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2023年人工知能(AI)最大のニュースはChatGPTではなかった

2023年の人工知能(AI)関連ニュースを振り返ってみると、去年の暮れに登場したChatGPTによって、今年はOpenAIが旋風を巻き起こしました。今では、毎日何をするにもなくてはならないツールとなっています。

でもそれだけでは十分でないとでも言わんばかりに、OpenAIは前CEOであるSam Altman(サム・アルトマン)を解任しました。

この記事では、先週週末を挟んだ3、4日間のほどの出来事を時系列に沿って解説します。


Sam AltmanのCEO解任

Sam Altmanの解任は、11月17日のOpenAIのブログにで発表されました。

アルトマン氏の辞任は、取締役会による審議プロセスを経たもので、同氏は取締役会とのコミュニケーションにおいて常に率直でなく、取締役会の責任を果たす能力を妨げているとの結論に達した。 取締役会はもはや、同氏が今後もOpenAIをリードし続ける能力に自信を持っていない。

Mr. Altman’s departure follows a deliberative review process by the board, which concluded that he was not consistently candid in his communications with the board, hindering its ability to exercise its responsibilities. The board no longer has confidence in his ability to continue leading OpenAI.

OpenAI announces leadership transition

なんで?という疑問符しか浮かびませんでした。理由がハッキリしない上、公にSam Altmanの責任能力を非難している。そんなに嫌われていたのでしょうか。

これに対して、Sam AltmanのツイートはOpenAIと仕事仲間への愛情に溢れているものでした。

私はopenaiで過ごした時間が大好きでした。 それは私個人にとって、そしてできれば世界にとっても少しでも変革をもたらすものでした。 何よりも、このような才能のある人々と一緒に仕事をするのが大好きでした。

次に何が起こるかについては、後ほど詳しく説明します。

i loved my time at openai. it was transformative for me personally, and hopefully the world a little bit. most of all i loved working with such talented people. will have more to say about what’s next later.

Sam Altman on X

対立構造があるようにも見えません。取締役会にとっては、よほどのことがあったとしかわかりません。しかし、これはOpenAIにとっては良い方向には進まないだろうなと感じました。

上記のツイートでは、「次に何が起こるかについては、後ほど詳しく説明します」と結ばれています。

この時に私が感じたのは、Sam Altmanならおそらく新しいベンチャーを初めて多くの優秀な技術者を集められだろう。そして、OpenAIから大量に才能流出が起こるのでは。Microsoftだってきっと出資するだろう、と。

Greg Brockmanも辞任

実際、Greg Brockman(グレッグ・ブロックマン)は、同じ日にOpenAIを辞めてしまいます。彼は、OpenAIの共同創設者であり、OpenAI の社長を務めていました。

Greg Brockmanから社員へのメッセージ

皆さん、こんにちは。

8 年前に私のアパートから始めて、私たち全員が一緒に築き上げてきたものをとても誇りに思っています。 私たちは厳しい時も素晴らしい時も一緒に乗り越え、不可能だと考えられたさまざまな理由があるにもかかわらず、多くのことを成し遂げてきました。

でも今日のニュースを見て私は辞任しました。

皆様のご多幸を心よりお祈り申し上げます。 私は、すべての人類に利益をもたらす安全な AGI を創造するという使命を信じ続けています。

Greg Brockman on X

続けて、Greg Brockmanは正直に知っていることを伝えました。

サムと私は、理事会が今日行ったことにショックを受け、悲しんでいます。

まず、OpenAI で私たちが協力してきた素晴らしい人々、顧客、投資家、そして手を差し伸べてくれたすべての人々に感謝の意を表します。

私たちも、何が起こったのかを正確に把握しようとしているところです。 私たちが知っていることは次のとおりです。

- 昨夜、サムはイリヤから金曜日の正午に話したいというメールを受け取りました。 サムは Google Meet に参加し、グレッグを除く役員全員が参加しました。 イリヤはサムに、自分が解雇されること、そしてそのニュースが間もなく発表されることを告げた。

- 午後 12 時 19 分に、グレッグはイリヤから会話を求めるテキスト メッセージを受け取りました。 午後 12 時 23 分に、イリヤは Google Meet リンクを送信しました。 グレッグは、自分が取締役会から外されることになり(しかし会社にとって重要な人物であり、その役割は留まる)、サムは解雇されたと告げられた。 同じ頃、OpenAI はブログ投稿を公開しました。

- 私たちが知る限り、前夜に知ったミラ以外の経営陣は、直後にこのことを知りました。

溢れんばかりのサポートは本当に素晴らしいものでした。 ありがとうございます。心配することに時間を費やさないでください。 大丈夫です。 さらに素晴らしいものが間もなく登場します。

Sam and I are shocked and saddened by what the board did today.

