アカペラパートナー「電子レンジ」。
電子レンジのスタートボタンを押すと、ブーンという低音。
チンと鳴るまでの手持無沙汰な時間をYouTubeを見たり、Twitterをスクロールしたりして過ごしてきた。
でも、ある時、あ、これハモれるんじゃと思ったのが始まり。
別に大した意味もなく、ブーンに対して高めにハモったり、低めにハモったりしているうちにメロディーが出るようになった。
もちろんオリジナルなんかではなく、どこかで聞いたようなメロディーをつぎはぎしたそれっぽいもの。とてもじゃないがここで披露はできない。
凛としているが物悲し気なものが多く、例えば、戦に敗れ押し寄せる敵を塔の小さな小窓から見つめる女王のもとに春を告げるように蝶がヒラヒラと舞う。女王がふっと笑みを含めた時、ガチャガチャと騒がしい鎧の音、階段を駆け上がる音と共に決して頑丈ではないその木の扉が押し開けられようとしているさま。扉の方に向き直り、静かに覚悟を決めた女王の表情をとらえつつ映像はどんどんフェードアウトする。塔の小窓はどんどん小さくなり、真っ赤な炎の中央に位置するその塔をとらえながら更にフェードアウトしていく。そんな時に女性のハミングで奏でられる物悲しいメロディー。
説明が非常に長くなってしまったが、そんな雰囲気を醸し出しながら私は電子レンジを前にして歌うのである。
気が向いた時に歌っていたのが、今ではレンチン=歌うという習慣を何の苦労も無しに身に着け、さらにはレンジのブーンと同系統の無機質な音探しの旅は始まった。
ただっぴろい駅のエレベーターの近くでたまたま人がいなかったのをいいことに、私はどこからともなく聞こえる超低音のブーンとともに讃美歌のようなメロディーを紡ぎだし酔いしれた。声がワンワン響く点もポイントが高かった。
ちょっと遠くのトイレから人が出てきた時は、心臓が止まりそうになったがしれっと私は人を待ってるんですという雰囲気を醸し出せたかどうかはもはや気にならないほど気分が良かった。
最近では、洗濯機の音にもハモりだした。トイレに籠っていた時に洗濯機を回していて、「あ、これもイケる」と手を出した。音の間隔が少し空いているので、ちょっとパターンを変えてみたり、ただただ楽しい。
あらゆる機械音でハモってみたいという野望が生まれた。
趣味というにはしょうもなさすぎる「レンジとハモる」。
この趣味を共有できる人はまだいない。なんか変な人と思われそうで、Twitterでもつぶやけなかった。でもどこかでひょっとしたらレンジとハモっている人はいるかもしれない。もしいたら話してみたい、という好奇心はたまに湧いてくる。案外レンジでハモるの普通でしょ、という世界があるのかもしれない、と期待を込めてここに書いてみる。
レンジとハモってますという方、いらっしゃいましたら是非ご一報を。