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木曽馬を観に行くの旅(一日目)

2024年10月中旬の土曜日。
7:45、名古屋市今池のレンタカー店発。朝のニュースで「行楽日和でしょう」とうきうきした様子だった天気予報士の言葉通りの晴天。
先週ごろからようやく存在感をかもしだした秋の空気で、車の窓ごしに見える町もなんとなくぴっかりしている気がする。北東へ向かう19号線に乗ったら、最初の目的地まで「しばらく(96km)道なりです」とカーナビが言う。
長い夏がようやく過ぎ、冷房を使わなくて大丈夫な気温になって嬉しい。窓を少し開け、日差しはまぶしいので帽子をかぶる。
春日井、多治見を過ぎてのんびりした景色、視界のむこうに見える田んぼは収穫の時期で、刈り取られた稲が束になって干されていたり、あぜ道に彼岸花が鮮やかに咲いてるのが見え、虫はジージー鳴いている。それにしても彼岸花は不思議な植物だなあ、花が咲いている時期以外の姿を知らない。
ラジオをつけるとNHKで登山の番組がやっていて、雲海観測をしている方がゲストだった。霧というのは、「○キロ先が見えない」などの定義があるけど、雲海というのは『景観』なので、見る人が雲海と言っちゃえば雲海なんですよ、とのこと。

土岐、瑞浪、恵那、中津川(市街地あたりはわりかし渋滞してた。岐阜の友達が以前、栗の時期のあのあたりはほんとに混むよ、と言ってたのを思い出した)をこえて木曽へ。
本格的に山あいへ入り、道もすいすい、気温も19度と快適。
最初の目的地にしていた、山の名前をしたお蕎麦屋さんへ11時少し前に到着。開店前にしてすでに10人ほど並んでいて人気店なんだなあ。しばらくして開店時間、お店に入ると大きな窓から変わった形の山が見える。ざる蕎麦と、贅沢して大海老天を注文。そうそう、今は新蕎麦の時期なのだ。
ここのお店のざる蕎麦は色が濃くて不揃いの太さで、たいそう歯応えのある蕎麦だった。漫画で擬音をつけるとしたら「ツルツル」ではなく「わしわし」である。大海老天はほんとに大きくて美味しかった。蕎麦湯もたっぷりあってよかった。

12:00、出発。道路はほとんど混むこともなく、左手には大きな山が連なり、ずっと心地いい。途中寄ったお土産屋さんには松茸や見慣れないキノコが並んでいた。「心地よい苦味」のクロタケ、「天然のダシが美味〜」のショウゲンジ。リンゴもたくさん並んでて買いたいけど明日にしよう。以前滋賀で買って美味しかったポポーも並んでたけど、明日もどこかで売ってるだろうか。

たぶん奥に見えるのが御嶽山かな〜

19号線からはなれて、開田高原方面へ向かう。山道をぐんぐん標高も上がり、いくつかトンネルを抜けると「ようこそ開田高原」の大きな立て看板。
道路横に並ぶ木もいかにも高原といった佇まいの木で、幹は白くて葉は小さな丸型。たぶん白樺の木ってやつだろう。とにかく景色がスカッとしててよい。しばらく行くと、開田高原アイスクリーム、の看板が見えてすかさず駐車場へ入る。行楽地のアイスクリームってなんでこんなに魅力的なんでしょう。
13:15、開田高原アイスクリーム工房入店。白樺の木に囲まれたお店で、併設の工房でバターやチーズなども作っているらしい。季節限定の蕎麦ソフトも気になりつつ、珍しいとうもろこしソフトを注文。食べると確かにとうもろこし!美味しい。

店の前のベンチですこしのんびりしたのち、車に乗り込みすぐ近くの『木曽馬の里』へ向かう。
ひらけた中の細い道を車で進むと、ずっと続く放牧地の柵の向こうにゆったりした馬の姿が見えてくる。何箇所かに分かれた放牧地にはそれぞれ木曽馬が何頭かいて、全体で三十頭いるらしい。みんな地面の草をはみながら、尻尾をぶんぶんふりまわして虫を追い払っている。
駐車場に停車。案内書によると、木曽馬は日本に昔から飼われていた小型の在来種で、丈夫なため山間地の農耕馬として重宝されていたらしい。しかし戦争が拡大するにつれ、小型な木曽馬は軍馬に向かないとして大型の外来種との交配が進められてしまったのだけど、その流れに反発した人々が密かに残した木曽馬がいて、戦後、木曽馬保存事業を軌道に乗せることができたのだそう。
木曽馬はとても優しく賢くて人に懐っこいらしい。柵に近寄ると、馬から近づいてきて頭を触らせてくれて、少しするとどこかへ行ってしまうけど、すぐに他の一頭がやってきてまた触らせてくれるのだ。鼻と口まわりがとてもふわふわしてて温かくて、上等なはんぺんみたい。

