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永久(とわ)の星よ。愛しい星よ。#クリスマス金曜トワイライト 周回遅れのリライトしてみた。

教会のステンドグラスから入る光に包まれながら、あなたの体温を感じていた。中はまだ少し肌寒かったけど、手袋越しではなく直に触れてる、あなたの左手とわたしの右手。聖なる夜の調べを聴きながらも、そのじんわりとした「温かさ」に意識が向いている。あなたもそうだといいなと、聖母マリア像を前に少し罰当たりなことを考えていた。

***

新卒で入った大手デザイン会社の仕事にだいぶ慣れてきた頃、インテリアデザイナーとしてすでに独り立ちしていた先輩に誘われた。2年上の先輩は自信も実力も情熱も、周りがどう背伸びしても届かないほど輝いていた。あの頃、わたしは憧れと恋心のないまぜになった気持ちを持てあましていた。

わたしと先輩の他にはインターンの学生しかいない事務所で、インテリアデザインに関わる全てのことをこなす。歯車の一つではなく、自分で人生を動かしているといえば聞こえはいい。でも大手の看板なしで仕事をすることの想像以上の厳しさを、転職そうそうに思い知らされた。

そんな日々の中、見つけたスタンドコーヒー屋。馴染みのなかったこの街に、一つお気に入りの場所ができた。頻繁に来るわけじゃない。それでもしばらくすると、バリスタのお兄さんの「いらっしゃいませ」に親しみの音がまじるようになった。この街に受け入れられたようで張っていた心がゆるむ。

また春が巡ってきた。気分を変えたくて新しい自転車を買った。少し派手かなと思ったボディの朱色が私を別人にする。週末の早朝、新しい相棒との初乗りにでかけた。

昨夜の喧騒がウソのように、ひっそりと時が動き出すのを待っている。聞こえるのは、鳥のさえずりと一定のリズムで回るタイヤの音だけ。夜明けの空気が、ひんやりと風となって耳元を駆け抜けていく。

この世に自分だけが存在している錯覚におちいる。

なにも考えずに、ただひたすらペダルを踏み続ける。目的があったわけではない。ただ、自分の力で、力だけで前へ前へと進んで行きたかった。ひとり静けさの中を。誰にもじゃまされない至極のジカン。

いつの間にか、自然とあのコーヒー屋を目指していた。

週末の朝早くから開いている、早朝ライダー/ランナーのオアシス。人影のない道の先にコーヒースタンドの無機質なフォルムが姿をあらわす。

ラッキー!一番乗り〜。ペダルに込める力に勢いがついて加速する。その勢いにまかせてゴールしたわたしの目に、見かけない男性の姿が飛び込んできた。死角で気づかなかったが、先客がいた。ロードバイクで鍛えていますという風体。

「いらっしゃいませ」

コーヒー屋のお兄さんが「いつもの?」と、私にほほ笑む。その常連感に気持ちが上がる。

「その赤、いいですね」

コーヒーマシンの音が響くなか、ロードレーサー(仮)は、わたしの自転車をしきりと褒めた。親しげに話しかけてきた彼には申し訳ないが、初めて会った人と話すのは苦手。だからカフェラテを飲み終わると長居は無用とばかりに、あっさりその場を後にした。

その頃のわたしは、人間関係を新しくゼロから構築する心の余裕を失くしつつあった。

***

先輩に「君が頼りだから」と言われるたびに、それが誇張だとしてもかまわないくらいに頑張った。寝る間も惜しみ、休日返上で走り回った。クライアントの二転三転する要求にも嫌な顔一つせず、答えた。

それが当たり前だと思っていた。世の中が全てそうして回っていたから。がむしゃらに働くことが正義だった。先輩の役に立ちたい。認めてもらいたい。その想いだけで突き進んだ。

プライベートはないも同然。せっかく新調したのに、自転車はあれっきり所在なげにガレージに置かれたまま。

そんなある日、先輩がインテリアデザインコンペの話を持ってきた。前職の時は所属チームで参加したこともある。自分の力量のなさを思い知ったから、それ以降はエントリーしていなかった。ここ数年はそれどころじゃないほどの仕事量だったし。

入賞すれば、わたしも自分の名前で仕事をもらえるかもしれない。今のクライアントとの関係は先輩が築いてきたものだ。その恩恵に甘えてばかりいられない。わたしなんかを引き上げてくれた先輩に、もっと貢献できるかもしれない。

