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ヒーローには興味がない
園の男の子達は皆んなテレビで放送される戦隊モノに夢中。
子虎はというと、全く興味がない。
男児は戦隊モノが好きだろうという固定観念により、一度番組を見せてみた事がある。
5人ほどのヒーローが出てきて怪獣をやっつけるというお決まりのストーリーのやつだ。
見るともなしに興味があるのか無いのか。
番組はヒーローたちが協力して怪獣をやっつけるシーンへ。
すると、今まで無言でチラ見していた子虎が、
「かいじゅうぅぅぅ!!!」
と絶叫した。
どうやら子虎には正義が悪を倒すという当たり前の物語が、5人が1匹の怪獣を虐めてるように見えたらしい。
別の映画でやはりヒーローがチームとなって悪をこらしめるような場面を見て、やられた悪者の名前を絶叫していた事があった。
正義と悪。
怪獣が突如街に現れて、建物を壊してしまう。ヒーローが力を合わせて怪獣をやっつける。めでたし、めでたし。
...もしかして怪獣は一人ぼっちで寂しくて友達を探しに現れたとしたら?
壊してやる!と思って建物を破壊したのではなく、建物を壊すという行為が悪い事だなんて知らなかったら?
やっと出会えた人物に囲まれて次から次へと攻撃されたと感じでいたら?
固定観念というものが実は勝手に分かった気になって"あたりまえ"だと意識する事もなく当然の思い込みなのではないか?と少し疑問に思った出来事でした。
その後も息子はキラキラのヒーローには興味が無く、ダークヒーロー好きの男になります。
家にあった漫画「どろろ」を見て百鬼丸のアニキに憧れ、映画「ターミネーター」を見てT-800に心を奪われ、卒園アルバムの"将来の夢"というところに「ターミネーター」と書く事になります。
(他の子達は社長や電車の運転手やバレリーナなど叶いそうな夢で溢れていた)
ヤダとイイヨ
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この頃、ミュージシャンの辻仁成氏が絵本を出した。
ヤダ君を中心に描かれていて、ヤダ君の幼い心の動きがよく分かる絵本。
なんでも「ヤダ」と言って皆んなを困らせてしまうヤダ君。なんでも「イイヨ」と受け入れるイイヨ君との出会いにより、ヤダ君が成長するというストーリー。
このヤダ君がまるで子虎がモデルなのでは?というくらいヤダ君のやらかしが子虎とそっくり重なり、絵本を購入してみました。
意図としては、客観的にヤダ君を自分と重ねて、良い子のイイヨ君みたいになりたいと思ってくれないだろうか?という、視覚的効果を期待してのアプローチである。
絵本を読みながら、
「ヤダ君はどうかなー?良い子?悪い子?子虎はどう思う?」
と聞くと、
「・・・・・ダメー。」
意外と子虎が気に入って、自分で読んだり読んで貰ったりしていくうちに、2人の男の子に感情移入している様子がみられました。
ある日、一緒にお風呂に入っていた時のこと。あのね、と子虎が突然話し出した。
「あのね、ヤダ君とイイヨ君と子虎コックさんで、お料理を作るの。ヤダ君はお鍋でジュージューして、イイヨ君は人参をトントンして、子虎コックさんはキャベツをシャッシャッってするんだよー。」
3人でお料理作るの?楽しそうだねー。
「それからー、ヤダ君とイイヨ君とボクで、トリックアートに行ったんだよ。ケーブルカーにも乗ってー、「キャー!落っこちるー!」って。
ヤダ君とイイヨ君は味噌こんにゃく大好きなんだって。でもボクは苦手。そしたらヤダ君お猿さんのアメちゃん食べて「まずいー!これどうすんのー!」って言ったら、イイヨ君が「そうだ!良い事思い付いた!」って。「おばあちゃんにお土産すれば良いんだよー」って!」
少し前に家族でトリックアートに行き、とても気に入っていた子虎。アメちゃんのやり取りは、その後寄った高尾山で飴がマズイと騒ぐ子虎とお土産に持って帰ろうと言った私との実際の会話。(不味い飴をおばあちゃん(私の母)にお土産で渡そうという悪な私)
「それからヤダ君とイイヨ君も車に乗ってー、温泉に行ったの。洞窟の温泉に入ったりー、ヤダ君とイイヨ君なんて言ってる(と思う)?」
“わー楽しい~!”って言ってるよ。3人で楽しい所にいっぱい行って、子虎が連れてってくれてとっても嬉しいって。
「そう!そう!」なんて楽しそうに笑う子虎。
「それで今度はヤダ君のお家にヤダ君とイイヨ君とボクで行ったの。ボクがオモチャをお片づけするとー、ヤダ君もオモチャお片づけしてくれるんだよ。
…そうすれば、ヤダ君もイイヨ君になれるんだよ。」
ハッとした。
みんなに悪い子と言われているヤダ君を子虎はずっと放っておけなかったんだ。
ヤダ君だって本当はイイヨ君になりたいと思っているのかもしれない。でも自分の中にヤダとイイヨが存在して葛藤していて、心の中では大人が考えるよりもっともっと複雑なのだろう。
子虎はヤダ君をずっと気に掛けていたらしい。みんなに“いけない子・悪い子”と言われるヤダ君を。
「そっかー。そうすればヤダ君だってイイヨ君になれるんだね。子虎が一緒に遊んでくれたり、子虎がオモチャを片付けたりすると、ヤダ君もちゃんと出来る様になって、イイヨ君みたいになれるんだね。」
「そうそう!そうなんだよー!」
と嬉しそうに笑う子虎。
明日から子虎がイイヨ君になったかというとそんな事は無い。
しかし、子虎の中にも悪い行いは悪い事としての認識があること。それでも悪を断罪するのではなく、友達になって仲良く過ごして一緒に笑って。そうしてヤダ君がイイヨ君になれるようにと願う気持ちが、もしかして自分もそうなると良いなと思っているのだろうかと思う出来事でした。
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