夢日記67”先代月影の秘密”
当代月影は気が付いた。分厚い板の上に寝かせられ、手首や足首には拘束具がついており少しも動かす事ができない。ここは当主の間。毒でも盛られたか、あるいは忍術でもかけられたのかいずれにせよ彼女は罠にかかった覚えがなく何が起きたのか分からずにいた。
「気が付いた様だな。手荒な真似をしてすまない」
「先代様…?」
「君は大変優秀だが些か血の気が多い。だからこうする必要があった。許してくれ」
「恐れながら掟を破った心当たりがございません。訳を聞かせてください」
「別に罰しようと言うのではない。まあ説明するより見てくれた方が早い」
先代月影がそう言うと物陰から人物が現れた。国を分かつ三大忍者勢力が1つ、焔衆の頭領の陽炎だった。焔は現在月影が率いる月光衆と敵対している勢力であり月影にとっては陽炎は殺害対象とさえ言える。月影は身を捩って拘束から抜けようとする。
しかし拘束具は忍者を拘束して置くためのもの。常人を繋ぎ止めておくためのものとは訳が違う。いかに月影と言えどその力量を以てしても脱出は困難だった。
「先代様、これはどういう事なんですか!??ご説明を!!!」
先代は何も答えない。更に物陰から1人現れた。三大忍者勢力の木陰衆の元頭領、玄樹だった。月影は青ざめる。
「馬鹿な、そんな馬鹿な!!!お前は確かに…」
「殺したはず、か。見事な手際だったぞ」
一か所に集まった三大勢力の頭領はそれぞれ月影の周りに集まる。月影は訳が分からずただただ混乱していた。
「木陰衆には手を出すなと言っただろう」
「しかし先代様、先に掟を破ったのは木陰衆です!」
3人は黙ったまま月影を眺める。彼女は玄樹の首元を見る。確かに喉笛を切ったはずなのに傷跡がない。
「「「月影。我々には重大な秘密があるのだ」」」
3つの口から全く同じ言葉が発せられる。月影はギョッとした。
「「「先代月影も、陽炎も、玄樹も存在せぬのだ。皆の者をまとめるのに必要な影法師。それが私だったのだ」」」
陽炎と玄樹が砂になって崩れ落ちる。先代月影だけが残った。
「私とて寿命がある。お前にそうした様にいずれは他も座を譲る事になる。そう遠くないうちに里の者同士の諍いを私の力では止められなくなる。私は争いの火種を撒いて欲しいのではない、頭領同士で均衡を保ち争いを避けて欲しいのだ」
「先代様…」