自分の力を試してみたいという願望もあった。今は先輩について学んでいる立場。でも、結果を出せば仕事のパートナーとして認めてもらえるかもしれない。対等な存在になれるかもしれない。

それに、最近は先輩もわたしのことを後輩以上に思ってくれている気がする。学生の頃から、ずっと心の奥に秘めていたピンク色の想いも伝えられるかもしれない。これまでは自信がなったけど、入賞したら頑張ってみようか。そんな独りよがりな考えがナキニシモアラズ。

そんな訳で、先輩とわたしは別々にエントリーした。事務所としてではなく。いわゆるライバル同士ってやつ。「まあ、そうはいっても、いつでも相談してくれればいいからな」そう言って笑う先輩はいつも通りで、その笑顔の奥にあんな闇を隠していたなんて思わなかった。

コンペ作品提出まであと一週間ほどになったある日、高熱で寝込んでしまった。ここのところ担当している複雑な案件やコンペに出す作品製作で睡眠時間を削りに削り、食事もまともに取っていなかった。さすがに無理が祟ったのだろう。コンペどころの話ではない。とにかくベッドで大人しく回復するのを待つしかなかった。

提出するデザイン自体は、ほとんど完成していた。出来上がりも満足のいくものだったと自負している。もう少し微調整をしたかったのだけど、仕方がない。ただ、それを事務に置いたまま休んでしまった。送るにしても職場に行かないといけない。

締め切り前日、治りかけの身体を押して出勤した。今から速達で送れば間に合うかもしれない。そう思ったからだ。でも、ありがたいことに先輩が自分の作品と一緒に送ってくれていた。「ざっと見た感じ完成してたし、いつ復帰できるか分からなかったし。ついでだっただけ」とのこと。何がどこにあるのか自分でも分かっていないくらいモノが積み上がっている机から、よく探せたなと感心してしまった。

そのまま病み上がりの身体を騙しだまし動かしながら、仕事を再開した。休んでいる間にたまってしまった案件が半端ない量で、それ以外のことを考える暇は皆無だった。コンペの結果が発表されることも、いつ発表されるかも、すっかり頭から抜け落ちていた。

朝早く、誰もいない事務所のパソコンで資料をまとめていると、スマホを手にしたインターン生が飛び込んできた。

「所長、この前のコンペで最優秀賞を獲ったみたいですよ!!」

この時やっと、そういえば結果が出る頃だったなと思い出した。見せてもらったスマホの画面には、本当に先輩の名前が一番上に載っていた。「すごい!すごい!」とインターン生と手を取り合って飛び跳ねる。久しぶりの明るい話題に事務所内が華やいだ。

「所長が帰ってきたら、祝賀会しましょうよ!」

インターン生はさっそく居酒屋を検索している。先輩はチェーン店より小料理屋とかの方が好きだと思うよ。いつが良いですかね?せっかくだから俺ら以外にも声をかけますか?。。。と、当の本人をそっちのけで盛り上がる。

あいにく先輩は数日前から出張中で事務所にはいなかった。古くから付き合いのある有名デザイナーに会いに長崎まで行っているのだ。

・・・と聞いていたのだが。


***

サイトには、昨日行われた授賞式の様子が速報で載っていた。授賞式の会場は、東京の某所。ページのトップに、満面の笑みでトロフィーを受け取る先輩がいた。

帰ってきてたのかな?と不思議に思いながら、最優秀賞の作品を見たとたん、胸の奥にヒュッと冷たいものが刺さった。

「え・・・・・?」

時が止まる。

声が出てこない。

いやな感じの汗がにじむ。

インターン生が訝しげにこちらを見ているのが分かったが、気を回している余裕はなかった。

「ちょっと、出てくる・・・」

それだけ言うと、ハンドバッグを肩に引っ掛けて外に出る。

まぶしい太陽の光に、あたりが白く包まれる。明るい秋晴れの日。街路樹も色づいていたことだろう。でも、その時のわたしの目には何もかもが灰色に映っていた。

近くの公園の自動販売機で缶コーヒーを買い、その横のベンチに腰を落ちつけた。とりあえず、詰めていた息を吐き出す。缶の中身を口に含むと、水っぽい苦味が口に広がる。例のスタンドコーヒー屋のカフェラテとは雲泥の差だ。そう思うことすら億劫で、色のついた水をただ機械的に口に運ぶ。

それでも缶が空っぽになる頃には、思考がほんの少しだけ戻ってきた。バッグの中からスマホを取り出すことができるくらいには。自然に指が動いて画面を操作する。さっき目にしたモノが信じられなくて、怖いもの見たさでもう一度確かめてみることにした。