Let us first say thank you to all the incredible people who we have worked with at OpenAI, our customers, our investors, and all of those who have been reaching out.

We too are still trying to figure out exactly what happened. Here is what we know:

- Last night, Sam got a text from Ilya asking to talk at noon Friday. Sam joined a Google Meet and the whole board, except Greg, was there. Ilya told Sam he was being fired and that the news was going out very soon.

- At 12:19pm, Greg got a text from Ilya asking for a quick call. At 12:23pm, Ilya sent a Google Meet link. Greg was told that he was being removed from the board (but was vital to the company and would retain his role) and that Sam had been fired. Around the same time, OpenAI published a blog post.

- As far as we know, the management team was made aware of this shortly after, other than Mira who found out the night prior.

The outpouring of support has been really nice; thank you, but please don’t spend any time being concerned. We will be fine. Greater things coming soon.

Greg Brockman on X

ここで、Ilya Sutskever(イリヤ・サツケヴァー)がSam Altmanに解雇を告げ、Greg Brockmanに取締役会から除外されることを告げたことがわかります。さらに、Sam Altmanの代わりに暫定CEOとなったMira Murati(ミラ・ムラティ)以外の経営陣は誰も知らなかったとのこと。また、Mira Murati自身も前日まで知らされていなかったという事実。


左から、Mira Murati、Sam Altman、Greg Brockman、Ilya Sutskever https://www.nytimes.com/2023/11/18/technology/open-ai-sam-altman-what-happened.html
から引用

これを読んで、黒幕は、Ilya Sutskeverだったのかと思いました。とすると、Ilya SutskeverとSam Altmanの間に意見の対立があったのでは。

Ilya Sutskeverの暗躍

Ilya Sutskeverといえば、2012年にImageNetのコンペの画像分類部門で優勝したAlexNetのチームの一員です。その当時はまだカナダのトロント大学の大学院生でGeoffrey Hinton(ジェフリー・ヒントン)の指導を受けていました。そのGeoffrey Hintonは、AIのリスクについて自由に話せる立場になるために、今年になってGoogleを去っています。

今日のニューヨークタイムスでケイド・メッツは、私が Google を批判するために Google を辞めたとほのめかしました。 実際のところ、私は AI が Google に与える影響を考慮せずに AI の危険性について話すために退職しました。 Google は非常に責任ある行動をとっています。

In the NYT today, Cade Metz implies that I left Google so that I could criticize Google. Actually, I left so that I could talk about the dangers of AI without considering how this impacts Google. Google has acted very responsibly.

Geoffrey Hinton on X

おそらく、AIのリスクについてIlya Sutskeverも恩師と同様な態度をとっていたのかもしれません。そして、今年のOpenAIのビジネス全開モードに脅威と不安を感じていたのかもしれません。

最近OpenAIが開発者会議(OpenAI DevDay)で発表した、GPTsでは誰でも簡単にGPTを使ったアプリを作り公開できるというもので、OpenAIの目の行き届かないところで問題が生じる可能性がないとは言い切れません。

実際にどのような対立があったのか、なかったのかはハッキリとはしません。混乱した状態が続く中、OpenAIの社員たちが立ち上がります。

投資家やMicrosoftは反対

Sam Altmanは「ゲストカードをつけるのは、これが最初で最後だ」とツイートして、OpenAIの取締役との話し合いへと向かいます。

https://twitter.com/sama/status/1726345564059832609

その様子をOpenAIの社員がツイートして、それをSam Altmanがリツイートしていたりして、お互いに信頼関係があることを感じさせます。

https://twitter.com/jasonkwon/status/1726348678116548979

これは、OpenAIにSam AltmanがOpenAIのCEOに戻るのではと期待が広がりました。

フィナンシャルタイムスによると、投資家やMicrosoftの幹部らは取締役会の一掃やアルトマン氏の復帰などの選択肢を模索していたそうです。つまりは、Sam Altmanが復帰して、彼を解雇した取締役たちを逆に解任させようと考えたようです。おそらくSam Altmanもその意向を持って話し合いに向かったのでしょう。

しかし、Sam AltmanがOpenAIのCEOに復帰することはありませんでした。これは、取締役たちが辞任することを受け入れるはずがないので当然の結末でしょう。

Satya Nadellaの速攻

この数時間後に、Sam AltmanがMicrosoftへ移籍することが決まります。おそらく、彼はすでにそのようなバックアップの計画があるので強気の姿勢でOpenAIとの取締役との話し合いに向かったのだと思われます。それにしても、まるで映画のような展開。

