見出し画像

量子コンピュータを信じない5つの理由とスコット・アーロンソンの反論

スコット・アーロンソン(Scott Aaronson)は量子計算理論の分野で著名な研究者です。

彼は最近、自身のブログ誤り耐性量子コンピュータFTQC)が大きく進展してきていることについてこう述べています。

この1、2年の間に、スケーラブルな誤り耐性量子コンピュータを構築する競争が本格的に始まったと初めて実感しています。

So I can say: this past year or two is the first time I’ve felt like the race to build a scalable fault-tolerant quantum computer is actually underway.

https://scottaaronson.blog/?p=8329

ただし、これを読んで「また誇大広告かな」と思われる方も多いでしょう。そう思われてしまう理由があるからです。

そこで、スコット・アーロンソンは人々が量子コンピューティングを真剣に受け止めない理由を5つ挙げて、それぞれに対して現状を踏まえた反論を展開しています。

その内容が興味深いので、私なりの解説も含め、それぞれ簡単にまとめました。


量子コンピューティング:希望と誇大広告

スコット・アーロンソンのブログ記事のタイトルは、「Quantum Computing: Between Hope and Hype」(量子コンピューティング:希望誇大広告の狭間)となっています。

まあ、量子コンピューティングに関しては、常に「希望」と「誇大広告」が同時に存在しています(ある意味、重ね合わせですね)。

ブログ記事の中でも、彼はこう述べています。

私たちは量子コンピュータがどこか非現実的な存在のように感じられることに慣れてしまっています。

We’re used to quantum computing having this air of unreality about it.

https://scottaaronson.blog/?p=8329

しかし、彼はさまざまな企業(Microsoft、Google、QuEra、PsiQuantum、Xanadu)からの成果に触れて、FTQCの可能性について楽観的になったと述べています。

なお、彼のこの記事は、カリフォルニア大学ロサンゼルス校で開催された「量子コンピューティングとポスト量子暗号」に関する米国とインドの両国共同のワークショップ(2024年9月16日)における、彼のスピーチの原文を掲載したものです。

そのため、将来的に起こるであろう量子コンピュータによるインターネットの安全性への攻撃(例:Shorのアルゴリズム)に対しての対策としてポスト量子暗号をより真剣に検討する必要性を訴えています。

彼は量子コンピューティングを非現実だと切り捨てないで、現状をよく踏まえて見直す必要があると説いています。

なぜ多くの人が量子コンピューティングを完全に現実的なものとは見なしてこなかったのか、その主な理由は何でしょうか?そして、今の状況を踏まえて、それらの理由についてどのように考えることができるでしょうか?

… what are the main reasons why people regarded this as not entirely real? And what can we say about those reasons in light of where we are today?

https://scottaaronson.blog/?p=8329

信じない理由1:本当だとしたら凄すぎる

一般の人々にとって、量子コンピュータを真剣に受け止めなかった最大の理由は、話があまりにも夢物語のように聞こえたからかもしれません。例えば、この魔法のマシンが最適化や機械学習、金融のあらゆる問題を同時に(並列宇宙で)解決し、指数関数的に高速化してくれるなんて素晴らしい、と。まるで、ピーマンのカットまでしてくれるかのようです。

For the general public, maybe the overriding reason not to take QC seriously has just been that it sounded too good to be true. Like, great, you’ll have this magic machine that’s gonna exponentially speed up every problem in optimization and machine learning and finance by trying out every possible solution simultaneously, in different parallel universes. Does it also dice peppers?

https://scottaaronson.blog/?p=8329

つまり、人々が量子コンピュータを信じない理由の一つは、間違った理解に基づく過大な期待です。

量子コンピュータがあらゆる問題を瞬時に解けるようになるとは今のところ考えられていません。ただし、特定の計算問題(例:大きな整数の素因数分解)に関しては、量子コンピュータは古典コンピュータ(現在のコンピュータ)よりも圧倒的に速く解くことができるとされています。

この能力が実用化されたときに最も危うくなるのが、インターネット上で広く使われているRSA暗号技術などの安全性です。これらの暗号は、解くのが非常に難しい大きな整数の素因数分解を基にして安全性を保っています。しかし、量子コンピュータではショアのアルゴリズムを使うことで、これらの問題を非常に短時間で解けてしまいます。そのため、十分に強力な量子コンピュータが開発されれば、インターネット上のセキュリティは大きな脅威にさらされることになります。