でも、事実は変わらなかった。

最優秀作品はどこをどう切り取っても、わたしが出したはずの作品に酷似していた。この数ヶ月、殺人的なスケジュールの合間をぬって、出せるだけの知恵と力をしぼってやっと完成させたものに。。。いや、アレを生み出したわたしだから分かる。まったくの同一作品。

「盗作・・・」

頭によぎった、その二文字の現実味のなさに震える。頭が、心が、それを受け入れることを拒否していた。これ以上、直視できない。スマホをバッグの奥深くに突っ込む。それでも、画面の中の笑顔が脳裏に焼きついて離れない。

気がついたら、自宅に戻っていた。放心状態でリビングの床にぺたんと座り込んでいた。どこをどう歩いたのか記憶にない。

スマホを見ると、事務所から着信が何度もあった。きっと、突然いなくなってしまったわたしを心配してインターンの彼がかけてきてくれたのだろう。でも、折り返せるだけの元気がない。

信頼していた上司、尊敬していた師匠、憧れていた先輩、恋心を抱いていた男性。わたしが知っている先輩はこんなことをする人ではなかった。たまたまアイディアがかぶったのだ。気を抜くとそう思いたくなるわたしは、ずぶずぶに甘いのだろう。

明後日には出勤する予定の先輩に何を言えばいいのか分からなかった。疑いを抱いたまま、お祝いの言葉なんて言えるはずもない。糾弾するにも証拠となるデータは全て事務所のパソコンの中だ。泣き寝入りになるのは分かっていた。でも、もう顔も見たくなかった。

その日から、わたしは家から一歩も出れなくなった。受け持っていた案件は、インターンの子に資料を持ってきてもらって、できるものはナントカ片付けた。残りは先輩に丸投げした。無責任かもしれない。でも、それがわたしの精一杯だった。仕返ししたいという気持ちもあったかもしれない。

コンペのことは、いっさい口にしなかった。先輩もわたしも。間に入ることになってしまったインターンの子には悪いと思ったけど、もう先輩にも事務所にも関わりたくなかった。

そのまま退職した。

そのあとは、燃え尽き症候群のように何をする気も起きなかった。ただ眠り、ほとんど誰にも会わず、生存維持のためだけの食事をして、一日一日が通り過ぎていくのを、他人事のように傍観していた。

馬車馬のように働いてきたおかげで、収入がなくても細々と生活できるぐらいの貯金はあったのが幸いだった。生きているだけましというような暮らし。

田舎の家族や親しい友達は、そんなわたしを心配してくれた。その気持ちはありがたかった。ただ、会って話をしたりする気にはならなかった。ひとりが孤独だと感じる心すらなかった。

それでも地球は自転し、朝になると太陽が昇り、夜空には星が瞬く。どんな状況でも平等に時は流れる。事務所を飛び出したあの日から、いつの間にか四季がひと回りしていた。

***

ふと、開かずの扉と化していたカーテンの隙間から茜色の光がさした。思わずカーテンも窓も全開にする。向かいに立ち並ぶマンションの隙間から西の空が濃く深く赤に染まっているのが見えた。その鮮やかな色に心を撃たれたわたしの鼻先を、金木犀の香りがふんわりと掠めた。

(うん。外に出てみよう)

髪を軽くとかし、のろのろとパジャマを着替える。ガレージの自転車は一年以上放置されていたせいで、ボディが白くぼやけてしまっていた。その姿はまるで、恨めしそうにこちらを見上げる子犬のよう。ごめんねと言うように、丁寧にほこりを払う。

以前の赤さが戻った自転車を押すと、キイっという音とともにタイヤが回る。久しぶりで体力もなくなっているから、ゆっくりと無理しないように走り始めた。

秋の風が頬に当たって後ろに流れていく。まわりの景色に色がある。自然のキャンバスに秋が広がっている。ハンドルのグリップをぎゅっと握ると、その弾力が手に伝わってくる。

忘れていた五感の感覚がだんだんと戻ってきていた。生きてる。

家から10分ぐらい走ったところで、ひらけた芝生広場に出た。向こう側が斜面になって下がっているおかげで、今いる場所が高台のよう。目の前には茜色が広がっていた。さっきよりも夜の気配がする。消える前の一瞬だけ勢いを取り戻す炎のように、夕陽が空を燃やす。