MicrosoftのSatya Nadella(サティア・ナデラ)は次のツイートを発表します。

私たちは OpenAI とのパートナーシップに引き続きコミットしており、製品ロードマップ、Microsoft Ignite で発表したすべてのことを革新し続ける能力、そして顧客とパートナーの継続的なサポートに自信を持っています。 私たちは、Emmett Shear と OAI の新しいリーダーシップ チームを知り、彼らと協力できることを楽しみにしています。 そして、サム アルトマン氏とグレッグ ブロックマン氏が同僚とともにマイクロソフトに加わり、新しい高度な AI 研究チームを率いることになったというニュースを共有できることを非常にうれしく思っています。 私たちは、彼らの成功に必要なリソースを提供するために迅速に行動することを楽しみにしています。

Satya Nadella on X

ここで、言及されているEmmett Shearは、OpenAIの新しい暫定CEOです。この時点では、Mira Muratiの先行きがどうなるのかよくわからなくなりました。

いずれにせよ、Sam AltmanとGreg BrockmanがMicrosoftに加わることになりました。これは、MicrosoftがGoogleやMetaのように強力なAI研究チームを持つことを意味します。ここ数日のOpenAIのドラマの中で、一番笑っているのは誰でしょう。上記のツイートの画像から笑い声が聞こえそうです。

ちなみに、ここ数日のMicrosoftの株価の動きです。

https://yhoo.it/3uyCLF2

Elon Muskからの質問

その一方で、OpenAIの取締役で主任科学者であるIlya Sutskeverは、後悔を表明しました。

私は理事会の行動に参加したことを深く後悔しています。 OpenAI に危害を加えるつもりはまったくありませんでした。 私たちが一緒に築き上げてきたものすべてが大好きで、会社を再統合するためにできる限りのことをするつもりです。

I deeply regret my participation in the board's actions. I never intended to harm OpenAI. I love everything we've built together and I will do everything I can to reunite the company.

Ilya Sutskever on X

そこへ、Elon Musk(イーロン・マスク)が素朴な疑問を投げかけます。

https://twitter.com/elonmusk/status/1726753202786173249

なぜそのような大胆な行動を取った?

OpenAI が人類にとって潜在的に危険なことをしているのであれば、世界はそれを知る必要がある。

Elon Musk on X

これは鋭い指摘です。実際、何があったのかはよくわかっていません。


そんなIlya Sutskeverに対してもSam Altmanは優しい対応をとっています。

https://twitter.com/sama/status/1726594398098780570

意見の対立はあるかもしれないが、同志としての繋がりはあるということなのでしょうか。Sam Altmanのエクボの微笑みが見えそうです。

社員の大多数が抗議

ニューヨークタイムスの記事によると、770人の社員のうち700人以上が抗議を表明しました。

OpenAIの将来は危機に瀕しています。 OpenAIの従業員770人のうち700人以上が月曜日、追放されたサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)が再任されなければ退社してMicrosoftに移籍する可能性があるという書簡に署名しました。

The future of OpenAI is in jeopardy after more than 700 of its 770 employees signed a letter on Monday saying they may leave the company for Microsoft if the ousted chief executive, Sam Altman, is not reinstalled at the high-profile artificial intelligence start-up.

OpenAI Staff Threatens Exodus, Jeopardizing Company’s Future - The New York Times (nytimes.com)

以下に書簡の一部を紹介します。

あなたたち(取締役会)の行動は、あなたたちがOpenAを監督することができないことを明らかにしました。私たちは、能力がなく、判断力がなく、そして私たちの使命と従業員を気にかけている人々のために働くができないあなたたちのために働くことはできません。

私たち署名者は、OpenAIを辞任し、Sam AltmanとGrey Brockmanが運営する新しく発表されたMicrosoft子会社に参加することを選択できます。マイクロソフトは、私たちが参加することを選択した場合、この新しい子会社のすべてのOpenAl従業員のためのポジションがあることを保証しました。

現在の取締役会メンバー全員が辞任し、取締役会がBret TaylorとWill Hurdなどの2人のリード独立取締役を任命し、Sar AltmanとGreg Brockmanを復職させない限り、私たちはすぐにMicrosoftへ移籍します。

手紙の一部

この手紙には署名した人のリストがあります。最初の14人は以下の人々です。

https://www.nytimes.com/interactive/2023/11/20/technology/letter-to-the-open-ai-board.html

1番めは暫定CEOだった Mira Murati がいます。そして、12番目にはなんとIlya Sutskeverがいるではないですか

雨降って地固まるとなると良いですが。

みんなMicrosoftに移ってOpenAIはスカラカンになるのでしょうか。

以上、週末を挟んだ3、4日間のほどの出来事でした。

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