その一方で、古典コンピュータは、多くの実用的な計算問題を十分なスピードで解くことができます。よって、あらゆる問題を量子コンピュータで解けるようになることを目指す必要もありません。

また、量子コンピュータは、「並列処理によって、あらゆる可能性を瞬時に計算し出力できる」わけではありません。よって、「並列宇宙で全ての解を同時に試す」こともありません。

これでは、信じられなくて当然です。

このような過大な期待が生じるのは、量子コンピュータの仕組みが理解されていないからです。これに対して、スコット・アーロンソンは次のように述べています。

重要なのは、量子コンピュータで高速化を得る唯一の方法は、古典的な確率論とは異なる仕組みで動作する量子力学を利用することだと伝えることです。特に、量子力学では振幅と呼ばれる正、負、複素数も取りうる数値を扱います。あらゆる量子アルゴリズムがやっていることは、振幅の干渉パターンをうまく構成することで、誤った解の振幅が互いに打ち消し合い、正しい解の振幅のみが強化されるようにすることです。

I think it’s important to tell people that the only hope of getting a speedup from a QC is to exploit the way that QM works differently from classical probability theory — in particular, that it involves these numbers called amplitudes, which can be positive, negative, or even complex. With every quantum algorithm, what you’re trying to do is choreograph a pattern of interference where for each wrong answer, the contributions to its amplitude cancel each other out, whereas the contributions to the amplitude of the right answer reinforce each other.

https://scottaaronson.blog/?p=8329

上記の説明を読んで「なるほど!」と理解する人はそもそも誤解がない人たちです。スコット・アーロンソンはそれなりの専門知識がある人々を前にスピーチをしているので、上述のような内容になっているのでしょう。

しかし、量子力学を利用するコンピュータを量子力学の原理を知らない人に伝えるのは簡単ではありません。スコット・アーロンソンの主張は正しいですが、難しくもあります。

そのため、メディアや記事が量子コンピューティングを簡単に理解できるように伝えようとすることで、「すべての解を同時並列に試し、問題を瞬時に解決する」という誤解が広まった可能性があります。もしくは、そもそも説明する側に誤解があったのかもしれません。まるでGPUのさらに上をいくかのような誤解は、現在のコンピュータの延長線上で量子コンピュータを捉えようとすることが要因でしょう。

簡単にいうと、量子コンピュータは、量子状態の「重ね合わせ」や「干渉」や「量子もつれ」といった量子力学的な特性を利用して、特定の計算問題に対して効率的に解を見つけることを目指しています。

信じない理由2:技術進歩は停滞している

1940年代や50年代には、人類はそれまでになかった新しい種類の機械を作り上げました。でも、今はどうでしょう? プレスリリースを出し、約束をし、SNSで議論するだけです。

You know, maybe in the 40s and 50s, humans built entirely new types of machines, but nowadays what do we do? We issue press releases. We make promises. We argue on social media.

https://scottaaronson.blog/?p=8329

古典コンピュータはこれまで大きな進化を遂げましたが、基本原理自体には大きな変化はありません。真に新しいタイプのコンピュータは生まれてきていません。

いろんな技術やアプローチが発表され話題になる一方で、根本的な変化は起こっていないという現状に対する失望感が漂っている、スコット・アーロンソンは、このような雰囲気を言い表しています。

もちろん、現在では技術の進歩に対する悲観論は、AI分野で起きている革命には当てはまらないでしょう。この分野もかつては長年、実現しない約束を掲げては揶揄やゆされていましたが、今ではその約束が次々と実現されつつあるのです。

Nowadays, of course, pessimism about technological progress seems hard to square with the revolution that’s happening in AI, another field that spent decades being ridiculed for unfulfilled promises and that’s now fulfilling the promises.

https://scottaaronson.blog/?p=8329

ここは、「もうちょっと暖かく見守ってほしい」といったところでしょうか。

ちなみに、スコット・アーロンソンは、2022年にテキサス大学オースティン校での教授職を一時的に休職し、サバティカル(研究休暇)を取りました。その期間中、彼はOpenAIに所属し、AIの安全性についての理論研究を行いました。

現在は、スコット・アーロンソンは、引き続き大学の量子情報センターのディレクターとして活動しながら、量子コンピューティングとAIの研究を並行して行っています。

参考:https://scottaaronson.blog/?p=6484

憶測ではありますが、彼は、量子コンピュータにもAIと同様の進展が起きてほしいと願っているのかもしれません。

信じない理由3:20年経ったがまだない

もう20年経ったけど、僕の量子コンピュータはどこにあるんだ?

