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故郷が知らない町になっていた

 私は滋賀県の湖南という方の出身で現住地からそこまで遠い場所ではないから度々帰っているのだが知らない人だらけになってしまっていて悲しい。
 昔は祭りに行けば知り合いがいて女性と歩いていたらちょっかいをかけたものだがしかし、今は祭りに行っても知る顔はおらず、一緒に祭りに行った友人が唯一知っている顔であった。幼少期のほとんどを過ごしたこの町だが、大学を卒業してからも居残るような輩は居やがらないくらいには辺鄙な場所だ。交通の便も悪く、子育て世代には住み良いらしいが大人になってまで居たいと思えない場所だ。
 それでも好きだった、顔なじみと会えたらよいと思って祭り会場まで足を運んだが右を見ても左を見ても知らぬ顔だらけ、同級生に会って昔のあんなことやこんなこと、若かったなぁという話をしたかったがあいつらは故郷の祭りなんぞに来るほど故郷に思い入れがなかったらしい。
 まだ一個下の奴らは大学生であるはずだがそいつらも祭りに来るほど暇じゃないらしい。
 土地としては変わらないし昔よく行っていた神社も変わらずそこにあって店も同じところにある。ちょっと寂れた商店街は昔と比べればいくつか店は閉まったけれど変わらずそこにある、商店街の大看板も取り外されたけどそこにある、でも知ってる人がいないのだ。
 ちょっとノスタルジーに浸りたかっただけなのだ。今が嫌いとかそういうわけじゃないけど過去には何物にも代えがたい価値がある。昔懐かしのあのクソみたいな殴りたくなるような顔を見たかったのだ。別にあんまり仲良くなかったし、よくバカにされたあいつの顔を見たかった。
 帰れる場所じゃなくなっていたような気がしてちょっとショックを受けた。みんながいるから帰ろうかなとなるわけだがもう知っている顔はないのだから安心して今の現住地の人達との仲を深めようかと思う。

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