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第2回 作って造って創って・鈴木美愉

しぜんなガッコウの連載記事(第2回目)です。第1回目の記事はこちら↑

書き手:鈴木美愉(すずきみゆ)2001年栃木県生まれ、18歳。
栃木県立宇都宮白楊高校 食品科学科(通称:食科)卒業。
宇都宮大学農学部1年。
宇都宮白楊高校には、農業科・工業科・商業科・家庭科の4つの大学科があります。農業科には農業経営学科、生物工学科、食品科学科、農業工学科。工業科には情報技術科。商業科には流通経済科。家庭科には服飾デザイン科があります。幅広い知識と技術を身につけた産業人を育成するための総合選択制専門高校です。

地域とつながる部活

 宇都宮白楊高校には、食品科学科の生徒しか入部できない特別な部活がある。

その名は食品科学部(通称:食科部)。部員は約40人ほどだ。パンや焼き菓子を大量生産し、イベントなどで販売している。

「今日、パン生地50グラムね~!」
「もうでるよ~!」
様々な掛け声が飛び交う。決しておしとやかにお料理をする部活ではない。

イベント用のパンはあんぱん(つぶ・こし)、クリームパン、チョコパン、焼きカレーパンなどなど。いちご大福、シュークリーム、わらび餅、マカロンをつくったこともあった。

1日かけて200~300個を製造。材料は数キロ単位だ。混合のタイミングも重要なため、本当に文化部か?ってぐらいに声を出して確認し合う。

ある男子部員は力持ちで、みんなから工場長と呼ばれて頼りにされていた。販売する食品を製造する時は、慣れない長靴で1日中作業する。足腰が痛くなるが皆で耐える。体力も精神も鍛えられる部活だ。

イベントがない普段の活動では、パンの品質を上げるために試作を繰りかえし、学科の授業では取り扱われない種類のパン、ケーキも作る。製造実習の回数と時間が授業の何倍も多く取れるので、とても人気の部活だ。そんな食科部で私は部長を務めた。

小さな先生

私は部活の前は必ず予習を行った。参考書や教科書を何冊か使って、調べたことが正しいか照らし合わせた。ちょっとだけ、先生みたいな気分だった。1つの工程の仕組みを調べるだけでも大変だったのに、毎日授業のある先生方はどれだけ努力されているのだろう。

部活のたびに、食材に関する豆知識を部員に伝えていた。ただ手順どおり作るだけでなく、面白いという気持ちを持って取り組むことができるのではないかと思ったからだ。

特にウキウキするのは、食品科学科の授業で学んだことが部活で活かせる時だ。フランスパンの切れ目(クープという)を付ける理由を学んだあとに、実際に部活で作る。パンの香りの正体、パンの焼き目の正体、発酵の仕組み、パウンドケーキで薄力粉をこねすぎるとどうなるのか。

授業で学んだことを実際に自分の体験として結びつける。座学で仕組みはわかっていても加減はわからない。失敗を繰り返すことも面白い。

「食」はコミュニケーション

食科部では地域の方を招いて一緒に調理をする機会があった。これはチャンスだ!と思い、白楊で採れたブルーベリーを使った企画を考えることにした。

食品科学科には管理しているブルーベリー畑がある。夏に果実を収穫し、秋には根元にワラを敷き詰める。ブルーベリーの根は地表近くに浅く張っているため、藁で覆うことで冬季の乾燥から根を守ることができる。

地域のご年配の方が対象だったため、ブルーベリーが入ったベーグルをつくることにした。ベーグルは発酵の時間が普通のパンより短いため家でも手軽に作れる。また、ベーグルの良さはあの独特の噛み応え。噛むことの大切さを交えた食育についても話せると思った。

よく噛むことは消化吸収が良くなるだけでなく、美容やアンチエイジング、虫歯予防、薄毛予防などさまざまな良いことがある。

ベーグルを手で捏ねる作業では、楽しそうに生地と触れ合っている様子が見られた。捏ねあがった生地はとっても可愛い。焼く前に生地をお湯に入れて茹でるというベーグル独特の工程がある。パンの不思議に触れる一場面だ。

焼き上がったら一緒に試食した。焼き立てのパンの味は格別だ。終了後には私たち高校生と話せたことが楽しかったとの言葉をかけていただき、喜んで手作りパンを持ち帰っていただいた。良いものができ、自分たちとの関わりで喜んでもらえた時は私たちも嬉しくて力になる。

「ただ作るだけじゃつまらないっ」私の目標も達成できた。もっとバージョンアップさせていろいろな体験会をしてみたいと思えた。

どんどんつながっていく

他にも、親子対象イベントでは、学校で作ったいちごジャム入りのパウンドケーキを作った。収穫やジャム製造の様子をスライドショーにまとめた。普通なら知ることのできない食品科学科の裏側を見せることができた。地域の子供たちに、白楊高校食品科学科に興味を持ってもらえたらいいな。

※現在、ジュニアキャリアアドバイザー事業(小、中、高校生が一緒にものづくりや調理を行う)は行なっていません。

そして、文化祭は食科部の集大成とも言える大きなイベント。パウンドケーキ3種と7色のスノーボールクッキーを製造した。7色の理由は、白楊の7学科の文化祭のテーマに合わせた。文化祭当日は毎年大人気で長蛇の列ができる。

並ぶ時間も楽しんでほしい、食科部についてもっと知ってほしいと思い、列ができる壁一面に食科部の写真と説明を散らばせた。食品を扱う私たちは腸内細菌検査も行う。また、ディスポキャップやマスクを徹底して装着する。

そんな私達の取り組みも発信した。並んでいる人を横目に見ると「いろんな種類のパン作るのね~」「細菌検査もやってるのね~」「へぇそうなんだ」「実習着着てると凛々しいね~」という声が聞こえてきた。作戦大成功。

販売の時はいつもそうだが、我が子を嫁に出すような気持ちが強まる。この部活ではありがたいことに、地域の方と繋がる機会がたくさんある。責任のある行動をしなければ。定期的な腸内細菌検査も安全管理の大切な義務だ。

最後の仕事

部長最後の仕事は、学科の枠を超えた企画を行った。「食と農を結ぶ」を意識して、農業経営科が栽培したほうれん草を使わせてもらい、他学科の生徒と一緒に、総菜パンを作る会を企画・実行した。

ほうれん草ペーストを作る時、フードプロセッサーではなく、普段使わなさそうなすり鉢を使うところもこだわった。当日はたくさんの人が参加してくれた。ほうれん草の収穫は前日に私たち部員が行った。

他学科の生徒には、ほうれん草についてちょっとしたクイズも出しながら交流した。目標としていた、食と農を結ぶことに近づくことができたと思う。

授業で学んで抱いた思いに、食科部で挑戦できた。食科部の時間は私たちにいろいろな挑戦をする機会を与えてくれた。部活を通して、地域の方、他学科の生徒とも交流できた。やはり食は人とのつながりも作り出す素敵なものだ。

次回は最終回。食だけでなく農に強く興味を持った理由、そこから宇都宮大学農学部を進路選択するまでについてご紹介します。
お楽しみに。


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