ネタバレいっぱい海神再読第十八回 四章2.六太のトラウマ
あらすじ:議論を受けて、六太と更夜は語り合う。
●六太の負い目
六太は更夜に身の上話をする。応仁の乱のトラウマのこと。王探しから三年間逃げてたこと。
ここで引っかかるのは「無為に過ごした三年の月日」「帷湍は王を責めるが本当に責任あるのは六太のほう」という独白。麒麟が王探しから逃げるのは民にとってどういう事か解ってて、うるさ型の帷湍には言わなくて更夜に言う。その頃母に捨てられて妖魔に拾われなければ生きていなかったかもしれない更夜に、自分が辛かった話として。
麒麟には天意の器として動かされる面と個人の意識があって、六太の三年間は器としては尚隆に引かれてたけど、個人としては民の願いから逃げてた。それを責めるのじゃない。十歳児の頃だし。ただ「(王がいなければ)民はかつかつでもやり直せる」(四章3)の中身が更夜みたいな子供を捨てて親が生き延びることだったと今の六太は知っているはず。なのに天意には反発しながらも個人としての自分の責と向きあえてないんじゃないか。民に負い目は感じてるのに。
負い目を感じながらその民に慈悲深い麒麟として崇められるのはしんどいだろう。六太のいちいち揶揄する言動はそのせい? 尚隆は小松を救えなかった自分が天意に選ばれた王として崇められるのはしんどいだろうと思うんだけど、これ六太と類似?分身関係?
六太の、王は駄目だが自分は天意の器で王から離れられないから、更夜が斡由に思い止まる様説得してという説得は、更夜に通じない。こういう時、自分も尚隆に治水をやるよう説得するからって言うと思うんだけど、それしないのはよほど王に絶望してて、そんな自分に正直過ぎる?
余談ですが、斡由が更夜経由で三年間のことを聞いたら麒麟不信が余計つのったかも。まあもとから不信心な奴ですが。
●更夜の事情
六太は応仁の乱のトラウマから王や権力者を嫌っている。でも更夜の言うように、悲惨ならなお人はリーダーを求めてしまうんじゃないかな。更夜がそう思うのは、斡由の強力なリーダーシップ故に自分と大きいのは人の世界にいられる、てのもあるかも。
それに更夜は六太の知らない事情を負ってるから。連続殺人を斡由と二人でやってて、斡由が全てをチャラにできる絶対権力者にならない限り、いずれ破滅するという七章5の事情を…。これも通じない説得だな。 各キャラの持っている情報の違いが物語の進行の裏にあるっての、ミステリ的でわくわくする。
●麒麟と血の穢れ
麒麟は必ずしも生まれつき万民に慈悲深い存在ではないんじゃないかなあ。天意の器なことと血の穢れ…つまり怨詛のこもった血に生理的に弱いこと以外の個人の意識では、そうでもないかもしれない。
六太が大名たちを「恨んだって仕方ない」と思ってる様に、恨みだってあるんじゃないか。麒麟=慈悲は常世の住民がそう願ってそう育ててるだけじゃないのかな…