「企画はすべてのはじまり」新しい出会い、新しい仕事に巡り合い続けるソングライター・岡嶋かな多さんの物語
コピーライターで作詞家の阿部広太郎さんが主宰する、自分の物語をつくるための連続講座「企画でメシを食っていく2023(以下企画メシ)」。第2回のゲスト講師は、世界でも活躍されているソングライターの岡嶋かな多さんだ。
当日、岡嶋さんが着ていた青い空と海模様のシャツが目をひいた。
どんな空を見て、どんな海を越えて、音楽を紡いできたのだろう?
企画メシの受講生(以下企画生)の心が前のめりになっているのを、画面越しに感じる。
講座は2部構成。
阿部さんとの対話を中心に岡嶋さんがこれまで歩いてきた物語がぎゅっと詰まった前半と、企画生が提出した課題の講評を中心とした後半を、レポートライターのこばやしゆめ(企画メシ2022企画生)がお届けします。
創作のはじまりは「自分のため」
小さい頃から、歌うことが好きだった岡嶋さん。音楽を形にし始めたのは、中学生のときだった。テストの裏紙に殴り書きした思いの丈に、手探りでメロディーをつけたのが、はじまりだという。
当初「自分のため」に作っていた音楽は、だんだんと「誰かのため」の音楽へと変わっていく。
中学を卒業した岡嶋さんは、高校へ進学することを選ばず音楽業界に飛び込んだ。
「いまだに、飽きていない」
モデレーターを務める阿部さんは、岡嶋さんに聞きます。
「夢を追いかけて、現実にぶち当たるような瞬間や、なかなかうまくいかないなというときに、どうして岡嶋さんは前へと前へと進めていったんですか?」
阿部さんの著書『あの日、選ばれなかった君へ』(ダイヤモンド社)の一節が頭に浮かんだ。
課題に取り組むなかで、仕事や日常の様々な「企画」をするなかで、うまくいかない瞬間は、避けては通れないこと。泥をどれだけかき分けても足元から沈んでいくような、自分自身のうまくいかない時間も思いだしながら、岡嶋さんの話に耳を澄ます。
岡嶋さんは自身の原動力として、「絶対に結果をだしたい」というプライドや、中卒で音楽業界に飛び込み、もう後戻りはできないという気持ちを挙げた。
しかしそれ以上に、彼女の中にあり続ける思いがあるという。
音楽を愛しがむしゃらに書いていた岡嶋さんの仕事や姿勢から、「作曲もプロとしてできる」と見抜いた方との出会いにつながり、作曲の仕事や海外への扉を開いていった。
自由と楽は似ているけれどまったくちがう言葉だ
「基本的には腰が重いほうだが、本当にやりたいことは思わず始めてしまう」と話す岡嶋さん。そのうちの1つが、スウェーデンでの仕事だった。
スウェーデンの事務所とも契約し、家族も友達もいない環境からスタートし、3年間音楽と向き合った。
帰国後は、「コピーライター養成講座」にも参加した。作詞家の大先輩たちに、広告代理店出身の方が多かったことがきっかけだった。
そして現在では、各国の作曲家と共に曲を作るコライティングキャンプにも定期的に参加している。岡嶋さんが今挑戦中の「ユーロビジョンソングコンテスト」に向けてのキャンプでは、日本人はおろか、アジア人はたったひとりだそうだ。
幼い頃、岡嶋さんのお父さんが語った話だという。
たとえば京都に行くとして、新幹線に乗れば楽に到着することができる。歩いていけば楽ではないが、その分好きなときに止まり、話したい人と話す自由がある。
あえて楽じゃない道を行き、自分自身に刺激を与え続けながら、岡嶋さんは自分自身の物語を歩いている。
いかにエモい状態をつくれるか
岡嶋さんの音楽制作のプロセスを伺うことができた。
できるだけ直接ヒアリングする機会を設けるようにしながら、時にはライブやインタビュー、動画などを見て、材料や断片を集めていくそうだ。
心が動く状態でなければ、納得のいくものはできない。
