ネタバレいっぱい海神再読第三回 一章1.作中最大の敵はこいつらじゃないの?
あらすじ:延麒六太は新王尚隆を荒廃した雁国に連れて来た。
●敵その1、荒廃。
物語は荒廃に痛めつけられた雁国の描写から始まる。
荒廃は…
・荒れ果てた緑のない大地
・崩壊した畦、崩れ焦げた石垣、瓦礫と化した里の建物…といった壊れた建造物
・火に焙られた里木だけに守られて、しかし動く力もない民
・飢えて落ちる妖魔
…というように具体的に描写されてる。
荒廃は、この話だけでなくシリーズ全体の真の敵役ではないかと思うんだけど、最もまとめて描かれてるのがこの物語のここなんじゃないかな。
も一つ、「山の緑は焼き尽くされ、川は溢れ」と川の水害についても語られてるんだよね。海神は「起きるかもしれない水害」の話でもある。
●敵その2、先王の圧政。
この荒廃の原因の一つは先王梟王。
民を虐げたとあるけどどう虐げたかというと
・王の不満を言う者があれば一族縁者に至るまでを処刑させた。
・叛乱があれば水門を開けて一里を水中に沈め、あるいは油を流し込んで火矢を放ち、嬰児に至るまでを殺し尽くした。
・押しとどめる心ある州侯を誅殺した。
・麒麟が死病の床に就くと、役夫を掻き集め、堀を掘らせて掘り上げた土砂と惨殺した役夫の死体で、見上げるほども高さのある広大な陵墓を築いた。
・死後の後宮に侍れと十三万もの女子供を殺した。
…これまた具体的に挙げられてるけど、凄まじい。
道を失った王もシリーズ通しての敵。
斡由や元州諸官が知ってる王は梟王であり、延王としての尚隆はそのイメージを塗り変えなきゃいけない。
また、王の未来の在り方として、尚隆がそうなってはいけない姿であり、斡由にとってもなんとしても否定すべき姿、そうなってはいけない姿なんだと思う。
荒廃の原因のもう一つは梟王の死後、次の麒麟が王を選べず、三十余年の生涯を閉じ、次の次の麒麟の六太が王を選ぶまで合計して五十年近く王なしであったこと。
いまやっと王たる尚隆を連れてきてみて、六太は雁の荒廃ぶりが嫌がられるんではないかと不安がってるけど、のちに出てくる尚隆の過去を考えると、尚隆自身が言ってるように、むしろ荒廃しきってるからこそ引き受けられたんだろうなあ。
六太)頼む
尚隆)任せておけ
片方が頼み、もう片方が応じるやりとりが何度も繰り返されるんだけど、これが初回。こうして物語が始まる。