It’s been 20 years already, where’s my quantum computer?

https://scottaaronson.blog/?p=8329

ショアのアルゴリズムが発表されたのが1994年なので、かれこれ30年経っています。もちろん、D-Waveの量子アニーラは商用のマシンとして登場しましたし、ゲート型の量子コンピュータもさまざまな企業によって開発され、そのいくつかはオンラインのサービスでアクセスすることも可能です。

それでもまだインターネットの安全性に破壊できるようなハードウェアは登場していません。

これに対して、スコット・アーロンソンはこう述べています。

汎用的にプログラムできる古典的コンピュータは、1920年代の視点から見れば、今日の量子コンピュータよりもはるかに空想的に思われていました。しかし、数十年後には実際に作られました。そして今日、AIの分野ではさらに劇的な例が見られます。ニューラルネットワークやバックプロパゲーション(誤差逆伝播法)といったアイデアは、ずっと前に提案され、一度は失敗と見なされましたが、今ではそれらが理論的に正しかったことが証明されています。単にハードウェアの進化がそのアイデアに追いつくまでに数十年かかっただけなのです。

Universal programmable classical computers surely seemed more fantastical from the standpoint of 1920 than quantum computers seem today, but then a few decades later they were built. Today, AI provides a particularly dramatic example where ideas were proposed a long time ago—neural nets, backpropagation—those ideas were then written off as failures, but no, we now know that the ideas were perfectly sound; it just took a few decades for the scaling of hardware to catch up to the ideas.

https://scottaaronson.blog/?p=8329

ここも、「もうちょっと暖かく見守ってほしい」といったところでしょう。「正しい理論だって、時間はかかるのだから」、と。

また、次のようにも述べています。

だからこそ、この反論は私にとってあまり説得力を持ちませんでした。特に、ここ1〜2年で量子誤り訂正の実験的な進展が劇的に起きる前からそうでした。

That’s why this objection never had much purchase by me, even before the dramatic advances in experimental quantum error-correction of the last year or two.

https://scottaaronson.blog/?p=8329

量子誤り訂正(Quantum Error Correction)は、量子コンピュータが持つ誤り(エラー)を修正し、量子情報を正しく保持するための技術です。

量子コンピュータは量子ビット(qubit)を使って計算を行いますが、これらの量子ビットは非常に繊細で、外部の環境ノイズや不完全な操作により容易に誤りが生じます。よって、エラーが発生しやすく計算結果が崩れてしまいがちです。

そんなエラーを訂正するための理論はあるのですが、実装するためには大量の量子ビットが必要なため、なかなか大きなスケールでは実現していません。

さらに補足すると、量子誤り訂正の実現には「物理量子ビット(physical qubit)」と「論理量子ビット(logical qubit)」の違いを理解する必要があります。

1つの論理量子ビットを安定して保持するために、実際には複数の物理量子ビットが必要になります。このため、実用的な量子誤り訂正を行うには、現在の技術レベルを超える大量の量子ビットを扱えるようになることが求められています。

ただし近年、量子誤り訂正の実験的な研究が進展し、エラー訂正の精度向上や、実用的な規模の量子ビット数における誤り訂正の実装が成功しつつあります。これにより、量子コンピュータの実現に向けた重要な一歩を踏み出しています。

誤り耐性量子コンピュータ(FTQC)が実現するには、量子誤り訂正が必須と考えられているので、この進展は重要です。

このような最近の進展が起こる前から、彼は「もう20年経ったけど、僕の量子コンピュータはどこにあるんだ?」という批判には動じなかったと述べています。

信じない理由4:量子力学は完成していない

量子力学の発見から100年が経った今でも、量子力学そのものに対して懐疑的な見方を持つ人々がいます。彼らの中には、レオニード・レヴィンやロジャー・ペンローズ、ヘラルト・トホーフトのように量子力学を明確に疑っている人もいます。

… a century after the discovery of QM, some people still harbor doubts about quantum mechanics itself. … they explicitly doubt it, like Leonid Levin, Roger Penrose, or Gerard ‘t Hooft.

https://scottaaronson.blog/?p=8329

まあ、ここまで信じない人はどうしたらよいものかと思ってしまいますが、ノーベル物理学賞を受賞したロジャー・ペンローズでさえ、現在の量子力学は現実の世界を記述しきれていないと主張していることもあり、この批判に対抗するのは実は結構難しいです。

