回顧

 まだ二十歳にもなっていない、田舎の端っこで自転車を飛ばして学校へ行き、友達とくだらない会話をしては自転車を飛ばす毎日を送っていたころの僕はやはり今よりも青く、戻れるならばあのころに戻りたいと思わせる何かを持っていた。
 これといった才能も無く、無知で自己中心的でそのくせプライドだけは高かった。思春期の男の子らしく周りにちやほやされたくて勉強もスポーツもそれなりにがんばってみたが結局のところどれも中途半端で、自分の器用さには気づかされたけれど高いプライドのせいで自分に満足することはできず、同時に「まだやれる」みたいな根拠のない自信だけが渦巻いていた。余力を残している方がなぜかかっこいいような気がしてなにかに全力を尽くすことはできなかったし、実際のところ他を圧倒するような努力を継続できるタイプの人間でもなかった。自分が周りにどう見られているかばかり気にしていて、よく見られるためだけに行動していたと言っても過言ではない。
 それでもあのころは楽しかった。今が楽しくないというわけではないのだが、今とは全く違う種類の楽しさがあの頃にはあった。なんというか、無知ゆえに何も考えなくて良かったし、瞬間瞬間が面白ければそれでよかったというような感じ。将来のことを真剣に考えているふりをして、実は何も考えていなかったし、小学生や中学生だった頃の自分たちの奔放さを振り返って羨んでいるようで、実際はそうやって過去に浸る時間そのものを楽しんでいた。今より多くの人と嫌でも長い時間を一緒に過ごさねばならなかったし、それゆえ僕たちはお互いのことを深く知っていた。快も不快もあったがどれも誰かと共有することができて、結果的にはプラスに働いた。

 たぶん今より不安みたいなものが少なくて、というか友達と話しているうちにそういった類の感情は忘れることができたのだろう。高校は特に、良くも悪くも同じような人たちの集まりだったのでみんな悩みも似ていたし、大した悩みではなかったのだ。今は色々な人に囲まれて、それはそれで刺激的でいいんだけれど、どこか昔のような人間関係ではなくなっている感じがする。今は今で楽しいのだが、時折昔に戻りたくなるのはどこか自分の悩みが積み重なっているからなのかもしれないが、今のところはそれが何なのかよくわからない。

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