蟻との日々
明石ゆみ(17)は冷たいコンクリートに紙を置き、抑えきれない感情をぶつける様にペンを一心不乱に走らせた。
拝啓、お母さん。お元気ですか?
私は元気です。
今日、やっと17歳になりました。学年は高校2年生です。
お母さんに大きくなった私と会ってほしかったです。
これは叶わぬ願い、というモノですね。
私の学校生活はとても平凡で楽しい日々でした。
新しい友達もたくさん出来ました。
私は友達という定義がまだよくわかっていませんが、周りは皆私のことを友達だと思ってくれているみたいです。
今日はお母さんに報告があり、手紙を綴っています。
私は先日、蟻を殺してしまいました。
あの蟻は、とてもとても小さい虫でした。
蚊ですら殺せなかった臆病者の私は、いつの間にか蟻を殺せるようになりました。
理由としましては、少し苛苛していたからです。
今年に入ってからどうも自分の感情が抑えられないのです。
思春期、というやつでしょうか。
でも死んだらお母さんみたいにもう会えなくなる、というのはわかっていました。
わかっていて、やりました。
そのあまりにも小さく醜い蟻と、もう会いたくなかったからです。
私は今、冷たく暗い箱の中でこの手紙を綴っています。
私は自分がいけないことをしたからこの場にいる事はわかります。
しかし、
あの出来事のなにがいけない事だったのか、考えても考えても未だにわかりません。
もっと世界は平和であってほしい、あるべきだ、と願って止みません。
お母さん、今、そちらは幸せですか?
私の身体は、あの頃より汚く、赤と紫と苔色の斑点模様が身体中をまるで絵画の様に埋めつくしています。
汚く、とても醜い気分です。
でも先日蟻が居なくなりましたので、あの頃より断然、今は幸せです。
と、思うようにしています。
お母さん。
今すぐ会いに行きたいです。
明石ゆみ(17)
2020/08/11 槭川キキ