わたしは、ただその場所に佇んでいた。

自転車のハンドルに手を置いたまま、一言も発せず、一歩も動かず。それでも、この一年間ひと針も動こうとしなかった「時計の針」が、再び時を刻んでいるのを実感した。

空が紫色に包まれる頃、ようやく家に戻ることにした。サドルに足をかけた時、恐る恐るという感じで後ろから声がかかった。

「あの。大丈夫ですか?」

自分以外の人がいたことに驚いて、後ろを振り向く。

「ダイジョウブデス」

久しぶりに出した声はかすれてしまい、言葉を習いたてのアンドロイドのよう。いや、本物のアンドロイドなんて見たことも聞いたことはないけど。

すると、その人が「あっ」と声をあげた。「えっ?」と、そこでようやく相手の顔をじっくりと見る。どこかで会ったことのあるような。。。でも、誰なのか全く思い出せない。知り合いだったのかすら記憶にない。

わたしが困った顔をしていたからだろうか、彼はゆっくりと言葉を繋いだ。落ち着いた低い声が胸の奥にすんなりと入ってくる。

「以前、スタンドコーヒー屋の前でお会いしましたね」

素敵な赤色で、すぐに分かりましたよ。私の自転車を指差して、笑みを浮かべる。まるで懐かしい知り合いに出会ったかのように、朱色のボディを眺めている。

自分の自転車とその人を交互に見ながら、記憶の糸をたぐる。過去のワンシーンが頭に浮かび、そこから連想された言葉が思わず口から飛び出した。

「あ、ロードレーサー(仮)の人。。。」

「(仮)ってwww」

その人は苦笑しながらも、気を悪くした様子はなさそうだ。自転車にも乗ってないし、競技用のウェアも着ていないし、思い出してもらえただけでも嬉しいです。彼は名前を名乗った後、そういって本当に自転車ロードレースに出場するプロの選手なんだと教えてくれた。

「まあ、スポンサーがつけばの話ですけどね」

色々あるんだろうなと思わせる呟きをもらすと、「それでも、ただ前に進むだけです」と自分自身に言い聞かせるように一言。顔を上げて、空に瞬く星をじっと見つめる横顔に強い意志を感じた。

お腹、空きませんか?

わたしに向けた笑顔が街灯の光に反射していた。いつの間にか夜が深まっていた。

そういえば、今日はずっと何も食べていなかったな。というか、それまでも、ほとんど食欲はなかったけど。

***

グ〜〜〜。

わたしが口を開くよりも先に、お腹の虫が返事をした。久しぶりに自転車に乗って、身体を動かしたからだろうか。身体がエネルギーを欲していることに、胸をなでおろした。まだ浮き上がる力は残っていた。

ほぼ初対面なのに、彼がまとっている明るさにもう少し触れていたくなった。胃にやさしいものなら・・・というわたしを、知り合いの店だといって、こじんまりとしたバルに連れて行ってくれた。カウンターと数席のテーブルしかない。

そこはお酒にあうツマミの他に、隠れメニューでたまご雑炊とかチキンスープとか、わたしでも食べられそうなものもあった。オーナーが元管理栄養士で、体調が悪そうな客にはお酒じゃなくて、そっちを出すんだという。元気になってから飲みに来てくださいね。そう言うオーナーは田舎の母か看護師のようだ。最近では疲れがたまってくると隠れメニューだけ食べにくる常連客までいるそうだ。

たまご雑炊のやさしい味が身体の中に染み渡る。

あぁ。。。食べ物が美味しいと感じられることに安堵した。向かい側に座ってクラフトビールを飲んでいた彼が、そんなわたしに微笑みつつ、少し心配そうな視線を向けた。

「前にお会いした時より、ほっそりされてませんか?食べれてますか?」

女性にこんなことを聞くのは失礼かもしれませんが。そう言いながら尋ねる彼の優しさに、ふと今までのことを話したくなった。でも、会って間もない人に話すことではないなと、首元まで出そうになった言葉を引っ込める。

何がどうしてそうなったかよく分からないうちに、彼がわたしに食事を届けてくれることになった。一人分を作るのも二人分を作るのもそんなに変わりませんからと半ば強引に話を決めてしまった。でも、その押しの強さがイヤじゃないと感じたのは、彼の人柄のせいだろうか。

彼はそれから、週に何回か手作りの料理を持ってきてくれた。アスリートらしく身体のことを考えた料理の数々に、だんだん力が戻ってきているのが分かった。身体が元気になると、自然と心も復活してくるようだ。先輩のこともコンペのことも少しずつ過去のことになっていった。

