見出し画像

アイドルマスターを称する成人が和菓子を通じて人生と向き合った日

 2022年8月、関東に来ていた私はLegendersのお仕事コラボで玉屋カフェを訪れた。待ちに待った担当が関わったSieMお仕事コラボ。新江ノ島水族館でご機嫌になってからふらふらと時間をつぶして予約した16時に店に入った。店内にカフェスペースがあるのに気付き、「あぁ、あそこの席なんだ」と一瞥した。

 お店に「アイドルマスターですが…」と伝えた。店の人は用件を分かっていたようだが、付近にいた他の一般客は私をトンチキな称号をアピールするやばいやつと思っただろうか。店の人は私に靴を脱いで店の座敷へ進むよう促した。アイドルマスターなので他の客が入れない場所へ通された。

 さて、玉屋cafeの場所はどうやら店内の分かりやすい場所にあるカフェスペースではなかったらしい。面食らった。靴を脱ぎ、地面より1段上の座敷に上がると、目線が高くなって周囲との隔絶を感じた。そして1階の座敷を通り抜け、廊下へ出ると僅かにきしむ感覚があった。
「寂だ…」
 順路に沿って2階へと上がった時、湘南の喧騒は聞こえていなかったような気がする。和の落ち着いた雰囲気と裏腹に私は動揺していた。私はカフェと聞いてたので、てっきりカービィカフェとかムーミンカフェみたいなふわふわ空間を想像していたが、ゴリゴリお座敷だった。

 既に何人かの参加者が入室していたのは伺えた。他の参加者は背筋をスッと伸ばしており、私と同様に緊張していたのだろうか。受付を済ませた私が入った途端、一斉に視線が私に集まる。異常自意識成人男性の私は体温が下がったような感覚がした。このような状況には心当たりがある。刃牙道の宮本武蔵が視線だけで対戦相手に死を錯覚させたアレだ。ちなみに参加者は8人ぐらいいて男性は私だけだった。静なる茶室の雰囲気に飲まれ、緊張感で戦が始まるのではないかとオドオドしていた。

 受付のお兄さんの挨拶と説明があり、ねりきりが運ばれた。参加者はぬいぐるみやキーホルダーなどを取りだして写真を撮った。誰一人槍や刀を取り出さなかったので安心した。恐る恐る私もレジェのぬいを出して撮った。次に遊び心ある見た目に向き合い、いただくことにした。

 口に入れた途端、すべてが裏返った。

「美味い!!!!!!!!!!!!!」 

 緊張で力んだ私の肩は重力から解放された。畏まった場では緊張で味を感じにくくなるときはあるが、玉屋のねりきりはそんな状況でも美味しく頂ける。口への入りがサラッとしているが、甘みは存分に染み渡る。
 私は和菓子をよく食べる。スーパーやコンビニなどで買った羊羹も好きだが、買いやすいものは甘みが強すぎるあまり「まぁ、こんなもんでいいや…」と短時間ですましがちだった。
 しかし玉屋ねりきりは短時間のうちに食べるのがもったいなかった。舌が甘みに触れた時、己はどう感じているのかを問い続けた。何度問うても答えは決まって「美味い」だった。この甘みに身をゆだねたいと考えていた私には「時間が美味しい」という感覚さえあった。
 ここでLegendersのある楽曲を思い出す。『FOCUS ON YOUR LIFE』だ。訳すと「己と向き合え」というところか。あの時私は味わうことで己の人生に向き合い続けた。味わうという行為は過去と未来の狭間にある「今」に向き合うことだった。今回Legendersと玉屋本店がコラボするべくしてコラボしたのだと確信した。

 最後にこれだけ言わせてほしい。
「玉屋のねりきり最高でした!!!!!!!!」

 マジでおいしかったです。凝った空間と遊び心あるお菓子が最高でした。本当にありがとうございました。

お座敷に飾ってあった掛け軸

おしまい


読まなくていい前日譚


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?