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2023年日本の量子コンピュータ関連ニュース

2023年もあと一か月とちょっとになりました。今年は、日本の量子コンピュータの開発に関する発表が相次ぎ出されました。情報の洪水に飲み込まれがちですが、大まかな流れを掴んでおくと今後のニュースを追いやすくなると考え、この記事では、時系列に沿って日本における量子コンピュータ関連のニュースをまとめてみました。


2023年3月24日: 理化学研究所(理研)、産業技術総合研究所、情報通信研究機構、大阪大学、富士通、NTTの共同研究グループが、国産超伝導量子コンピュータ初号機をクラウドに公開し、外部からの利用を開始しました。

さまざまな組織が関わっていますが、理研からは中村泰伸教授(東京大学)が中心的な役割を果たしているようです。

ちなみに、この量子コンピュータは64量子ビットを有しますが、IBMなどは百量子ビット以上のものがあるので、比較的にまだ少ないですね。それでも国産が登場したのは嬉しいニュースです。伸びしろ有りです。

量子コンピュータを利用できる「量子計算クラウドサービス」開始 | 理化学研究所


2023年4月11日: 凸版印刷と大阪大学量子情報・量子生命研究センター(QIQB)が、量子コンピュータを活用した材料開発・評価手法に関する共同研究を開始しました。

この共同研究は、量子コンピュータを材料開発と評価に応用することを目指しており、量子技術が産業界で実用的な応用を見つけ始めていると言えるでしょう。産業界(凸版印刷)と学術界(大阪大学)の連携により、新しい材料の物性値の予測や化学反応の解析の高速化と高精度化が期待されます。

凸版印刷と大阪大学量子情報・量子生命研究センター、量子コンピュータを活用した材料開発・評価手法に関する共同研究を開始 | 凸版印刷


2023年5月21日: 東京大学が、シカゴ大学、IBM、Googleと10万量子ビットの量子コンピューター実現に向けてパートナーシップを締結しました。

実際、どのようにして10万量子ビットを目指すのかはわかりませんが、ここでも産業界と学術界が連携をし情報や技術的資源の共有を図るのだと考えられます。IBMとGoogleは、別々の量子コンピュータと専用のソフトウェアを開発しており、ある意味ライバル同士でもありますが、こうして協力するのは研究開発の促進を促す可能性のある良い傾向ですね。資金も豊富でしょうし。

量子技術の研究領域でのさらなる発展に向けた協力について | 東京大学


2023年6月1日: 世界初!見ないで物の存在と位置を判定できる量子的方法を開発。

静岡大学大学院総合科学技術研究科理学専攻の 冨田 誠 教授 および 名古屋市立大学大学院芸術工学研究科 の 松本 貴裕 教授 の共同研究グループは、光を当てないで(物理的相互作用をしないで)物の存在と位置を同時に判定できる量子光学的手法の開発に成功しました。

「見ない」というのは、「光を当てない」ということです。通常、我々が物体を見る時には、物体から反射した光の波長を眼を通して感じ取っているわけです。つまり、物体に当たって反射した光子を捉えているわけですが、小さい物体だと光子を当てることで物体そのものにエネルギーを及ぼすのでなんらかの影響を与えてしまいます。すると位置情報などに誤差が生じたり、分子が壊れてしまうのですが、この研究では光子を当てずに物体の位置を測定できるのがすごいところです。科学誌ネイチャーにも掲載されました。


2023年7月18日: QunaSysが量子化学計算クラウドサービス「QURI」をリリースしました。

QURIは、量子アルゴリズムを用いた量子化学計算を、簡単に実行できるWebアプリケーションだとのこと。インターネットに接続するだけで、直感的なインターフェースを通して、複雑な量子アルゴリズムを実行することができ、筑波大学での講義で実際に使われているそうです。

ちなみに、QunaSysのアドバイザーである藤井 啓祐教授(大阪大学)は、上述のQIQBにも関わっています。

QunaSys、量子化学計算クラウドサービス「QURI」をリリース — QunaSys


2023年8月7日: 超伝導状態の長距離制御に成功。量子コンピューターや量子情報通信への応用に期待。

量子情報通信とは、量子力学の原理を利用した情報通信の仕組みです。量子もつれを利用して、情報を安全に転送することが可能です。例えば、量子暗号では、もつれた量子ビットを使って暗号キーを生成し、これを利用して情報を暗号化します。量子もつれの特性により、通信が外部から覗き見された場合、それがすぐに検出されるため、非常に高いセキュリティを提供します。

