【LAD】大谷翔平と得点圏
どうも、こんにちは。雨宿りです。
今回は得点圏での大谷翔平について書いていきます。というのも今季好スタートを切った大谷翔平ですが、得点圏での凡退が目立っており、打ってほしい場面でなかなか結果を出せていません。
この数字を見るだけでも、いかに今季の大谷がここまで得点圏で打てていないのかがわかります。では、大谷が得点圏で結果を残せていないのは単なる偶然にすぎないのでしょうか?それとも何か原因があるのでしょうか?今回はこの件について検証してみたいと思います。
もともと得点圏が苦手なわけではない
先ほど紹介したように今季の大谷は得点圏でとことん打てていませんが、もともと得点圏が苦手な選手ではありません。エンジェルス時代の2021年〜2023年シーズンでの得点圏成績を見てみると以下の通り。
この3シーズンにおいては、走者なしの場面よりも得点圏での成績の方が優秀です。つまり大谷は得点圏が苦手でないどころか、むしろ得意であるということです。ではなぜ今季はここまで全くと言っていいほど結果が残せていないのでしょうか。
何か原因があるのか?
もともと得点圏が得意な選手であるだけに、ドジャースファンからすればこの現状は非常にもどかしいです。もちろんまだシーズンの序盤であることは考慮されるべきだとは思いますし、この不調が"たまたま"な可能性も十分あります。ただ、不調の原因があるにしろないにしろ、検証すること自体にはきっと価値があるはずです。
アグレッシブすぎるアプローチ?
大谷の得点圏問題でよく言われるのが「アグレッシブすぎるアプローチ」です。簡単に言えば、「初球(早いカウント)から積極的に打ちすぎ」ということです。実際、大谷の得点圏での不調について尋ねられたドジャースの監督Dave Robertsも以下のように述べています。
また、試合を観戦していた筆者もこうツイートしています。
実際のところ、大谷の得点圏でのアプローチはアグレッシブすぎるのでしょうか?
初球スイング率 (First Pitch Swing %)
今シーズンの大谷は得点圏で40打席回ってきており、そのうち打席の初球を得点圏で迎えているのは33打席あります。そしてその33打席のうち、大谷が初球からスイングしたのは13打席、39.4%です。今季の大谷の非得点圏での初球スイング率が28.3%であることを踏まえると、得点圏でより初球をスイングする傾向にあることがわかります。ではそれ以前のシーズンではどうだったのか。2021年〜2023年シーズンを見てみると以下の通りでした。
結果的には、2021年〜2023年も全シーズンで得点圏でより初球をスイングしていました。例年に比べ今季の非得点圏での初球スイング率が大きく低下していることや、得点圏とそうでない場面での初球スイング率の差が今季は大きいことなど気になる点はあるものの、得点圏でより初球をスイングしていること自体はこれまでと変わっておらず(むしろ過去4年間だと得点圏の初球スイング率は今年が最も低い)、今季の得点圏での不調を説明するに足りませんでした。
というよりも、大谷が初球を打ったときのキャリア打率が.399でOPSが1.251であることを踏まえれば、なんなら初球のスイング率が今年は例年に比べて低いから不調なのでは?とさえ捉えられる結果になりました。
早いカウントから打ちすぎ?
次は、今季の大谷の1打席あたりの被投球数(P/PA)が得点圏とそうでない場合で異なるのかを見ていきます。
結果は、やはり得点圏の方が早いカウントから打っていました。ではこちらも2021年〜2023年の3年間の数字と比較してみます。
するとどうでしょうか?実は得点圏で結果を残している2021年〜2023年の3シーズンの方が得点圏で早打ちしていることがわかります。そもそも打者は追い込まれると一気に打撃成績が下がる傾向にあるので、早打ちも決して悪いことではありませんしね。
ここまでをまとめると、今季よりも得点圏で結果を残せていた2021年〜2023年の方が初球から積極的にスイングしていたし、早いカウントから打っていた。そう考えると、今年ももっと早打ちしたら成績が上向くのかも?という当初とは逆の可能性も出てきました。
難しいボールをスイングしている?
では続いて「得点圏で大谷が難しいボールをスイングしてしまっている説」について検証していきます。
今シーズン大谷が得点圏で打球を前に飛ばしたのは30打席。ではその30打席で大谷がどのゾーンのボールを打っているのかを調べます。ゾーンを理解する上で大切なのがHeart/Shadow/Chase/Wasteです。下図が非常にわかりやすかったので、BASEBALL GATE様からお借りします。それぞれの詳しい定義については下図をご覧ください。
簡単にまとめると、Heartは甘めのストライク、Shadowはストライクかボールか際どいところ、Chaseは普通にボール、Wasteは大きく外れたボールといったところでしょうか。つまり普通に考えれば、Heart>Shadow>Chase>Wasteの順で打ちやすい(良い結果が出やすい)ということです。そして大谷のゾーン別のキャリア成績はこんな感じ。
想像通りではありますが、大谷の場合でもHeart > Shadow > Chase > Waste が成立しました。
ではゾーンについて理解したところで、今度は今季のゾーンごとの大谷のスイング率を、得点圏とそうでない場面で比較してみましょう。
Heartに関してはスイング率は得点圏になると2.1%増加、Shadowは24.1%も増加、Chaseは6.7%増加、Wasteは7.1%増加という結果でした。つまり「得点圏で大谷が難しい(際どい)ボールをスイングしてしまっている説」は立証されました。
大谷は得点圏になると、より難しい(際どい)ボールをスイングしてしまっており、その難しいボールに手を出すことによって凡退が増えてしまっていることがここからは想像できます。
しかしです。
得点圏で好成績を収めていた2021年〜2023年の3シーズン分のゾーンごとのスイング率を得点圏とそれ以外の場面で調べたところ、このような結果となりました。
するとどうでしょう?
