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印画紙

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黒い髪の人間が立っている

白い肌に、笑っているような無表情
ゆったり、晴れやかに、悠然と立っている

すると一斉に、さくさく働き始める

小さく精巧にできた細工みたいに息を合わせて
ペンギンの群れのように可愛くて、ニシンのように怖く、美しい
とても邪魔したくない!!
彼らの異分子になりたくないよ

怖くないの?どうして?
周りがどんなに不思議がっても、彼らの耳が私たちの声を拾うことはない
彼らなりの取捨選択が無意識のうちに行われていて
全員がそれを共有し、無言で頷きあう
にこりともせず

なんて可愛らしい
昔シルバニアで作った小さな集落のよう

私たちは未曾有の大災害を前に、毎日どきどき、せこせこ、いらいら
なにをやっても間違ってる気がして
神に祈って、やっぱそれは良くないということになったので医者を崇めて

予想外の出費を繰り返し、繰り返し
謎に儲けて

泥のように疲れているのに、どうしても手を止められなくて
走って、走って、
そんな1分2分早く動いたからってどうにもならないのに走って
はぁ、、そんな時ふと、
冷たく静止した空気が背中を撫でる

あの人たちは絵画か?神様なのか?
宇宙で起きてることにまるで関心のない、穏やかな眼差し
古い写真に写る、異様にぎこちない表情の、人形のような佇まい
(長時間かかったからね)


危ない!大変!こんなに酷い状況!!
大慌てで伝えても、にこり、口の端だけ動かして
はい
はい
そう、その通り
ええ
どうも、お疲れ様です

彼らには怒りも焦りもない
改善するために動くなんて、とんでもない
災害?人災?独裁?
破滅?
そんなこと、生まれた時から知っているから
「滅び」に最も近く、最もなかよしな彼らは
一緒にスマブラをやりながら
窓の外がピカッと光って、すべてが消える日を待っている

溺れていく人のように、差し出された手を引きずり込む
そんなつもりなくても、7人岬
生きている人、これからも生きていく人には何もできないんだ

どんなに理屈を組み立てて
証拠をバシッと出したところで、のれんに腕押し
彼らは一人の女のように、全ての理不尽を呑み込んでいく
朗らかな無表情で、ただそこに居る

ぼくに出来ることは、何もない…
死ねばいい
女なんか死ねばいい
家族なんか死ねばいい
全員死ねばいい
ぼくは生きているし、生きていく
たとえ家族と一緒に死ねなくても、ぼくは生き延びる
絶対…

でも心のどこかで
その美しい女の細胞になれたなら、
そのカワイイ動線に沿って、小さな尊い時計になれたなら
暖かい死のベールに呑まれ、大きな布団の綿になれたなら
人間が持つ「滅び」という財産の一つになれたなら


彼らは人魚のようにサイレンを発し
ぼくはそれに霧笛で答える


晴れ渡る寒い空の下、何にもよっかかれず
恐ろしい波に泣き叫び、
笑って、また叫ぶくらいなら
家族や恋人を失って、何も恨めないまま酒を飲むくらいなら

おこづかいを貯めて買った大好きなキーホルダーを、理不尽に砕かれるくらいなら

彼らの霧
なめらかな霧

彼らの凪
なまぬるい凪

彼らの歌
松原まで響いてくる、日没の歌

あれこそ私たちが、人類が、ずっと求めていた救いの姿なんじゃないのか


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