見出し画像

企画と私 vol.4「企画は化学、ときどき数学」寺岡 真由美

豊かな大地からおいしい作物が生まれるように、豊かな人生からおもしろい企画も生まれるはず。そんな仮説のもと企画人が企画人たる所以を、ワークだけでなくライフ面から紐解いていく「企画と私」。

第4回は、電通北海道でクリエーティブプランナーとして日々企画に励み、キカクラブ編集部員でもある寺岡 真由美さん。「仕事も人生も、企画次第でおもしろくもつまらなくもなる」と語る企画人の人生最初のくわだては、「受験」だったという。

寺岡 真由美
2012年(株)電通北海道に新卒入社。プロモーション・デジタルを経て現在はクリエーティブプランナーとして活動中。
※取材時点の経歴です


自分をワクワクさせる。人生初の企画は「受験」

勉学の象徴とのツーショット

ーー寺岡さんといえば、具体的な案件や社内プロジェクトまで、至る所で企画屋として活躍されていると思いますが、今のご自身が形成された原体験などはありますか?

寺岡さん:いまだに学生の頃の話をするのも幼稚ですが、私の人生初かつ壮大な企てとして、小学生からはじめた「受験企画」があると思います。

当時、中学受験をテーマにしたドラマを見たことがきっかけで受験の世界に異常な憧れを抱きました。
受験に挑む登場人物たちがすごくカッコよく見えて、自分もやってみたいと思ったと同時に「北海道のこんな田舎から東大・京大に入ったらスゴイことだし、家族もみんなも驚くはず。やってやろう!」そんな使命を自分に課しました。

今思えば、これは立派な「企画」でした。ゴールを設定して、そこへ辿り着くためのプロセスを組み立て、できる限り楽しく取り組めるよう工夫をする。ワクワクできて、そのワクワクが机に向かうエネルギーになる。

しかも小学生ながらに大学まで見据えているので、かなりロードマップの長い企画でした。


ーー初企画からかなりの大作ですね(笑) 大半の人は受験に「ワクワク」といった感情を持ち込めないと思うのですが、どのようなプロセスを組み立てて、モチベーションに繋げていたのでしょうか?

寺岡さん:ある意味スポーツみたいな感覚を取り入れてました。みんなが挫折しがちな通信教育も教材がボロボロになるまでストイックにやり込んだり、塾は学習というよりはライバルの存在を肌で感じるためや、ペースメイクのために行ってたり。加えて、少しでもアドバンテージを取れるよう自分で買った問題集を筋トレ感覚でやるのですが、それらを本屋さんで吟味する時間が至福でした。どんなアイテムが自分を一番強くしてくれるだろうか、と。

とにかく成功させたかったので、1日14時間くらい受験に向き合っていましたね。

そんなこんなで全力で挑んだはずなのに、大学受験はまさかの失敗。
みんなにスゴイと思ってもらいたくてやったのに、失敗。全然スゴくない、むしろめちゃくちゃダサい。人生終わったと思いました。それくらい命懸けの企画だったので。


でも、こういう逆境を乗り越えられたのも、やっぱり「企画」でした。私の起死回生、2度目の企画は「理転企画」。「もう私のことを誰もスゴイと思ってないけど、理転(文系から理系への転向)して東大京大に入ったらちょっとはスゴイと思い直してもらえるかも?」と考えての背水の陣企画です。


「理転企画」時代のノートやルーズリーフ達
とてつもない学習量と、超入念に立てられた計画の一端を垣間見ることがでできました

相変わらず承認欲求の塊のような企画ですが、でもその企画を立てたことで、どん底にいたはずなのに不思議とちょっとワクワクできたのです。他の人があまりやらないことをやる、というのも自分の熱量を上げる要素でした。

浪人生なのにゼロから学ぶ科目があるということが成長実感にもつながって、なんとかもう1年モチベーションを高め続けられました。そして2度目の受験で京大に受かって、約10年計画の企画を実現することができました。

出会った良問たちを、単元ごとにキュレーションして、受験前に復習していたそう
「これも企画ですね」と、当時を楽しそうに振り返る寺岡さん

仕事も、ワクワクが必要条件

ーー京大理系から、北海道の広告会社に就職したということになりますが、この進路もめずらしいですよね。それこそ、他の人があまりやらないことというか・・・

寺岡さん:「理転企画」で理系の学部に入ったんですが、日々似たような研究・実験を繰り返す生活におもしろみを感じられず、挙句「研究より企画がしたい」と思っちゃいまして、マスコミ中心に就職活動をしました。たまたま拾ってくれたのが電通北海道という会社でした。

