魔剣使いのリリィさん③
チュンチュン…
朝の光がカーテンの隙間から入り込んでいる。
小鳥の声がさえずり、私はゆっくりと目を開けた。
よく寝たなぁ…。
私はふと寝ているベッドに目を向ける。
さてフェーンはよく寝れたかな…ん!?
なにやら大きなものがいる。
フェーン?
姿を変えたの?
私はモゾモゾと動いてその大きなものにかかっていた毛布を外した。
「!?」
そして私は思わず驚愕した。
声も出ない。
なんと私の横にいたのは、1人の男の子だった。
黒髪の獣人の少年。
歳の頃は17.6歳くらい。
私は慌ててまたその子に毛布をかける。
ど、どゆこと!?
私は焦っていた。
まさか知らない少年と私がひとつのベッドに寝てるなんて!
「うーん…」
少年が目を覚ます。
「あ、おはよおお姉ちゃん」
可愛いらしい声で少年が言った。
「あ、あなた誰!?なんでここにいるの!?」
私は焦りも極みで、少年に問いかけた。
「何言ってるの?僕たち昨日一緒に寝たじゃないか。僕フェーンだよ?」
へ???
私は混乱していた。
もしかしてこの子、フェーンの人型の姿!?
「あなた!フェーンなの!?」
「そうだよー。あ、この姿は初めてか」
フェーンはもぞもぞと動いて私の目の前に顔を近づける。
「僕は人型にもなれるんだよ?お姉ちゃん、びっくりした?」
「そ、それは…!」
「僕もこの姿になるの久しぶりなんだ。本当にリラックスしてないとなれないからさぁ。」
私は眠そうに目をこするフェーンを見ながら、声も出なかった。
朝起きたら見知らぬ少年と一緒に寝ていたのだ、頭も混乱する。
「フェーン、これからは人型になる時はちゃんと言ってちょうだい。びっくりしたじゃないの。もう。」
「はーい!わかったぁ!」
元気良くフェーンが答えた。
ふあぁ、本当にビックリしたぁ…
私はドキドキする胸を抑えつつベッドから出る。
フェーンの姿は可愛らしい少年だった。
犬の耳が付いてる以外は普通の人間の姿だ。
私は慌ててキッチンに行くと水を飲む。
はぁ、もう本当に…!
「フェーン!何か服を用意するから着てくれない?」
私はクローゼットから大きめのシャツを取り出した。
そしてベッドにいるフェーンに渡す。
「あなたの洋服、買いに行かないといけないね。」
「ありがとうお姉ちゃん!」
よく見るとフェーンのお尻にはふさふさの黒い尻尾が生えていた。
フェーンが喜ぶたびにパタパタと尻尾が揺れる。
私はなんだかキュンとしてしまった。
可愛い…!
しかしすぐに我に帰る。
いかんいかん!フェーンは私の使い魔なのよ!
可愛いけど!
私の気持ちを知ったか知らずか、シャツを着たフェーンはにっこりと笑った。
再び子犬の姿になったフェーンを連れて、私たちは街へと出た。
フェーンのために必要な物を買うのだ。
まぁ洋服が何着かいるだろうし、ご飯も用意してあげないと。
遊び道具とかは…まぁ子犬の時だけね、必要なのは。
私はフェーンと共にお店に立ち寄り、必要な物を買った。
そして帰りながら冷たいコーヒーを飲む。
ストローで吸ってるうちに、コーヒーは氷だけになった。
私は家の門を潜ると、そこにいた来客にビックリした。「ライオット!?」
「よぉ」
そこにいたのは1人の男だった。
名前はライオット・ルブラン、21歳。
私のかつてのパーティの仲間だった。
私は何度かライオットたちと共にダンジョンを攻略している。
ライオットは茶色の髪を短く刈り上げた、とても体格の大きな男だ。
瞳の色はブルー。
なかなかのイケメンで、国の女子たちの中にはファンになっている子もいるくらいだ。
ジョブは聖騎士。
魔剣使いの私とは正反対の属性だ。
光の魔法も使え、剣の腕も立つ。
長身のライオットは私を見るとニコッと笑っていた。
人懐こい笑みだ。
私も笑いながらかつての仲間との再会に嬉しくなった。
「噂を聞いたんだが」
「なんのこと?」
話し始めたライオットに、私はキョトンとして聞き返した。
「魔物を使い魔にしたそうじゃないか。またレベルが上がったようだな。」
「あら?そのこと?ずいぶん噂になるのが早いのね」
私はゆっくりと家の扉を開けた。
「とにかく立ち話もなんでしょ、入って。冷たい飲み物をお出しするわ。」
私の後からライオットは家の中に身を屈めて入ってきた。
「で、その使い魔はどこなんだ?」
キョロキョロと部屋の中を見回す。
私はクスッと笑って、私の肩にしがみついている子犬の姿のフェーンを見せた。
「この子よ!」
「!?」
ライオットが驚いた様な顔をする。
「この犬が魔物なのか!?こんなちびっこい…」
ワンっと鳴いて、フェーンは床に降りた。
そしてその姿が光に包まれる。
驚くライオット。
フェーンは人型の姿になった。
慌てて私は買ってきた洋服をフェーンに渡す。
「ほら!これを着て!」
「はーい!お姉ちゃん!」
たたっとフェーンは洋服を持って寝室に入った。
ポカンとするライオット。
「なんだぁ!?人型になれるのか!?」
「そうみたい、私も驚いたわ」
そう言いつつライオットに席を勧める。
ライオットはゆっくりと椅子に腰掛けるとまだ若干驚き顔で言った。
「相変わらず規格外だな、お前は。獣人を使い魔にするとか。とんでもないやつだな!」
「あら?褒めてるつもりなの?」
馬鹿!とライオットは笑いながら呟いた。
そして私は彼の前に冷たいコーヒーを出してあげる。
「で、どうしたの?聖騎士様。私に何か用があって来たんでしょ?」
私がそう切り出すと、ライオットは若干渋い表情になった。
「あぁ、まぁな。お前に頼み事があって来た。」
「なんなの?もしかしてダンジョンにでも入るの?」
「当たりだ」
ライオットは少し笑って
「しかし今回の探索は最深部まで潜るつもりだ。そこで腕の立つ人間に片っ端から声をかけている。お前さんにもな、リリィ。」
私はゆっくりとため息をついた。
そうか、ダンジョン探索か。
私はしばらくダンジョンに潜ってはいない。
最後に入った時は3ヶ月前…。
「来てくれるか?リリィ。」
「少し考えさせてくれる?」
私はライオットにそう返事をした。
ライオットの表情が若干曇った。
「そうだったな…あんなことがあったんじゃあな」
ライオットもため息をついた。
私はゆっくりと彼の正面に座った。
ダンジョンで何があったのか。
今から思い出したくないことを思い出すハメになったのだった…。
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