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「自分が自分で、そこに立てるか」シンガーソングライター・NakamuraEmiの今を紡いで、音で届ける方法。

昔散々言われた「大人の言うことを聞け」
はぁ?聞けるか そっちこそこっちの空気を読め


この言葉は『大人の言うことを聞け』という曲の冒頭の歌詞だ。荒々しく強い口調でストレートな言葉が並ぶ。歌うのはどんな方なんだろう?正直なところ、僕は身構えていた。

コピーライター・作詞家の阿部広太郎さん主宰の連続講座「企画でメシを食っていく2022」。第4回のゲスト講師は、シンガーソングライターのNakamuraEmiさん。

どのようにして音楽の道にたどり着き、どんな思いを込めて歌っているのか。講義の様子を、「言葉の企画2020」企画生のホシノ ショウタがお届けしたい。

「音楽の企画」と題する今回。企画生には事前に、

今の自分が、誰と出会い、どうやってここまで来たのか?その大事な人物を、自分を中心とした『自分相関図』にまとめてください。その上で「自分にとって忘れたくないこと」をメッセージにしてまとめてください。

という課題が出された。これは、主宰の阿部さんがNakamuraEmiさんに楽曲の創作方法を伺う中で考えられた課題だそう。

楽曲の創作に「相関図」がどう関わるのか、課題を見て彼女が感じたこととは?

A4 1枚にまとめられた企画生の『自分相関図』がずらり

講義はNakamuraEmiさんの歌手としての道をたどるように進んでいった。

音楽活動の前に「人間活動」

「いい声だね。」

幼稚園教諭として社会人生活をスタートさせた彼女だったが、短大時代に友人と組んだバンドで仲間や周りから歌を褒められたことがきっかけで、音楽の道を志したという。

「自分がやりたいのは音楽ではないか?」

思いはだんだん強くなり、幼稚園は一年で退職。

しかし音楽は細々と続ける程度で、20代中盤まで仕事を転々とする生活を送ったそう。そんなある日、信頼できる人にこんなことを言われる。

「音楽が気持ちわるい。声はいいのに、違和感があるのは、なんでだろうね。」

しばらくこの意味を理解できずにいたが、そんなときに出会ったHIPHOPやJAZZを通して、音楽は自分の生き方を表現する手段でその芯を持っていることが大事なんだと気付く。自分の音楽には「人によく思われたい」と思う気持ちが出ていたんだと腑に落ちた。

「人間として、ちゃんとしよう。」

音楽は、仕事や恋愛をする中でできていくもの。まずは人間としてちゃんとしよう。これからも続けていくけどそれはあくまで趣味として。歌との距離をとることにした。

引き戻されるように音楽の道へ

いくつもの求人へ応募するもひと月落ち続けていたある日。一度落ちたはずの自動車エンジンを作る会社から、偶然の事情も重なって働いてほしいという連絡が入り、二つ返事で入社を決めた。働く仲間に恵まれて楽しかったこともあり、音楽は趣味として続けてこのままこの会社で働こうと考えていたと話す。

そんな矢先、将来をともに生きていきたいと考えた人との失恋が訪れた。彼女はどん底に陥り、何も手につかなくなってしまった。

– No music,No lifeのつもりだったが 今どの音楽も聴けない – 

NakamuraEmiさんの楽曲「台風18号」より


「よし。ライブしよう。」

そんな姿を見兼ね、今もチームメンバーとしてともにするギタリスト兼プロデューサーのカワムラヒロシさんが自分を鼓舞しようと声をかけてくれた。彼は土日になるたびにライブに連れ出してくれた。平日は働き、週末は大阪や名古屋でライブ。そして仕事に戻るという日々を繰り返した。

気持ちはまだ追いつかないまま流れるようにライブを繰り返す中で、不思議な縁が繋がり、現在のマネージャーと出会った。人との縁の重なりによって、音楽の引力に引き戻されるようにもう一度歌の道で歩きはじめることになった。

