病を撒く妖怪
人々が妖怪の仕業で病に伏すというような伝説は沢山残っている。「怨念が災いをもたらす」の項に出てきた菅原道真公や玉藻前もこれに当たるが今回は別の角度から切りとるとする。
病気にする妖怪といえば鵺(ぬえ)なんか有名だろう。
猿の顔、狸の胴体、虎の手足、蛇の尻尾を持つ伝説の妖怪であり、夜な夜な清涼殿に黒煙と共に「ヒョーヒョー」という鳴き声が聞こえ、その恐ろしさについに二条天皇は病に伏してしまう。これを怪物の仕業とし、側近達は怪物退治で有名な源頼政に退治を命じた。そしてある夜、家来を連れ立って天皇の元へ行くと清涼殿は黒煙に包まれていた。すかさず頼政は黒煙に向かい矢を射ると黒煙から獣が二条城の辺りに落ちてきたため頼政の部下がとどめを刺し、遺骸は鴨川に流された。
病といえば牛頭天王も有名である。
牛の頭を持つ恐ろしい見た目で恐れられた牛頭天王はある日、人語を話す鳩に案内され八大龍王の娘の下へと向かうことになる。旅の途中、宿を求めた牛頭天王はその辺りの長者である古単将来に泊めてくれるよう頼むが古単将来はこれを拒否、しかし、古単将来の兄で貧しい蘇民将来は牛頭天王に宿を貸して粟飯を振る舞った。牛頭天王はそれに感謝し蘇民将来になんでも願いのかなう牛玉を授けて旅立ち、無事に八大龍王の娘を娶った。それから少しして、牛頭天王は故郷に帰ることとなり、その際に古単将来を眷属達に殺させたという。そして蘇民将来の娘に「蘇民将来之子孫也」の護符をつければ災厄を避けられると教えたそうだ。牛頭天王は災厄の神とされ八坂神社では流行り病が京都の町に広がる度に大祓えが執り行われたとされる。
虎狼狸なんて妖怪も病気を撒くそうだ。虎狼狸は江戸の終わりに出た妖怪で名の通り虎と狼、狸が混ざったような見た目で人を病にしようと取り憑くが病から回復した人物の家からは出ていくようである。
さて、これらの妖怪や神には共通点がある。病を発生させる点で、流行り病を妖怪や神の仕業としたことで物語は生まれたのである。ちなみに牛頭天王は平安京で流行っていた天然痘を沈めたとして疫病退散の神としても名が知られている。