木曽馬トレカ

乗馬センターにて、一人乗りコースを受付してもらう。ヘルメットと丈夫な上着を着て馬場へ。
乗せてもらうお馬は、初花(ウイカ)さん18歳、人間の年齢にして54歳とのこと。初めの二周は引き綱で、基本の騎乗方法を教えていただく。「進め」は、お腹の横をトントン足で叩く、「止まれ」は、引き綱を引っ張る、止まった後には首の横を撫でて褒めてあげる。
初花さんはとにかくマイペースとのことで、ゆっくりじんわりと自分自身の進みたい方向へ勝手に流れていくし、基本地面に気を集中している。でも気を荒げることはまったくなくて、ずっと同じスピードで歩き続けてくれる。鞍越しの背中は大きくあたたかくて、ものすごく安心感がある。
20分はあっと言う間に終わって、背中から降りると初花さんにものすごい勢いの鼻息を吹かれた、どうもお疲れ様でした。
その後もしばらく放牧地の木曽馬たちを眺める。犬みたいに、仰向けになって背中を地面にこすりつけたあとものすごい勢いで立ち上がりブルルルと言っている馬がいたり、馬を見て特に何の恐怖もおぼえずヘラヘラ笑ってる犬もいた。

右が初花さん

15:30、出発。峠をこえ、20分ほどで『山下家住宅』、併設の考古博物館へ。
解説によれば、山下家とはここ開田の地で江戸中期から大正初期にかけて栄えた地馬主兼獣医さんの家らしい。それがとても立派で大きな家なので、長野県が県宝として保存展示しているのだ。
受付をしてくれた管理人の方が、受付から出てきてこの大きな家の説明をしてくださる。
特徴的なのは、家の中に馬屋があることで、ここに四頭ほどの木曽馬が暮らしていたらしい。その馬糞から出る熱によって冬もあったかかったということで、なんかすごい話だ。
で、この山下家では多い時に三百頭の馬を飼っていたらしく、家に住まわせるの以外は、近所の農家のみなさんにリースしていたとのこと。春に仔馬が産まれると木曽福島の馬市へ売りに行って、その稼ぎは農家さん1/4、残りは山下家のものになったとのことで、それでこんなに大きな家が建ったんですね〜と。なんせ、開田の一年の運営費と同じか多いくらいの金額だったらしい。
当時のこのあたりの民家の写真も展示されており、その屋根は板を何枚か並べた上に石が置いてあるというもの。茅葺ではないんですね、と聞くと、茅は馬たちのご飯にするから、らしい。
そういえば、祝い事の日や寒い日(という説明だった気がする…ちょっと不確か)には馬に味噌汁を飲ませた、という説明もあった。馬はよく汗をかく動物なので、塩分は必要なものなのだ。
広い建物をぐるっと見学して、隣の考古博物館も観て、閉館十分前に出る。

16:30、すぐ近くのお宿へ。チェックインしたのち近所の散歩に出る。お宿の横の道をあがると広い畑のなかを行くまっすぐな道に出て、ススキがたくさん揺れている。小さな街灯には馬のモチーフがぶら下がっていてかわいい。並ぶ民家はひっそりとしていて、通りすがりの背の曲がったおばあさんが「さむいねー!」と声をかけてくれる。

カッパが缶拾い?をしてるの図

18:00、お宿にて夕食。めちゃ品数があってコース形式で一品ずつ配膳いただいて、ぜいたく〜。もうひと組のお客さんはご年配の男女で、中盤までは二人でにこやかに会話をしていたのだけど、しばらくして女性が「あんたはほんとにいっつも食べてる。ご飯の後にアイスも食べてるしお菓子も食べてる。いつも食べてるのにそれを忘れる。記憶喪失か」と急に辛辣。コースの最後には二人ともニコニコご飯をおかわりしていて、よかったですね。

ゆっくりしたので部屋に戻ったのは19:30。のんびりと日記(これ)をまとめて、そういえばきれいに星が見えるかな〜と思ってさっきの散歩道に出たら足下がまっくらで道を踏み外しそうになったりして退却。お風呂に入って、明日は8時に朝ごはん。

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