わたしには「地元」がない
私には「地元」がない。
東京で生まれ、何度か都内を転々とした。幼稚園も小学校も家から遠く、毎日電車に揺られる生活だった。
近所に友達がいないから、遊び方が分からない。本を読んだり空想したり勉強したり、少し静かな幼少期を過ごした。
中学時代は引っ越しを繰り返し、3つの中学校に通った。
どんな場所でも人とは仲良くなれたけれど、やっぱりひとり遊びは得意なままだった。
そして、気がついたら大学生になっていた。
一番長く住んでいる「地元」は、ただ家があるだけ。挨拶をする知り合いすらいない。
これは果たして地元と呼べるのだろうか?
少し散歩をしただけで、全く知らない道が表れる。
馴染みの飲食店も、小さいころからの私を知る大人もいない。
それでも私は昔から、夜中に家を抜け出しては、近くの河原に寝そべって星を眺める。
お腹が空いたら、焼き鳥を食べに行く。
隣の席に座った人とは、さも知り合いかのように話すし、帰り際にはいきなり他人に戻る。
「誰も私を知らない」という事実になんだかほっとしてしまう自分がいる。
「地元」ってなんだろう。
人と話すことは大好きだけど、その時間が長く続くと疲れてしまう。
だから、気が向けばすぐにその場から逃げ出してしまう。
そして、私はそんなマイペースさがあまり嫌いじゃない。
20歳になるまでマイペースに生きられたのは、ひとりでいることを咎めない、誰も自分を知らないこの地に救われていたからではないだろうか。
「何者」かであることが絶対条件であるこの世界で、唯一「何者」でもないことを許してくれる場所。
それがわたしの地元であり、心の拠り所なのかもしれない。
あなたにとっての地元ってなんですか。
(文・影山莉央)
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