ネタバレいっぱい海神再読第十七回 四章1.激論!六太と斡由と驪媚。
あらすじ:六太誘拐翌日、元州城。六太と斡由と驪媚は激しく語り合う。
●議題は王
斡由:王の治水放置への非難から始まって、太綱でさえ地方自治は認めてる。国府にやる気がないのなら州に、王にやる気がないなら官にさせよ。全権を委任する官を設けよ。
驪媚:王の圧政は天が麒麟を死なせて三年で止めるが仙である官は止められないから、天意なき官の統治は駄目。天意→麒麟→王は疑ってはならない理。
斡由:麒麟が決めた王が最善な保証はどこにある?誤った王が麒麟の死によって除かれるまで三年かかるが、なぜ雷罰ですぐ処罰しない?天帝なぞいないし必要ない。麒麟が主を選ぶ習性を人が理にしてるだけだ。
驪媚:(暴論に言葉もない。)
六太:天意でもそうでなくても王は要らない。民の主は民だけでいい。
この議論は凄く面白い。 斡由の言ってることは世界設定へのツッコミで読者としての私が知りたい事なんだよ。斡由ありがと!
一方驪媚は標準的な理を主張するけど、道を失った王を除くのに三年かかるのは何故か?とか麒麟の選定が正しい根拠は?とか問われると答えられない。梟王も麒麟が選んだ王だったけど?と突っ込まれても答えない(答えられない?)。梟王の時代からの地仙なのに…疑ってはいけないと思ってる事だから?
六太の意見は民主主義の様に聞こえるが、天意を受けないリーダーとしての斡由も否定、て事はリーダーそのものを否定してるんだな。でも荒廃ってリーダーなしで戦えるものだろうか?治水サボりへの苦言も王がリーダーやらない事への苦言のはず…と考えると余り考えずに言いたい事を言ってたのかな。
●何故説得出来なかったか
この議論、六太に限らず相手を説得しようとしてはいないよね。三者三様に自分の思いを語ってるだけ。小野作品には通じない会話がよくある。その分通じる様に話すキャラの好感度が高くなる。楽俊とか。海神では通じる説得…相手を理解し妥協点を探り再提案するといった…は、ハ章の尚隆のだけ。上手いなーと思う。
まあ説得出来なかったのには斡由の事情もある。圧制を三年で止める天意は素晴らしいと言われても、その三年間の民の処刑に憤って父に反逆したんだし、リーダーは不要と言われても、荒廃と戦った五十年間にリーダーとしての自分が不要だったとは思えんよな。梟王に忠実な父に叛いた自分に雷罰が落ちず、梟王に忠実だった他の州侯たちよりも良く元を守れたら天帝の存在を疑うよね…
ところで斡由の王への考え方が後の世の黃朱の頑丘と似てたり、麒麟への考え方が琅燦と似てるのは面白い。尊い理と崇めるのでなく、自分の頭で仕組みを見定めようとする態度。好きだわ…
この類似は斡由が五百年早過ぎた男だからか、斡由の考えが伝わったのか、共通の師とも言うべき存在が有ったのか。琅燦は斡由の妹弟子…?