った時が真に延王となった時だ、ということではないだろうか。
で、次の「大元」は日本の元号に倣ったものではありません。日本の元号では「白雉」の次は「朱鳥」なんだから。乗騎家禽の令を発したのが「大元」…つまり「大きな元」なんではないだろうか。更夜を不完全な歪な形ででもとにかく受け入れて生かしていた元州を、もっと大きく完全なものとしたぞ、さあ更夜、帰ってこいよ…ってことではないでしょうか。
尚隆にとって斡由はもう一人の小松尚隆。自分がやれたかもしれないことをやった分身。で、斡由にとっての尚隆は想定外の未知の理解者だったけど、でも分身でもあるんだ。斡由がやったことを拡張する者。大きいのを撫で、更夜が本当に受け入れられる国を作り、元州諸官の活躍の場を広げ、雁国全土に緑野を広げる…
この、二重の関係性がもうすごくてすごくてすごい好きです(…語彙…)。

以上で、海神再読はひとまず終わりです。ひとまず、というのは、また読み返したら新たな発見があるかもしれないから。
実は年号が「大化」から「白雉」に変わり、さらに「大元」に変わったってことの意味に気づいたのは、白銀が発表されて十二国記熱が再燃してからでした。斡由の首を受け取ったことで延王としての尚隆は始まったのかもしれない…とかずっと考えながら、気づかなかった。
書いてあるじゃないですか!「白雉」って!尚隆〜!

いや〜海神ってほんとにすごい。十二国記ってすごいです。再読しましょう、皆さん!

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