良き名人、良き友人、良き生き方
※こちらの記事は「聞き書き甲子園」事務局による連載となります。
全国約80名の高校生が、「名人」(林業家や漁師、伝統工芸士など)を訪ね、一対一でインタビューをする「聞き書き甲子園」。そもそも、こちらの「列島ききがきノート」もそのOB・OGが立ち上げたチームです。
昨年はコロナ禍で休止していましたが、今年は工夫を凝らして、聞き書き甲子園を開催する予定です。今回で20年目となる当プログラムに参加する高校生の応募が始まっています!(6/24締切です!詳細はこちら)
この連載では、過去の参加者たちの体験談をご紹介しています。参加を考えている皆さん、「聞き書き甲子園ってなんだろう」と思った皆さん、ご覧ください。
今回の記事は、聞き書き甲子園8期生の山崎さんを、17期生の福島さんが「聞き書き」して執筆しました。
話し手:山崎 朋子(やまざき ともこ)
高校2年生で第8回森の”聞き書き甲子園”に参加し、埼玉県の竹細工の名人を取材。現在は鹿児島県にて小学校の教員を務めている。
聞き手:福島 拓実(ふくしま たくみ)
国立鹿屋体育大学体育学部スポーツ総合過程1年。高校1年生の時に第17回聞き書き甲子園に参加し、奈良県の三宝(神事にするお供え物を置く台)づくりの名人を取材。その後も学生スタッフとして継続的に聞き書きに関わる。大学ではサッカー部で分析スタッフをしている。
◎自己紹介
山崎朋子です。東京都出身で1992年10月17日生まれの28歳です。現在は鹿児島県で小学校教師をしています。父も教師で、中学生の頃に「人生を1本の木に例えたら、小学校時代は根の部分。根がしっかり張られた木はどんなことがあってもまっすぐ伸びる。」と言われて。私も人生の土台作りのお手伝いがしたいなと思って小学校の先生になりました。
◎「森」に惹かれて
私が聞き書き甲子園に参加したのは第8期(2009年度)です。高校2年生の時に参加しました。それから第9期と第11期で学生スタッフをしました。聞き書き甲子園に参加したきっかけは学校の校外活動のポスターをどんなのがあるかなっていろいろ眺めていたら、聞き書き甲子園のポスターがあって、見た瞬間に出たいって思ったんだよね。その日に先生にお願いして申し込んだんだ。小さい時から自然が好きで聞き書き甲子園の緑色のポスターに憧れたんだよね。
↑ 第8回森の"聞き書き甲子園"のポスター
あと、私が参加した時は「森の"聞き書き甲子園"」だったのね。なんかその「森」に惹かれて参加したな。山登りが好きで小さい頃からいろいろな山登らせてもらってたんだ。私、クリスチャンなんだけど、自然のいろんな緑を見るとこの世界を創造された神様の素晴らしさを感じるし、自分の存在が小さいなって思うの。でもね、小さな自分でも愛されて生かされているんだなって喜びも感じるから、小さい時から自然に行くのが好きだったの。
◎私の名人
私が取材したのは埼玉県日高市高麗にいらっしゃる65歳の竹細工職人の新井さんです。高校を卒業してからずっと竹細工職人をしてる人だった。竹を曲げるのは難しいからって、竹細工の機械も自分で作っててね、家の隣には小さい竹の小屋があった。ストーブの薪も竹で、珍しくて面白かった。竹をほんとに大切にしていて竹への愛を感じたの。「日本は湿気があって雨風や寒暖差、台風とかとにかくいろんなものを乗り越えてるから日本の竹は1番だ。日本の竹は世界一なんだ。美しいんだ」って。
今ではもう有名だけど竹炭と熊手を最初に作ったの新井さんなんだよ。それはね、「何かいいの作ってやろう」じゃなくて「竹はいいものだから何か他にも使えるんじゃないかなあ」って。その竹を大切に思うばかりに、いろいろ考えてしまって、どんどんいろんなものを開発してたって言うのがかっこいいなって思ったの。小さな作業をコツコツと重ねて、努力して。昔は竹カゴとか、生活になくてはならないものだからバンバン売れたのが、段々ダンボールとかビニール袋とか、運ぶのに安くて簡単なものが出るようになって、お客さんがいなくなっちゃって、そこからこの竹炭とか熊手を考えたりしたんだよ。
↑ 山崎さんと名人
熊手を作って、それを東京の高幡不動尊に持って行ったんだって。そしたら「こんなの売れませんよ」って言われて、でも「タダでいいから貰ってください」って言ったら、なんと300本があっという間に売れて、それで来年もお願いしますってなったんだって。
名人は「世の中で賞賛を浴びてるのは学者さんとか警察官とか教授とかそういう風に偉い人達だけど、世の中にはこの貧しいながらもそんな派手じゃないけどこつこつと地道にこの仕事をしている職人たちがいる。楽しく仕事してそういう人たちにもっと光を当てて欲しい」っておっしゃっててそれも心に残ってるな。名人が語る言葉、それが高校生の私には大きかったんだよね。そういう考え方があるんだ。そういう生き方があるんだ。って教えていただいたな。
