量子機械学習の期待が高まる理由
ガートナージャパン株式会社 (以下Gartner) が、「日本における未来志向型インフラ・テクノロジのハイプ・サイクル:2023年」を発表しています。
これによるとWeb3、メタバース、エッジAI、量子コンピューティングなどは全て幻滅期にあるそうです。そして、生成AIは「過度な期待」のピーク期に位置付けられています。
個人的には、それでも生成AIは実用性は高いので「過度な期待」から安定してさまざまなサービスやプロダクトに組み込まれていくと考えています。
一つ興味深いと感じたのは、量子コンピューティングが幻滅期だということです。量子コンピューティング自体は、IBMクラウドで実際にアクセスすることができます。また、今年は理研も量子クラウド計算サービスを開始しました。しかし、現状は計算に使える量子ビットの数が少なく、しばらくは実用化の目処が立たないということなのでしょう。大量の量子ビットを使えない最大の理由は、量子回路に環境からの影響などからノイズが入り込み計算にエラーが生じることです。小さなノイズでも多くの量子ビットに波及して全体として不具合を生じてしまいます。
このままだと投資が冷え込み、量子コンピューディングに冬の時代が訪れるのかもしれません。
しかし、その一方で、量子コンピューティング関連で期待が高まる分野があり、またその理由を読み取ることができます。
例えば、ポスト量子暗号は黎明期にあります。量子コンピューディングを利用することで、現在の暗号技術も将来的に簡単に破られる可能性があることに備えて、より安全な暗号アルゴリズムを開発することを指しています。これはある意味、量子コンピューティングは思ったほど進展していないが将来的には不可避であることを示唆しています。
さらに、量子機械学習も黎明期にあることです。量子コンピューティングと機械学習を組み合わせることが期待され始めています。機械学習の分野では、計算上で多少のノイズがあっても問題がありません。例えば、分類AIや生成AIでは確率的な比較が重要であっても確率の値そのものが正確である必要はありません。
さらに、逆に量子コンピューディングで現状不可避なノイズを利用した機械学習や強化学習も考えられ、そのような研究は進んでいくでしょう。すると、数十年後の未来に想定される大量の量子ビットを使った量子コンピュータよりも現実味が増してきます。それが過度期の技術なのか、そのまま本流になるのかはわかりませんが、実用性が証明されるためのハードルはノイズを完全に取り除いた量子コンピューディングより低いと言えるでしょう。
なお、ノイズの影響を許容した量子コンピューターは、NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum)と呼ばれます。これを古典コンピューターと組み合わせることで、ノイズがない計算は古典コンピューターで行い、そうでなければNISQの特性を活かした計算を行うというアプローチが可能となります。
つまり、現在利用できる高速計算の技術(例えばGPUなど)を利用することで、いわゆる古典コンピューティングと量子コンピューティングの良いところを組み合わせた量子古典ハイブリッドが注目されています。なお、古典といっても現在のコンピューディングのことなので決して古いわけではありません。量子コンピュータと区別するためにそう呼ばれているだけです。
例えば、2023年になってNVIDIAから量子古典コンピューティングに関する発表がありました。彼らはCPU、GPU、そしてQPU(量子プロセッシング ユニット)を統合して使える開発環境を提供すると宣言しています。ただし、QPU自体は実用化されていないので、当面はGPU上で量子コンピューディングのシミュレーションを行えるようにするとのことです。そうすることで量子コンピュータのハードウェアを待つことなくに理論的な研究が進められることが期待されます。
まとめると、従来期待されていたような大量の量子ビットを使ってエラーがない量子コンピューディングは幻滅期にあります。しかし、ポスト量子暗号や量子機械学習などの特定の分野では期待感が高まっていることがGartnerのハイプ・サイクルのグラフから読み取れました。それはやがては訪れるだろう量子コンピューティングの時代を何十年も待つ間にできることがあることを意味しています。また、そのような研究開発が、もしかしたら現在の我々が期待しているような未来図を書き換える可能性があることも示唆しています。
今後は、量子コンピューディングや量子機械学習関連の情報も不定期で紹介していく予定です。
お楽しみに!
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