– さあ 唄えよ 沢山の人に出会えた私よ – 

NakamuraEmiさんの楽曲「使命」より


当時のことを、彼女はこう振り返る。

「遠回りしてるときほどいろいろな人と出会うことができた。」

遠回りに抱くイメージはどちらかというとネガティブなものが多いように思う。だけど、たくさんの道を歩けることで、多くの人に出会えるチャンスなのかもしれないと、彼女の話を聴いて気付かされた。

講義の中盤、どちらかというと不器用に見えて、たくさん迷いながらもここまで歩んできた彼女の自然体な姿に、気付くとすっかりファンになっていた。

嫌われても今は自分らしく

HIPHOPやJAZZに影響を受けて新しい表現に挑戦することで、お客さんが0になったと感じたこともあるそうだ。

ただこのとき彼女は、これまで嫌われるのを避けてきた自分がそういう状況にあることは正解なのかもしれないと考えたそう。中学時代に人間関係の苦い経験をしたことを機に、人に合わせっぱなしになっていた人生で、自分らしくやるためにここをとにかく乗り越えようと思ったと話す。

少しずつではあるが、彼女の曲を自分のことのように、ときには涙して聴いてくれる人が増えてきたことで、自分を表現することをやりつづけていこうと思えるようになった。

– うーわ NakamuraEmi 思ったより大した事ねーな
  飲み込んで前に進め ぶれんじゃねーぞ ぶれんじゃねーぞ –
 

NakamuraEmiさんの楽曲「メジャーデビュー」より

「NakamuraEmi」として立てるか

デビュー以来、テーマとして掲げてきた「NIPPONNO ONNAWO UTAU」(日本の女を歌う)。自動車エンジンの会社員時代、男性が多い職場環境だったことで自分との感覚の違いを知った経験が大きかった。デビュー当初は、周りに染まらないために喧嘩モードだったと振り返る。

その一方、職場での時間を通して言葉を交わしたり会う回数を増やしていくごとに仲間が増えていき、今いる環境が恵まれていることに気付いたことで、周りにいる人を大切にしようと思えるようになったそう。

「自分が自分で、そこに立てるか」

楽曲制作においてコラボの依頼を断ったこともあった。自分の軸がまだ固まっているか分からない状態で、自分らしくあるために筋を通していくことを大切にしたかった。マネージャーやプロデューサーとの対話を重ね、自分自身が納得して誠実に取り組めるかを一つひとつ選びながら「NakamuraEmiらしさ」を見つけていった。

最新曲の藤原さくらさんとのコラボは自ら提案したもので、プロデューサーのカワムラさんとともにデモを作成して渡したことがきっかけだったそう。

自分で挑戦してみたいと思えたことを、自ら踏み込んで提案できたことで、仮に「これは違う」と言われても自分の中ではそれでもいいという気持ちだったと話す。自分の中で小さい喜びを持っておくと、その先で自分を助けてくれることがあると分かっていたから、自分の気持ちに素直になってやってみたいと思えたという。

そんな彼女が、シンガーソングライター「NakamuraEmi」として自分らしくあるために楽曲制作で取り組んでいることとは?

「言いたいことは昔からそこまで変わっていない」と彼女は話す。日々出会った言葉を集めて自分の中に取り込みながら、「今」の気持ちを表現して伝えていく創作の形を続けているのだそう。今回の講義で提出された企画生の課題の中にも気になる言葉がたくさんあったという話から、話題は「自分相関図」へ移っていった。どれも表現や捉え方はさまざまで唸るものばかりだったが、そのうちのいくつかを紹介したい。

企画生それぞれの「自分相関図」

「出会いは、新しい自分に出会える可能性」藤田さん。

人によって態度や接し方がコロコロと変わってしまうことを軸がぶれていると捉えるのではなく、新たな自分の一面が発見できたと肯定的に受け止める。発見があってポジティブな気持ちになれる解釈。


「名前を思い出せなかった人もいる」安村さん。

安村さんは相関図を書き出すときに、思い出せた人だけではなく「思い出せず空白になってしまっている人」にも思いを馳せた。それでも自分にとって欠かすことのできない大切な存在であったことをこの先も忘れないようにしたいと、心に書きとめる場所にした。