もし、仮に量子力学に不備があり、それが量子コンピュータが思ったように進歩しない理由だとしたら、知らないことは知らないので反論のしようがありません。

これに対して、スコット・アーロンソンはこう述べています。

私たち量子コンピュータ研究者として、そして私自身が常に言っていることは、『そういった対立は大歓迎だ!』ということです。新しい領域で量子力学を試してみましょう。もし、量子コンピュータを構築する代わりに、量子力学を『単に』覆し、新たな物理学の時代を切り開くことになるとしても……その時は、その現実を受け入れる方法を見つけるしかないでしょう。

I think the only thing for us to say in response, as quantum computing researchers—and the thing I consistently have said—is man, we welcome that confrontation! Let’s test quantum mechanics in this new regime. And if, instead of building a QC, we have to settle for “merely” overthrowing quantum mechanics and opening up a new era in physics—well then, I guess we’ll have to find some way to live with that.

https://scottaaronson.blog/?p=8329

スコット・アーロンソンが述べている「新しい領域」は、これまでの量子力学の検証が行われてこなかったことに対して、量子力学の理論に基づく実験やテストを行うことで、むしろ量子コンピュータそのものの議論とは離れています。

なぜなら、量子力学自体が間違っているのであれば、量子コンピュータをこのまま構築することは無駄になるからです。

つまり、「そこまでいうなら量子力学の理論が破れるかどうか見極めるしかない」ということです。問題があるかどうかもわからないのだから、それは量子コンピュータに対する直接の批判にはならないよと。

まあ、量子コンピュータを構築し続けるのもある意味「新しい領域」で量子力学の検証を行なっているようなものでもあります。

信じない理由5:誤り耐性は不当な仮定だ

量子力学自体は問題ないとしても、デコヒーレンスやノイズがあるため、誤り耐性のある量子コンピューティングには根本的に無理がある。しかし、量子誤り耐性が可能だという前提の上に成り立つ理論は、正しくない仮定に基づいているのではないか。例えば、ギル・カライ(Gil Kalai)はこうした立場を取っている。

… maybe quantum mechanics is fine but fault-tolerant quantum computing is fundamentally “screened off” or “censored” by decoherence or noise—and maybe the theory of quantum fault-tolerance, which seemed to indicate the opposite, makes unjustified assumptions. This has been the position of Gil Kalai, for example.

https://scottaaronson.blog/?p=8329

デコヒーレンス(Decoherence)は、外部環境などによる作用によって、量子の状態が「壊れる」現象を指します。このため量子計算で必要な「重ね合わせ」や「量子もつれ」などの特性が失われてしまい、正確な計算ができなくなります。

デコヒーレンスが起きる原因は、熱振動や電磁波の影響などさまざまです。超伝導式の量子コンピュータなどでは、量子ビットを極低温(ほぼ0ケルビン)で保持したり、シールド(遮蔽)を施すことで外部環境との相互作用を最小限に抑えたりします。

また、量子誤り訂正アルゴリズムを用いてエラーを検出・訂正するなどの工夫がされています。量子誤り訂正が可能な量子コンピュータを誤り耐性量子コンピュータと呼びます。

つまり、誤り耐性量子コンピュータの前提として、誤り耐性を実現できるという前提(仮定)があります。その前提自体を疑っているのが、ギル・カライです。

彼は論文の中で、NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum)コンピュータと呼ばれる中規模な量子コンピュータに関して、そのノイズレベルが量子優位性(quantum supremacy)や量子誤り訂正を実現するための基準を下回ることができないとしています​。

これに対して、スコット・アーロンソンは次のように述べています。

量子コンピュータを批判する側に対しては、現実世界における真実を明確に説明することです。古典コンピュータで、現実的な量子システムをシミュレートできますか?どうやって?量子コンピュータの計算能力を無効化するような量子的なノイズを、古典コンピュータでシミュレートできますか?この問題は、実は非常に困難な課題です。

The challenge for that position has always been to articulate, what is true about the world instead? Can every realistic quantum system be simulated efficiently by a classical computer? If so, how? What is a model of correlated noise that kills QC without also killing scalable classical computing?—which turns out to be a hard problem.

https://scottaaronson.blog/?p=8329

要するに、量子力学の原理を使わずに古典コンピュータで量子系を効率よくシミュレートすることは困難だと言っています。

これはファインマンが量子コンピュータを提案した時の議論に立ち返っているかのようです。

リチャード・ファインマン(Richard Feynman)は1980年代に「量子系を古典コンピュータでシミュレートすることは困難であり、むしろ量子コンピュータを使うことで効率的にシミュレーションできる」と述べました。これが、量子コンピュータ開発の動機の一つとして広く知られています。この提案は、量子コンピュータが持つ特性を生かして、古典コンピュータでは不可能または非現実的なほど時間のかかるシミュレーションを実行できるという考えに基づいています。

