02_室田泰文さん「17歳の頃、なにしてました?」
夏だけはできる特別な体験
すごくラッキーなことだったんだけど、小学生の頃、夏休みに長野県の野尻湖の別荘に出かけていて。1ヶ月ちょっとくらい、従妹の家族と僕の家族で共同生活みたいなことをしていたんだよね。子どもは9人くらいいてね。
山の中にあってすごく自然豊かなところだったんだよね。目の前に湖があったから、朝の5時くらいに起きて釣りに行ったり、テニスをして暑くなったら泳ぎに行ったり。そんな1日を過ごしていて、それがすごく楽しかった。
実家は神奈川で、おばあちゃんは東京に住んでいたし、田舎との関わりはそこしかなかったんだよね。普段はできないけれど、夏だけはできる特別な体験。あれは本当に良かった。ああいう体験が子どもの頃にあると、「最悪やばかったら緑の中で暮らします」みたいな心構えにつながるよね。
修行とポテトチップス
高校に入ってから友達に誘われてバドミントン部に入ったんだよね。入ってみたら、「まずはランニング7㎞してきて」みたいな。僕はもう「な、7㎞⁉」って感じだった。走りに行ったんだけど走れなかった。
友達は元柔道部だったからすごく余裕そうに走っていて。それを見て、自分が情けなく思ったというか。ちょっと運動したいと思ったんだよね。それで、本格的なトレーニングを始めた。
部活で「男子は8本走って」とか言われた時、みんなはブーブー言うじゃん。でも自分はその時、「12本走るぞ」って考えるんだよね。しかも部活終わってからも家でトレーニングをしてた。精神的にも苦しいんだけど、「ここで負けてはいけない」みたいな気持ちが強くなったんだよね。で、気づくと頭の中で声がするようになったんだよね。
自転車通学だったんだけど、部活でめちゃくちゃ疲れているのに、帰りは上り坂なのね。その途中に分かれ道があって。楽な道ともっと坂を上らなきゃいけない道。そこで声がする。「精神修行中のお前はどっちの道を行くのかは自明である」みたいなね。
もう僕は死にそうになっているんだけど、毎回つらい道を選んでいた(笑)。それを続けていたら、体を壊してドクターストップがかかった。階段も上れなくなっちゃって。もうパーでしょ。あんなに頑張ったのに、二足歩行で上れないんだよね。ジャンプもできないし、腰をひねるとびりびりした。走ることもできなくて。
他の人からしたら「あのトレーニングはなんだったの」って感じだったと思う(笑)。でも、自分の中では「ぼろぼろになりながらも楽な方を選ばない精神力があるのは素晴らしい!」って思っているような高校生でしたね。トレーニングで忙しかったけど、クラスの人とあんまり話さなかったのが今となっては残念かな。
それで3年生になったら周りが英単語帳を広げだしたんだよね。よくよく考えたら、高校行ったらそれで終わりじゃなくて就職とか大学進学とかがあるわけだ。それで、就職よりは大学がいいかなと思った。でも、もっと考えたら大学に進むためには試験を受けなきゃいけない。僕は当時テストで5点とかを取っていたんだけど、それで入れる大学はない(笑)。
で、勉強は別にやりたくはなかったんでけど。周りを見るとみんな嫌々勉強をしているんだよね。それを見て「何だこのだらけた奴らは!こんなの修行に比べたらなんてことない」って僕は考えた。しかも、僕は5点とか8点しか取っていなかったんだけど、そんな奴が急に100点を取ったり、学年で1位になったりしたらちょっと面白いんじゃないかと。
それでスイッチが入ったかな。勉強がつらいからやらない、みたいな選択肢を捨ててやり続けていたら右手が腱鞘炎になっちゃって。でも結果、左手でも書けるようになった(笑)。
そんな学校生活の中で、朝に海岸を走っていたら、ポテトチップスの袋が落ちているのを目にしてね。それがなんとなく嫌だなーって感じた。でも、「なんでポテチの袋が落ちているのが嫌なんだろう」と考えた。だって、砂も落ちているし、流木や貝も落ちているのにそれは嫌だと思わない。
なんで気になるんだろうと考え続けたら、砂とか流木は循環しているものの一部だから違和感がないのかもしれない、と気づいたんだよね。だから、ポテトチップスの袋とかも循環してさえいれば僕も嫌じゃないかもしれないと思った。例えば、ポイっと捨てても5日後に土に還っちゃうような袋とかを作ることができたら面白いんじゃないかな、とひらめいたんだよね。
で、自分が思い描いているような研究ができる研究室が京都大学にあったんだよね。それで、京都大学を目指すことにしました。僕はもともと自然が好きだったから、自然環境の保護に役立つような研究ができたらいいな、みたいな思いはずっとあったかな。
(第3回に続きます)
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