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【最終回】上村祐翔のゆうゆうレポート 第77回「縁起」
うえむら・ゆうと●10月23日生まれ/埼玉県出身/劇団ひまわり所属/主な出演作品は、「多数欠」(成田実篤)、「きのこいぬ」(夕闇ほたる)、「シャドウバースF」(天竜ライト)ほか。
撮影●尾形正茂
スタイリング●村田友哉
ヘアメイク●福島加奈子
2024年、師走。体温調節の難しい、年末進行の真っただ中。ひと息付きながら作業をしようと入ったのは、お気に入りの某ハンバーガーショップだ。
注文を終え席に着き、ぼうっと店内を見渡すと一枚のポスターに目を留めた。そこには、このお店が誕生して30周年を迎えたことが記されていた。
よく通ってきたこのお店。まさか自分と同世代だったとは驚くべきこと。新たな発見に心が躍り、胸がぽっとあたたかくなった。なんだか心強い。寒さが少し和らいだ感覚。「30周年おめでとうございます、これからも同世代として末永くよろしくお願いします」と心の中で唱えた。
日常の中にふとした発見はあるもの。忙しない日々だからこそゆったりとした歩調で、時には立ち止まってみる。そういう場面でこそ気付けることがあり、自分の世界を広げてくれることもある。そんなふうにして、この一年を今僕は思い返している。
強く心に残っている景色がある。それは、地元の思い出の場所を巡ったときのこと。土手での散歩について。
現在放送中のTVアニメ「きのこいぬ」で僕は夕闇ほたる役として参加している。絵本作家であるほたるは、最愛の家族・はなこという愛犬を亡くし、仕事にも人との関わり合いにも消極的になってしまう。落ち込んで塞ぎこんでしまったところに“きのこいぬ”なる不思議な生物が現れ、ほたるの暗い世界に明るい変化が訪れる……といったハートフルな物語だ。
オーディションでほたる役に決定したと連絡をいただいたとき、嬉しさと共に安心感を覚えたことが記憶に残っている。彼には、どこか縁を感じていたからだ。
自分自身、愛犬を飼っていた経験がある。小学生のころから大人になるまでずっとそばにいてくれた大切な存在だった。嬉しいことも悲しいことも、あらゆることを共有してきた家族である。ほたると僕の全ての境遇が同じわけではないけれど、感情の深い部分で重なり合えると感じていたのだった。
そんな思いを持って臨んだ収録は、自分と向き合うことのできたかけがえのない時間となった。自然体で穏やかで素敵なキャストの皆様、登場人物をより愛らしく描こうと熱い姿勢で取り組んでくれたスタッフの皆様のおかげで、とてもあたたかい作品になった。そして僕も、僕らしいほたる役を全うできたように思う。
その報告がしたくて、仕事が落ち着いた12月某日、僕は愛犬たちの墓参りに出向いた。今年の終わりに、どうしてもお礼を言いたかった。
手を合わせ、彼らと会話をした。実際には話すことはできないけど、きっと心は通っているはず。感謝の気持ちを伝えると、心がすっと軽やかに。「よいお年を」と付け加え、その場を後にした。
その足で僕は、かつて一緒に散歩をした近くの土手に足を運んだ。寒い冬の夕暮れ時。鮮やかなオレンジに包まれる中、穏やかな気持ちで眼前に広がる光景を眺めていると、いろんなことを思い出した。そして、取り留めもなく自分の記憶を辿っていったのだった。
あの辺でボール投げして遊んだな。川に向かって石投げて水切りしたり、フリスビーしたり。よく走っていたな。ああ、剣道部の皆で花火とかも見たな。豪雨の直後で虹が出てきて、花火と虹でめちゃくちゃ綺麗だったわ。てか、土手で素振りしていたなあ。竹刀担いでその辺に荷物置いて。むしゃくしゃしたり嫌なことあったりしたとき、無我夢中で振り下ろしていたな。ずいぶん前のことだけど、意外と覚えているものだ。どんなふうに感じていたのか、何が心を占めていたのか。大人になっても、根っこは変わらず、やっぱり自分は自分なのかな。
青春時代に思いを馳せていると、辺りは仄暗い雰囲気になっていた。先ほどまで歩いてきた道を振り返れば、青とオレンジの混ざった綺麗なマジックアワー。明るいようで暗いような、なんとも言い表すことのできない不思議な景色。混ざり合うその様は、空の色全てが正しいものであることを優しく主張しているみたいに思えた。
たくさんの経験とこれまでの繋がりが自分を形作っている。出会い、別れ、新しい気持ちに触れ、前に進んでいく。その全てが大切で、一つ一つが連なっている。グラデーションのように、人生は続いていく。
気を緩やかに、絶えず進んでいこうと思えた時間だった。その先にある縁起に淡い期待をしながら。考え、立ち止まり、もがく僕の役者人生は、まだまだ続いていく。
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印象的な景色をパシャリ。土手での散歩の最中、この景色が僕の目の前にありました。綺麗なだけでなくどこか背中を押してくれているような強さも感じられるマジックアワーです。共有できてよかったです!
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「上村祐翔のゆうゆうレポート」最終回に寄せて
上村祐翔 メッセージ
ここまで「上村祐翔のゆうゆうレポート」をご覧いただきましてありがとうございました! 「エッセイとは何だ?」と、大学のレポートを書くような感覚で始まった「ゆうレポ」も皆様のおかげでここまで長く続けることができました。毎月自分を見つめ直して文字に起こし、それを皆様に届けるという一連の流れ。拙い文章ではありますが、何かを受け取っていただけたらなと思いながらの執筆作業はとても幸せな時間でした。
最終回というのはやはり寂しいもので、なんともしんみりしてしまいます。あまり実感も湧かないというのが正直なところです。ですが、ゆるやかに考えてアウトプットしていくというサイクルは僕の中では消えません。そこで得た学びがきっと、お芝居だったり人との関わり合いだったりに生きていくものだと思います。そんな思いから今回の「縁起」というエッセイで締め括ろうと思い、自分らしく書いてみました。もちろん“演技”とのダブルミーニングです。ゆうレポ作成を通して成長できた僕ですが、より深みのある人間になれるように頑張りたいと思います。
皆様の心に、これからもあたたかでゆうゆうとした時間が流れますように。本当にありがとうございました。またどこかで会いましょう!
上村祐翔