彼が出場するロードレースを毎回応援にいくようになった。仕事のことで悩んで、結果がなかなか出ないことに苦しんで、それでも前を向いて必死に走る彼の姿に少し眩しさを感じた。素直に応援したいと思った。

彼と一緒に暮らすようになった。その頃には、もう一度インテリアデザインに関わってみようという気になっていた。幸い、以前勤めていた会社の元上司がどこからかわたしの現状を耳にしたらしく、声をかけてくれた。新卒で入社した時から何かにつけて気にかけてくれて、辞めると決めた時も「いつでも戻っておいで」と送り出してくれた人だ。こんなわたしなのにどうして?と聞くと、そんな君だからだよとサラッと返答がくる。涙が止まらなかった。

ああ、なにもかも失ったと思ったけど、全然そんなことはなかった。

今、わたしの周りには優しさをくれる人たちがいる。勇気をくれる人たちがいる。強さを与えてくれる人たちがいる。

だから、わたしもそれに答えたい。

だから、わたしも同じように与えたい。

そう思えるまで回復したのは、やっぱり彼の手料理と夢に向かって頑張る姿のおかげだ。これまでの傷を癒してくれたのは、彼の優しさ。そして、わたしの生きる原動力になったのは、たまに見せる彼の弱さ。

***

わたしはわたしで人生を創っていくから、あなたもあなたの道を行けばいい。

恒星が自らのエネルギーで輝くように、幸せは自分の中から発光させることができるハズ。わたしがあなたの星になるなら、あなたはわたしの星になる。照らした夜空の下で、わたしたちはきっと進む道を見失わない。

そうして、二人でゆっくりと歩いていけばいい。

クリスマスの夜、聖歌を子守唄がわりにして、あなたがわたしの肩に寄りかかる。きっと仕事を頑張りすぎて疲れてしまったのだろう。それでも、わたしとの時間を大切にしたいと、ここに来たのだろう。そして上手く立ち回れない不甲斐なさに自分を責めることになるのだろう。

でもね、あなたはそこにいるだけで、わたしに力をくれるんだよ。あなたが与えてくれる愛が、わたしに自信をくれるんだよ。あなたの完璧じゃないところに、それでも前を向いて進む姿に、わたしは惚れているんだよ。

気持ちよさそうに眠るあなたの手を握る。あなたの体温がわたしに流れる。こうして一緒にいられる時がずっと続けばいいと願う。

クリスマス礼拝が終わり、目を覚ましたあなたは申し訳なさそうにしている。そんなあなたが可愛くて思わず微笑んでしまった。

教会を後にして、二人の行きつけとなったバルへ向かう。一瞬、つないだままの手が、さらにぎゅっと握ってくる。

見上げると、あなたの顔は、ほんのり高揚していたね。なぜか緊張しているようだったから、大丈夫だよとあなたの手を握り返したの。まさか、あんなことを計画していたとは想像していなかったけど。

あなたに会えてよかった。出会ってくれてありがとう。

バルへ向かう二人の歩みに、幸せの音色が届く。


〜 Fin. 〜


こちらの作品をリライトさせていただきました。

書きはじめたのが遅かったので、締め切りがとっくに過ぎた後ですいません。選考等には間に合いませんが、せっかくなので周回遅れのリライトとして公開させてください。

【追記】

Q:なぜその作品をリライトに選んだのか
A:4作品の中で、いちばん想像力をかき立てるストーリーだったから。この彼女はなぜこうも穏やかなんだろう。なぜこうも愛に溢れているのだろう。それなのになぜ再会した時の彼女は痩せ細っていたのだろう。自分の中に浮かんだ疑問に答えてみたくてリライトに挑戦しました。

Q:どこにフォーカスしてリライトしたのか
A:主人公と彼女の出会いと二度目に会った彼女の身体的変化の理由を通して、上記の疑問を解き明かすつもりで書きました。本編ではさらりと触れているだけのシーンなので、大幅なスピンオフという感じになってしまいました。「恋愛文章愛があればOK」という池松さんの言葉を信じて突き進んだ結果です。笑

腰を落ち着けてパソコンに向かう気力のない毎日で、noteもすっかり読み専に。ただ、Twitterに流れてくるnoterさんのリライト作品に触れるたび、刺激されたのでしょうか。なりを潜めていた「書きたい」という想いが戻ってきました。読むのも好きですが、書くのも同じくらい楽しいと気づく機会になりました。ありがとうございました。


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