この研究チームは、超伝導体における超伝導状態を制御する新しい方法を発見しました。超伝導体は、量子ビットの材料として有力な候補であり、特に強磁性金属との組み合わせにより、マヨラナ粒子を形成することが理論的・実験的に報告されています。

マヨラナ粒子は量子コンピューティングにおいて非常に重要な役割を果たす可能性があると期待されています。特に、マヨラナ粒子を基礎とした量子ビット(qubit)は、外部の干渉に対して非常に安定していると考えられており、これが実現されれば、より安定した量子コンピュータの構築が可能になるかもしれません。

ちなみに、Microsoftは、マヨラナ粒子を含む独自の量子ビットの研究に取り組んでいますが、今のところあまり進展が見られません。もしかしたらMicrosoftと東北大学の連携もあり得るのかなと想像してしまいました。


2023年9月25日:理研、量子誤り訂正に機械学習 自律的にエラー検出。

理化学研究所量子コンピュータ研究センター(RQC)によると、量子コンピューターの誤り訂正を機械学習を利用することで自律的に行うことに成功したとのこと。論文サイトのアーカイブにはだいぶ前から出ていましたが、強化学習を使っています。

他の手法より単純でありながら、装置の複雑さを大幅に削減し、エラーを訂正する能力も上回ることを発見したそうです。

このような量子と人工知能の組み合わせは、もっといろんなところできっと出現するのでしょう。

Machine learning contributes to better quantum error correction | RIKEN


2023年10月5日: 富士通と理研が国産2号機の量子コンピューターを開発しました。この量子コンピューターは64量子ビットで、理研の初号機の開発ノウハウを基にしています。

初号機と同じ量子ビット数ではありますが、ハイブリット量子コンピューティングプラットフォーム「Fujitsu Hybrid Quantum Computing Platform」の一部として、世界最大級の40量子ビットの量子シミュレータと連携することが可能です。これによって富士通と理研は、より高精度な量子ゲートの実現とハイブリッド量子アルゴリズムの開発に取り組んでいるとのことです。

誤り耐性型汎用量子コンピュータが実現するまでまだ10年20年とかかるとされているので、今後も量子コンピュータとシミュレータのハイブリッドがいろんな方面から話題になることでしょう。最近では、NVIDIAのcuQuantumもGPUを使った量子シミュレーションを行うプラットフォームとして話題になりました。

超伝導量子コンピュータを開発し、量子シミュレータと連携可能なプラットフォームを提供 | 理化学研究所


2023年11月16日:日米経済政策協議委員会が開催、AI半導体の協力拡大などを協議。この協議の中では、量子技術ついて、今後の協力の方向性について議論が交わされたということです。

日本側からは西村康稔経済産業大臣及び上川陽子外務大臣。米側からはジーナ・レモンド米国商務長官とアントニー・ブリンケン米国国務長官が出席しました。

米国国立標準技術研究所( NIST)と日本の産業技術総合研究所との間の覚書が 改訂され、量子技術が協力分野として拡大されたこと、また、量子技術に関する強固 な量子サプライチェーンと実用的 なユースケースの開発を支援するため に共通の研究テーマと国際標準化活動に関する共同協議が開始されたことを歓迎する。

共同声明(訳)

量子技術は、量子情報通信、量子暗号、量子センシングなど経済的そして軍事的にも重要なことは間違いないので、日米で共に歩みをそろえるのは経済安全保障上もクリティカルであるのが伝わります。こういうことも量子コンピューティングを後押しする力になることでしょう。平和利用が進むことを願うばかりですが。


以上、今年の3月から11月まで、一月一記事をピックアップしてみました。もちろん、もっとたくさんの記事がありますがキリがありません。さらに、海外情報を含めると大変です。AIと比べると進化の度合いはゆっくりとしていますが、一度勢いがつくと世の中に大きな影響を与えるのは間違いありません。

よく登場する大学や教授の名前を知っておいたり、いろんな情報にアンテナを張って概要を知るようにするだけでも、これからのニュースにも親しみが湧くと思います。

なので、これからも気になる量子関連、特に量子機械学習・AI関連のニュースを取り上げていくつもりです。

では、また。

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