この会社は企画の打席に立てるチャンスに溢れており、企画人にはいい環境だと思います。(そう思えるまでに時間はかかりましたが)

受験でも、仕事でも、私が企画で大事にしていることは共通して、ハイレベルを目指すこと、ありきたりにならないこと、みんなを驚かせたり笑わせたりできること、そして何より自分がワクワクできることです。

クライアントや世の中の人々をワクワクさせる企画をつくるのが私たちの仕事だと思いますが、自分がワクワクしてないものは、クライアントも世の中も絶対にワクワクさせられないと思っているので、「正しいけどワクワクしないこと」はできるだけやらないように意識しています。


ーー自分も、周囲もワクワクできるかというのは、企画する上で一つの判断軸になりますよね。直近で、ワクワクという文脈において思い出に残っている仕事はありますか?

寺岡さん:直近では、ホクレン農業協同組合連合会・ミルクランド北海道の仕事をしています。
もとは前任者がやっていた引き継いだ企画で、(企画人あるあるかもしれませんが)発案者じゃないとなるとはじめはあまり熱が入らなかったのですが、そうも言っていられないので、自分がやるからには自分がワクワクできることをやろうと思いました。

案件のゴールは、北海道牛乳をたくさん飲んでもらうことですが、「牛乳飲んで!」と叫んでも飲まないものは飲まないし、牛乳がいかに栄養あるかを力説しても説教くさいとそっぽ向かれることもあるし、どうすればワクワクできるだろうかと悩みました。

でも、食べものや飲みものはやっぱりおいしくなければ続かないと思ったので、その気持ちに正直に、「おいしく飲むための仕掛け作り」を核とした企画にしたいと思いました。

ーー実際には、どのような企画になりましたか?そこに至るまでのプロセスもあわせて教えてください!

寺岡さん:牛乳だけにフォーカスするのではなく、牛乳をおいしく感じられる食べものやシチュエーションがあれば、そちらにフォーカスした方が広がりがあるのではないかと考えました。たとえば「牛乳専用あんぱん」みたいな商品があれば、牛乳と一緒に食べてみたくなるはず、と思ったのです。

その考えと、他のメンバーが「総選挙企画をやりたい」と言っていたのとを融合して、「牛乳の相方総選挙」と題して牛乳をおいしく感じる食べ合わせの総選挙を企画にしました。

そして、選挙の結果あんぱんが1位になり、これにちなんで、あんぱんの元祖・木村屋總本店とコラボして「牛乳が飲みたくなるあんぱん」の開発・販売まで実現できました。そして当初の目論見通り、このあんぱんと牛乳とをセット購入してくれる人も多く、牛乳の売上アップに貢献できました。

「牛乳が飲みたくなるあんぱん」※現在は販売を終了しています

私にとって企画とは「化学、ときどき数学」

ーーここまで、寺岡さんが立ち上げてきた企画やそのプロセスについてお伺いしてきましたが、あらためてご自身にとっての「企画」とは何ですか?

寺岡さん:高校の化学で習う「活性化エネルギー」という言葉があります。
化学反応が起こるのに必要なエネルギー、みたいな意味で、私にとって企画は、活性化エネルギーを注ぎ込む、という感覚です。

クライアントやチームメンバーがワクワクして「やりたい!」と思ってくれること、世の中の人が気持ちや行動を変化させてくれること、いい企画には、そのどちらも達成するだけのエネルギーがあるのだと思います。

ちなみに、私が受験勉強をしてきた中で、最も「企画」そのものに近いと思う科目は数学です。国公立の二次試験など、難問になればなるほど、問題を見ただけではどのように解けばよいかすぐにはわかりません。

問題文を数式化したり図示したりすることで課題の解像度を上げたり、自分が知っている打ち手をあれこれ試してみたり、試行錯誤するうちに少しずつ光が見えて来るところは企画によく似ています。なので、ハイレベルな企画をする筋力をつけるために、ハイレベルな数学の問題を解く、という訓練を取り入れています(たまにですが…)。

仕事も、人生も、(もしかすると受験勉強も)つまらないと思えばとことんつまらないと思いますが、「企画」次第でつまらないものだっておもしろくできるのだと思います。

逆に、つまらなければつまらないほど、おもしろくできる伸びしろは大きいとも言えるでしょう。つまらなさへの苛立ちを原動力に、活性化エネルギーを乗り越えるだけの「企画」を、北海道からどんどん作っていけるといいです。

(ライター:金子 大誠)


いいなと思ったら応援しよう!