だから私、聞き書きと言えば、いい出会いがありますっていうの。「私の名人」って言えるって嬉しいよね。おじいちゃんじゃないんだけど、すごく大切な人だなって思う。今でもね竹とか、竹細工をみると名人のことを思い出すんだよね。あと、小学校教師だから社会の授業で、森を守るとか伝統工芸を守る職人さんとか見るんだけどその時思い出すよね、『あー新井さん元気かなー』って。この仕事は名人の代で終わりなんだって。昔はその地域で20人くらい居た竹細工職人も今はその名人さんだけになってね。だから私ね、竹細工職人さんにはならなかったけど小学校教師にはなったから、名人が伝えたいことは私が伝えていかなきゃって思って、子供たちに話すんだ。
↑ 小学校の先生として働いている山崎さん
完成した作品を名人に送った時、すごく喜んでくださったのは覚えてるな。自分のやってきたことを若い人にこんなに沢山聞いてもらってほんとに嬉しいって。あと、2回くらい手紙もくださった。取材行って3年、4年後くらいだったかな。「いまでも山崎さんにうちに来てもらってお話聞いてもらって自分の生きてきた人生とか考えとかを、文章に示してもらってほんとに、嬉しかったです」っていう手紙を頂いて良かったなって思った。「こちらがありがとうでございます」だけどね。
◎聞き書きは、聞いて「人」のために書く
書き起こしは辛かった。何故かと言うと、パソコンに対して慣れてなかったから。あと、取材行く時はすっごい緊張して、心臓とかドクンドクンってなってたの。でも、学生スタッフの人とはマメに連絡してたから安心だったね。書き起こしが辛い時もスタッフと電話して「大丈夫、がんばれ!」って言ってもらったりして頑張れたな。いい青春だよね。「優しい青春」っていうか。
↑ 大学生になった山崎さんは、学生スタッフとして高校生のサポート役を務めました。夏の研修の際のスタッフミーティングの様子。
聞き書き甲子園で身につけたのは聞く力ですね。聞くって人とのコミュニケーションで一番大事だと思うんだよね。自分のことを伝えるじゃなく、相手のことを受け止めて相手のことを知る。あんなに人の人生について聞けたのが良かったなって思う。聞く力は大切。話を聞いて自分の感じたことを自分の心に入れて噛み砕いて、そこから「名人はこういう生き方をしてるんだ」とか「私もじゃあこれからこういう生き方をしていきたいな」とか、それはあの取材の時にたくさん経験させてもらったなと思う。
あと、言葉をそのまま書き起こした話し言葉と文章の書き言葉って違うから、自分が下手に編集したら名人の言葉が軽くなっちゃうんだよね。そういう恐怖もあって、どっちの言葉がいいんだろうっていっぱい考えた。「人のために文章を書く」経験がいい経験だったなと思う。それは大学生とか大人になってもしていくものだからね。やっぱり聞くことが出来ないと、子供たちもそーだけど、自分中心的になっちゃうよね。
◎人との出会いに生かされて
聞き書き甲子園の良いところは、友達が取材した名人の話も聞けることだね。8期の作品集は今でも大切に持ってる。友達もたくさんできたな。夏の研修会後は半年くらいみんなのことが頭から離れなくて、授業中とかも友達のことばっかり考えてた。「りな元気してるかなー」とか「かな何してるんだろー」とか。なんかみんなの名前をノートに書いたりしてた(笑)会ってないけどね、今でも連絡取り合ってる子達もいるよ。
同じ期じゃなくてもスタッフとか共存(注:聞き書き甲子園の卒業生が活動しているNPO法人共存の森ネットワークのこと)で繋がりがある人達だったらざっくり15人くらい。関わってる一番下の子で四つ下、上が2つ上。違う期の人たちと今でも繋がりあるっていうのがね。良い友達ができたことにほんと感謝してる。
今年に入ってから、リモート新年会をしたんだけど、20時に始めて、深夜3時くらいに終わったんだよね。ずっと喋って語り合ったんだ。真面目過ぎず、でもふざけ過ぎず、居心地が良い関係。ほんとみんなに会えて感謝だなって。みんなで「久々なのにいつも会ってるみたいに話せるの不思議だよねー」とか、「聞き書きってほかのコミュニティにはない仲間意識ができるよねー」とかみんなで話したね。
↑ 2021年に行なわれたリモート新年会の様子。北海道から鹿児島まで、年齢もバラバラのメンバーが、数年ぶりに集まりました。
◎高校生へのメッセージ
私の大学の先生が言ってたんだけど、「良き師に出会うこと、良き友人に出会うこと、良き思想に出会うこと」これが出来たらその大学で過ごす目的が出来たって仰ってたの。その言葉が好きだからね使わせてもらうね。「良き名人、良き友人、良き生き方」に出会えます。あなたの人生のビッグイベントになるはず。大好きな名人にあなたも出会えますよ。迷ったら参加するべきです。絶対マイナスにはなりません。
ありがとうございます。 列島ききがきノートの取材エリアは北海道から沖縄まで。聞きたい、伝えたい、残したいコトバはたくさんあります。各地での取材にかかる交通費、宿泊費などに使わせて頂きます。そして、またその足跡をnoteで書いていければ。