また、ファインマンのこの提案を基に、量子コンピュータは古典コンピュータでは再現できない特定の計算を実行する能力を持つとされており、これが量子優位性の概念に繋がっています。

もし仮に、ノイズの影響を含めた量子系を古典的な手法でシミュレートすることができるならば、ファインマンの提案した「量子コンピュータが持つ計算能力の優位性」は失われてしまいます。

したがって、量子コンピュータに対する批判者は、ファインマンの提案した「古典コンピュータでは実現できない領域(新しい領域)」に対してどのような反論を用意できるのかを示す必要がある、とスコット・アーロンソンは指摘しているわけです。

さらに、彼は、Googleが発表した量子優越性の実験を取り上げています。

2019年に、Googleは「Sycamore」という53量子ビットのプロセッサを使い、ランダムな量子回路を実行し、その出力をサンプリングするという実験を行いました。この実験は、ランダムな回路を古典的なスーパーコンピュータ(当時最速とされるSummitなど)でシミュレートすることが極めて困難であることを示すことで、量子コンピュータの優位性を主張するものです。

古典コンピュータでは不可能なことがある現実を見ろ、主張しているわけです。

まとめ:NISQかFTQCか

最後に、スコット・アーロンソンは、量子コンピュータが現実のものとなりつつある状況を踏まえ、次の3つステップについて以下を上げています。

  1.  より優れたハードウェアの開発よる安定した誤り耐性の実現。

  2. 誤り訂正の向上を目指し、技術や手法の開発と改良。

  3. 新しい量子アルゴリズム優位性を発揮できる問題の探索。

また、NISQとFTQCのどちらに注力するべきかという問題を考察しています。

今後は、すべてのリソースをFTQC(誤り耐性量子コンピュータ)の開発に注ぎ込むべきか?それとも、NISQ(誤り耐性がない中規模の量子コンピュータ)において量子優位性を証明する努力を継続すべきか?

FTQCの開発がスケーリング(規模の拡大)に不可欠であり、NISQの成果は「スケーラブルでない一時的な成功に過ぎない」とする見解もあります。しかし、スコット・アーロンソンは「短期的な量子優位性の実証」も追求すべきだと主張しています。また、こうした実証を近い将来に行えると楽観しており、Quantinuumと協力して実現を目指していると述べています。

まあ、これは彼が実際にNISQに取り組んでいることと、やっぱりFTQCにはまだいろいろと課題があるということでしょう。

最後の方で、彼は「25年前に量子コンピュータの研究を始めたときは、生涯のうちにその成果が実験的に証明されることはないかもしれない」と振り返っています。

25年前に量子コンピュータの研究を始めたとき、私は「計算の限界について、基礎物理学が示唆するものを学ぶだけで満足することになるかもしれない。実験で検証されるのを見ることは一生ないかもしれないが、それでも構わない」と覚悟していました。

… when I started in quantum computing 25 years ago, I reconciled myself to the prospect that I’m going to study what fundamental physics implies about the limits of computation, and maybe I’ll never live to see any of it experimentally tested, and that’s fine.

https://scottaaronson.blog/?p=8329

しかし、実現性が高まってきており、興奮している様子が伺えます。

… 今ではそれが近い将来に実験で検証される可能性があると言われると、少し気が急いてしまいます。私の中の一部はこう叫んでいます。よし、やろう!これまで私が量子コンピュータの最重要な応用だと考えてきたことを、いますぐにでも成し遂げよう!…

… once you tell me that there is a serious prospect of testing it soon, then I become kind of impatient. Some part of me says, let’s do this! Let’s try to achieve forthwith what I’ve always regarded as the #1 application of quantum computers,…

https://scottaaronson.blog/?p=8329

そんなに成し遂げたかった「最重要な応用」とは、いったい何なのでしょうか?

それは、暗号解読や量子シミュレーションよりも重要です。すなわち、スケーラブルな量子コンピュータの実現が不可能だと言っていた人々を論破することです。

… more important than codebreaking or even quantum simulation: namely, disproving the people who said that scalable quantum computing was impossible.

https://scottaaronson.blog/?p=8329

(終わり)

ここから先は

0字

キカベン・読み放題

¥1,000 / 月
初月無料
このメンバーシップの詳細

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?