ミッドナイト・ファミリーから見る、メキシコシティと東京の救急車事情。
ユーロスペース1館でしか上映していない、米アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門ショートリスト選出の作品。(2019年81分)
冒頭、「メキシコ・シティでは、人口900万人に対し、行政が運営する救急車は45台にも満たない」という字幕が現れて映像が始まる。
オチョア家は無認可の私営の救急車で日銭を稼いでいる。そんな彼らの日常を捉えたドキュメンタリーだ。起承転結は特になく終わりに向かって何かが大きく変化する訳ではなかった。ただそのリアルをずっと傍観する。鼻が折れた少女や、4階から落ちた娘、交通事故にあった家族を運ぶが、お代は払ってくれない人も多い。「1500ペソでいいから」とオチョアが運ばれた患者の家族に頼むシーンで、ペソやメキシコシティの相場が気になったので調べてみた。メキシコ・ペソは1ペソ大体5円、単純計算で7500円か。たまたま海外の救急車料金をまとめたpdfがネットにあった。https://www.city.kobe.lg.jp/safety/fire/outline/kobesyoubo/img/3rdsiryou4-2.pdf 大体2万円〜といったところか。それよりは安いのだけど払ってくれない人は多い。メキシコの平均月収は26,800ペソと公表されていて、LOWが3,630ペソ、HIGHが11,900ペソとなっており、貧富の差が大きい。
と、少し別のことに触れてしまったけど、東京の救急車の台数を調べてみた。東京消防庁によると救急車は 236 台。 (年間)救急出動件数 74.2 万件、64.9 万人を搬送、1 台が 1 日に 8.7 回出動。ざっくりメキシコシティの5倍といったところ。でも治安は圧倒的に東京が良い(はず)。銃で脚を突然撃たれたり、ヤク中の父親の子供が意識不明になってたり(作中に出てくる)はなくはないけど稀だと思う。私達は当たり前に119にかけると救急車が来てくれると信じているし、大体すぐに来る。私自身も昔、雨の日にドミノピザのバイクに撥ねられたが、周囲の人が救急車を呼んであっと言う間に来た。それがメキシコシティでは当たり前ではないのだ。40分以上待たされてる、みたいなシーンもあった。もはや自力で病院にいった方が早い領域だ。私の叔母は福祉の仕事でラオスに行っていたが「救急車なんで全くと行っていいほど来ない」と言っていた。
このドキュメンタリーを観ていて思ったのは、今コロナコロナな日本だけど、ヨボヨボ(ごめんなさい)の老人が外出しているのを見ると目を疑う。ただの風邪や肺炎でも入院しそうなレベルだ。他にもマスクをつけずに渋谷をうろつく若者や集まって飲むことをやめない人達。彼らを見ると「自分がいざとなったら救急車が来てくれるし、医療体制の整った日本で死ぬことなんてない」と思ってるんじゃないだろうかと思ってしまう。
メキシコシティや海外のとある国では救急車は待っても来ないし、民間の病院は高くて払えない、だから、日本より自衛しようと言う意識が高いんじゃないか、とこの映画を見ていて思った。実際、庶民は具合が悪くなってもよっぽどじゃない限り薬局で薬をもらって自宅療養するらしい。私は以前、映画でよく見る風景を見たくて、一人でNYに行った。先進国だしインフラも整っている。でも日本と明らかに違うなと肌で感じたのは「自己責任」感だった。日本はサービスが悪いと店員に喚く人をよく見る。地下鉄でもいつでも乗務員がいて安全を見てくれたり切符の買い方まで教えてくれる。NYにはそんなものはなかった。店員も無礼な客にはキレるし(小銭ジャラジャラ出すだけでもマジかよ、みたいな顔をされる)地下鉄で切符を買い間違えても自分のせいだと諦めるしかない。でもそれが逆に心地よかった。政府や医療に文句を言う人は選挙に毎回ちゃんと行き、必要ならデモをやったりしているのか?と思う。医療に文句言う人はその前にちゃんと自分でできる限りの自粛しようよと思う。
たまたま日本という恵まれた国に生まれて安心安全の上に胡坐をかいて、コロナに自らなる人より闇営業でも無償でも救急車を毎晩走らせるオチョア家の方が何倍も偉い。と思った。