ラ・マンチャの男(幻のファイナル公演)  観劇記録

2023.4.22(Sut)
横須賀芸術劇場で「ラ・マンチャの男」を観劇してきた。
昨年、2022年2月の公演を観劇する予定だったが、自身がコロナに感染し、あんなに楽しみにしていたのに…と思っていたところ、観劇予定日当日に公演スタッフにも感染者が出たことにより、公演自体が中止。その後の公演も中止となり、千秋楽も迎えることなく、半世紀以上演じてきた遍歴の旅が世界的パンデミックにより幕を閉じてしまった。
自身が観ることができなかった無念さやもっと早く舞台に出会えていたら、もっと早くラマンチャの存在を知ることが出来ていたら….とただただ悲しみに暮れていた。しかし、それ以上に「最後の旅」とまで命付け、限りなく素晴らしいものを作ろうとしていたに違いないラマンチャカンパニーのことを思うと、なんとしてでも大勢の観客の前で有終の美を飾って欲しいと願わざるを得なかった。
そんなある日、願いが叶った。
本当の最後の旅が、10公演限定で開催が決定した。
今回こそは、何としてでも観に行かなくてはならない。無心になってチケットを申し込むも全て惨敗。一般先行でも秒で売り切れ。それでも何かしら手に入れることができないかと血眼になって探していたところ、最後にCNプレイガイド様の抽選申し込みがあり、これも厳しいだろうと正直思いながら申し込みをした結果、「お席のご用意ができました。」のメールで歓喜。
神は自分に味方してくれたと人生で初めて感じた時だった。

そしてついに観劇当日を迎えた。
やっと観ることができる。
どの舞台でも同じ瞬間はない、同じ公演はないというが、ラマンチャの場合今後見ることは絶対にできない。目に焼き付けなければならないと強く思っていた。
席は4階席だったが、いざ座ってみると意外と近い。オーケストラのチューニングが行われ、刻一刻と開演時間に迫っていく。


感想は、感無量だった。
あらゆる感情に襲われ、自分がどんな感情なのかすら認識できていなかった。
こんな素晴らしいものに出会えた感動だったのか、
こんな素晴らしいものを今世ではもうみることができない悲しみだったのか、
いつの間にか自分の人生に見切りをつけ過ごしていた怒りだったのか、
ただ自分の感情の器が溢れ続け、充足感さえ感じていた気がする。

セルバンテスを演じる松本白鸚様は、正直老いを感じさせていた。でもそれは、松本白鸚としてではなく、セルバンテスとしての姿だった。
役に生き、役に溶け、松本白鸚としての姿を見せたのは、カーテンコールの時のみだった。
セルバンテスの体が思うように動かなくとも、その目・その声が遥か遠く見果てぬ夢に真っ直ぐに向かっていた。
アルドンザを演じる松たか子さんは、言わずもがな。
圧倒的すぎた。
立ち回りながらとか座りながらでも、あの声量と綺麗な歌声は本当にすごくて、吸い込まれてしまいそうだった。
安宿のあ○ずれではなく、麗しの姫ドルシネアは綺麗だった。
本当にビジュアルが良すぎる。途中きついシーンもあったけど、本当に良かった。(推し補正かかってるのは許してください。)
サンチョ役の駒田さんも「ああ〜!(語彙力)」って感じで、ひたすらご主人についていくのがもう良すぎた。何かが好き・嫌いっていちいち理由を求められることが多いなって思うけど、「直感的に好きだからついていく。」って理由にならないかもしれないけど、一番大切にしなければならない感情だと思うし、それに対してキホーテも理解して、絶大な信頼関係が気づかれるのって素敵。
牢名主の上条さんもお歳を召されているにも関わらず、所々コミカルに進め進めてるのが好きになってしまいそうだった。(中休憩とか真面目なシーンのはずの騎士の称号を与えるとことか…)
床屋の祖父江さんも同じように面白くて、タイムリーな話題も挟み込みながら、楽しくて引き込まれた。
博士の伊原さんも終始キチガイ老人と見下しながらも、正気に戻してやろうと動き、正気に戻った後にはそれ以上苦しめさせたくないような優しさも垣間見えた気がする。
神父役の石鍋さんもアントニア役の実咲さんも家政婦の荒井さんもマリア役の白木さんもペドロ役の大塚さんも皆さんも素晴らしくて、世界観にどんどん引き込まれていきました。
あと、ロバ!(雑)可愛すぎる。あと自分も松さんに撫でられたい。

キホーテ以外、現実に見切りをつけ、夢ばかり見ている老人をバカにしていたものが、少しずつ動かされていくところが見えてくる。
厳しすぎる経験をしてきた故、夢ばかり見て逃げているように見えるも、
それでも見続けなければ苦しい日々を打破することは到底難しい。
周囲に嘲笑されても、己が目指すものがあるのであればそこに向かい続けることが己にしか歩むことのできない人生になるのではないかと思わされた。
まだ負けちゃいないし、まだやめてはいけないと背中を押してもらえたような気がした。

つらつらと書いてしまったが、間違いなく観ることができて良かった。出会うことができて良かった。
1969年に始まり、54年 通算1324回の内たった1回ではあるが、その1回に立ち会えたことは本当に光栄なことだと思う。
素敵な巡り合わせに心の底から感謝しています。

松本白鸚様を筆頭に、1324回の公演のキャストの皆様、オーケストラの皆様、スタッフの皆様、劇場関係者の皆様、本当に素晴らしい演劇を届けて下さり、ありがとうございました。
一度幕を閉じた物語をファイナル公演として復活させてくださり本当にありがとうございます。
そして、お疲れ様でした。




ラ・マンチャの男とともに 見果てぬ夢へ 

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