「企画メシ」主宰の阿部さんは、今回の課題では大事にしてる人のことや表現したいことを伝えるのが何よりも大事で、周りからの評価は気にすることはないと前置きした上で、リアルなところや目を背けがちだったものの中にハッとするところがあったと付け加えた。

後日、ライブへ足を運んで

講義後、生で彼女の歌を聴いてみたくなり、たまたま講義の3日後に控えていたライブを見つけて足を運んだ。

舞台上に姿を見せた彼女は想像していたよりも小柄な印象を受けた。しかしひとたび歌が始まると力強い歌声で会場は包まれ、全身で気持ちを表現し思いを届けようとする姿に勇気をもらった。

冒頭で紹介した「大人の言うことを聞け」の歌詞は、こう続く。

大人の言うことを聞け
決して「言う通りにしろ」じゃない
光っていたら信じて 腐っていたら反面教師
聞いて 流して 信じて 捨てて 良くも悪くもお手本だ
子どもと大人の真ん中のこの曲も聴いて捨てろ

彼女の曲が人に勇気を与えるのは、その言葉が無責任に投げかけられた言葉じゃなく、何よりも彼女自身が受け止めた痛みから生まれた言葉だからだと思う。気持ちがいつも浮き沈みしてしているどこにでもいる人間らしさ。だからこそ距離が近くて肩肘張らずに聴くことができる心地よさ。彼女のライブは、落ち込んだときや元気になりたいときに来る人が多いそうだ。

講義とライブを通して、今その気持ちがとてもよく分かる。

僕が思う「自分相関図」への一つの解釈

今、僕の中にも「自分相関図」に対して一つの解釈が生まれている。

「相関」の意味は、一方が変化すると他方も変化していく「関係」のことを指すんだそうだ。

生きていくことは、どこへ進みたくて何を選び何を選ばないのか、最後は自分で決めないといけない一人で歩く一本道みたいなものだと思う。相関図はその中で、誰かの存在や言葉によって自分の現在地を確認し、進む方向を決める手助けをしてくれる地図のような存在かもしれない。

今回の講義で、NakamuraEmiさんや企画生を通して出会った言葉や解釈が気付きとなって、自分の相関図に足されていくような感覚があった。お互いのことをほとんど認識すらしないまま過ぎていく関係かもしれないけれど、出会ったことで相関しあい、自分の地図を鮮明なものにしてもらえたようで、不思議な縁を感じて嬉しくなった。

一方で、相関関係というものが自分が受け取り、それをまた別の誰かに渡し、いつの間にか繋がり続けていく関係でもあるとしたら。僕も同じように繋いで、誰かの地図の隙間を埋められる人でありたいと思う。

自己満足かもしれないけど、そんな風に知らず知らずに誰かと支えあっていると感じることができたら、一人で歩かなければいけない道でもその心細さを少し減らせるかもしれない。

おすそわけプレイリスト

最後にここまで読んでくださった方へ、今回NakamuraEmiさんを知る中で出会った曲たちをおすそ分けしたいと思います。本文中で、歌詞の一部とタイトルだけ書いていた数曲と、僕のお気に入りの一曲です。

記事と一緒に、自分が受け取ったものを少しでも渡せたら。そしてみなさんが今いる場所から何かが進みはじめるきっかけにわずかでも参加できたら、とても嬉しく思います。

〜「NakamuraEmi」をたどる5曲のプレイリスト〜

1.大きな失恋で道が見えなくなっていた日の曲「台風18号」


2.音楽の道へ戻ると、立ち上がりはじめた日々の曲「使命」


3.迷いながらも、自分らしくあることを決意した曲「メジャーデビュー」


4.必死にもがく中で、ふとした気付きを書いた曲「大人の言うことを聞け」


〜自分の道を進もうとする人に聴いてほしい一曲〜

5.「YAMABIKO」


執筆: ホシノ ショウタ(言葉の企画2020)
編集: きゃわの(言葉の企画2020)


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