作品が濃く、力の強いものになるように、その輪郭線を太くするように。クライアントワークを超えた何かを常に提供するために、1つひとつの作品に愛と熱量を傾け、フレーズやメロディーラインを生みだしていく。そこに思い入れがあるから、作品にも誇りが持てるようになる。
個人でパフォーマンスを発揮しながらも、協働で歌詞を書くことも多いという岡嶋さん。
「悩んだり、迷ったりすることもあるので、誰かがいてくれることでより早く、より良くなる」という。
投げたボールに対するスタンスは、ゆるやかだ。アイディアをたくさん出したうえで、衝突するというよりは、選んでもらうことが多いそう。
日本の音楽が世界に打って出るために
後半は、岡嶋さんからの課題の講評。
今回の課題は、
J-POPがK-POPと比較されるなかで、J-POPはどうあるべきか?どう世界に打ち出すべきか?いいものを持っているからこそ、スポットライトの当たり方がもっとあるのではないか。
それを音楽業界だけではなく、みんなで考えたい。
岡嶋さんの熱量に応えるように、企画生からの多種多様なアンサーが並んだ。その中から2つ紹介したい。
塚脇愛理さんの企画は、旅に寄り添う音楽体験を提供する、「JAPAN MUSICソムリエサービス」。
アメリカの荒野を走るには、カントリーミュージック。
ロンドンのジメジメした地下鉄の中では、ガラージミュージック。
その土地にはその土地に合った音楽がある。
日本に行く前に日本のプレイリストで気分を高め、帰ってきて聞いた時には音楽が記憶を呼び覚ます。新たな旅体験が実現する日も近いかもしれない。
長谷川千華さんの企画は、日本のアニメの要素と、日本の音楽を組み合わせた、「オタクポップ」。
世界共通語である「オタク」。「オタクポップ」というネーミングが、胸を張って「JPOPはカッコいい」といえるような雰囲気のきっかけになりうる。
SpotifyやApple musicの画面に大きくうつる「OTAKU POP」の文字を想像した。
企画があって、人が動く、心が動く
連続講座の中心はやはり「企画」。阿部さんは質問した。
岡嶋さんは少し悩んだあと話し始めた。
企画があって人が動き、心が動く。企画があるから人に知ってもらえて、実現に近づいていく。だからこそ、企画をいかに作り、どれだけ面白がってエネルギーを注げるか、それが「企画が面白くなるか」の鍵になる。
どこかで企画を愛している人たち
毎週リリースされる他の新曲に対して、「なんでこれを私書いてないんだろう」、「なんでこんな曲書けるんだろう」といった、嫉妬の感情をもつこともあると話していた岡嶋さん。
レポートライターの私は今回久しぶりに「企画メシ」に参加し、悩みながら課題に取り組んだ。自分なりの答えを絞りだして臨んだつもりでも、他の企画生の企画をめくるたびに、「やられた…」と尊敬と嫉妬がぐるぐると混ざりあう。そんな自分の感情と、岡嶋さんの声が重なるようだった。
同時に、コピーライター養成講座で出会った仲間について話していた岡嶋さんの言葉が浮かぶ。
企画メシ2022を卒業して、半年と少し。なんとなく、自分と「企画」との間に距離ができていた。でも、今回並んだ課題を見つめた時、あの時の感覚がぐわりと起きあがった気がした。
企画メシには多種多様な人がいて、皆どこかで企画を愛していて(もしくは愛したいと思って飛びこんでいて)。その存在が心地よく、刺激になる。そんな出会いと刺激が、次へとつながっていく。
努力し、新しいものを取り入れ、新しい出会いや新しい仕事に巡り合い続ける岡嶋さんは、いつも彼女自身が「はじまり」だ。
前へ前へと突き進む彼女の話を聴きながら、自分の中の車輪が、ぎこちないけれど確かに、前へとまわり始めた感覚がある。
この時間を、自分の手で「はじまり」にしたい。そんなことを考えた時間だった。
ここまでお読みいただきありがとうございました!
執筆:こばやしゆめ(企画メシ2022企画)
編集:きゃわの、阿部広太郎
\企画メシ2023初回講義レポートも是非ご覧ください。/