得点圏になると大谷が難しいボールをよりスイングしている(よりアグレッシブになる)ことは、実は2021年〜2023年にも当てはまっており、「得点圏でより大谷が難しいボールをスイングしてしまっている=得点圏での不調の原因」とも言えなそうなんです。
得点圏でのゴロ率
ここまで色々と調べてきましたが、個人的にもう一つ気になっているのが得点圏でのゴロの多さ(印象)ということで、最後にこれについて調べてみました。
すると今季は非得点圏ではゴロ率が27.5%であるのに対し、得点圏だとそれが一気に43.3%と急増していることがわかりました。そしてこれが例年通りなのか検証するべく、2021年〜2023年のゴロ率を調べました。
すると、得点圏でのゴロ率には今季と過去3年間でさほど大きな差はありませんでした。
ただここで注目したいのが、今季は例年に比べて非得点圏でのゴロがめっきり減っている点です。この得点圏と非得点圏でのゴロ率の差(15.8%)が「大谷は得点圏でゴロばっか打っている」と我々ファンが錯覚してしまっている一つの要因なのかもしれません。
今季はアプローチの差が大きい
ここまで色々調べてみて、わかったのは「大谷は得点圏になるとよりアグレッシブになる」ということ。しかしこれは今季のみならず今までのシーズンにも当てはまることで、これが今季の得点圏でのスランプを解き明かすものにはなり得ませんでした。
一見すると、これまでのシーズンとさほど大差ないように思えますが、唯一今季の得点圏の大谷で筆者が気になったのがアプローチの"差"です。何と何の差かというと、得点圏時と非得点圏時でのアプローチの差。
得点圏でのアプローチは今季と2021年〜2023年とでほぼ変わりませんでしたが、反対に非得点圏時のアプローチは大きく異なっていました。
初球スイング率は10ポイント低下、難しい(際どい)ボールに対するスイング率も3.8ポイント低下、そしてそのおかげなのかゴロ率も14.6ポイント下がっています。
したがって、今季の大谷は例年よりも得点圏とそうでない場面でのアプローチの差が大きいということです。
今月21日のインタビューで得点圏でのアプローチについて尋ねられた大谷は「全打席どんなシチュエーションでも自分のバッティングを変えずに行けたらなと思っている」と語っていました(下の動画の1:13あたり)。
ここで述べられている「自分のバッティングを変えず」というのがアプローチを変えないということなのかは定かではありませんが、もしかしたら先ほど筆者が指摘した「得点圏とそうでない場面でのアプローチの差が大きい」ことが今季の大谷の得点圏でのスランプに影響しているのかもしれません。
まとめ
ここまで色々なデータに当たって調べてきましたが、どれも大谷の得点圏時の不調の理由づけをするには不十分なものでした。そして今回の検証でわかったのは主に以下の3点。
大谷は得点圏でよりアグレッシブになる(2021~2024で一貫している)
今季の大谷の得点圏でのアプローチは例年(2021~2023)通り
今季の大谷の非得点圏でのアプローチは例年(2021~2023)と違う
この記事を読んでくださっている皆様は「大谷の不調の原因はコレだ!」「大谷の不調は単なる偶然だ!」のどちらかの結論を期待していたかもしれませんが、今回はどちらの結論にも至ることができませんでした。
ただ散々検証してきたので、無理にでも筆者の最終的な見解を述べるとしたら「この不調はきっと偶然だろうな」という感じです。得点圏のwOBAは.224ですが、xwOBAは.445ありますしサンプルが増えていけば、実際の結果がxスタッツに追いついてくると思います。また今季は得点圏で左投手と対戦する割合が2021年〜2023年に比べると多く(4%ほど)、これも多少は影響してくると思われます。
最初からそう言えよと思う方もいらっしゃると思いますが、このような検証をすること自体が筆者の楽しみでもあるのでそこはご理解いただけると幸いです。
選手を応援すること、選手の成功を祈ることも一つの楽しみ方ですし、選手のプレーについて議論したり検証したりするのも一つの楽しみ方。多様性の時代、野球の楽しみ方だって多様でいいじゃない。
得点圏大谷も実家のトイレくらい安心できるようになると信じて、筆者は今後も引き続きドジャースの全選手を応援していこうと思います。
では今回はこんなところで失礼します。