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建築旅 #006 【Museum of Islamic Art, Qaṭar Doha, by IM Pei, 2008】 23th Dec 2024

とんでもない建築

初日からかなりハードだった。やっと1日が終わり、今日はカタール2日目。奥さんが言うには今日は美術館デイ。歩いて行けるので歩いて行こうと、海岸沿いから歩いて向かう。見えてきた、イスラム芸術博物館。ニカーブから目を覗かせている女性を彷彿とさせるファサード。強烈なデザイン。

歩いて向かう
正面からスロープでアクセス

芸術的なキャノピー

奥さんが説明するには、敷地をここに選んだのも建築家であるIM Peiだったとか。建築自体がほぼ島になっている。開館時間よりも随分前に到着してしまった。エントランスの係員は親切に「15分くらい前になれば中に入って待てるけどちょっと早すぎるので、もうちょっと待って!」とのこと。しばし周辺を歩く。開館前の清掃に余念がなく、海の上のゴミまでボートを出して清掃していた。

片持ち梁先端に花を乗っけているみたい
スロープの下には搬入路がある

1型減らせたのに

周辺散策を終えて、15分前にもう一度エントランスへ行くと中に通してくれた。「チケット販売まで時間があるからそこの椅子で座って待って」と言われて、椅子に座る。本当にみんな親切です。待ちながら、前の天井を眺めていたら、天井の分割の終わり方が変だな、と思った。1型減らせたのになんて事をここでは思ったがこれは大きな間違いであったことに後ほど気がつく。

これが正解
45°グリッドが支配する空間

1000手先 物の納まりを見通した建築

あぁ、やっぱりすごい。これがプロの仕事だ。選ばれている材料、工法、納まりの寸法、、、全てが計算され尽くされている。丁寧に作られていてそれがこの建築の緊張感を、作り出している。「博物館ってこうでなきゃ」そう思わせてくれる見事な建築。

エントランスを入ってすぐの階段


OMAの建築とは対極にある正統派の建築

IM Peiの作品で今まで体験したことがある建築は、ルーブルとミホミュージアム。前日訪れたOMAのQatar National Libraryとは対極にある。

正面にはWest Bay

建築世界の両極の彼方

やはりこの10+1の上原さんのこの言葉がしっくりくる。

OMAの建築では「建築はこう建てる」という見方を意識的に廃棄し、回避することから建築がスタートしている。

善悪の彼岸──OMA/レム・コールハースのディテール | 上原雄史+塚本由晴より

OMAの建築が上記の思想から構築されているものであるとすれば、IM Peiの建築はその逆。IM Peiの建築では「建築はこう建てる」という見方をそれまでの経験から1000手先まで見通すところから建築がスタートしていると言えるのではないか。

グリッドに拘束されている
それでいてデザインに余念がない

石と鉄のマリアージュ

面白いのは考古学的な古典建築になっているかというとそうではない。石の使い方は随分軽やかに使われているところも見られるし、何より鉄の使い方が上手い。必要となる設備なども見越した構造デザイン。石と鉄の接点は最小限になるように工夫されている。まさに石をリスペクトしながら鉄を使っているあたり、流石です。

最小限の接点
軽やかに見せている

石の使い方 ガラスの使い方

石の使い方も見ていて気持ちが良い。フォスターも参照しているに違いない。ガラス手摺は、単板。歪みも少ないので強化ガラスではない。うーーーん。どうしてこれを成立させているのか謎だ。

石の扱い方流石です
単板のガラス手摺

シャンデリア

シャンデリアがタイロッドで吊るされているが照明の配線がよく見えない。上階から見下ろすと照明配線がタイロッドの上端をはつってその中を通されている。流石です。

タイロッドで吊るされているシャンデリア
綺麗に配線されている

展示室の中も美しい

展示室は4層。くるくると回遊しながら、例のブリッジを渡って階段を登る。このシークエンスもたまらなく気持ちが良い。展示室の中の展示ケースのディテールなどもかなり完成度が高い。いやもうすごい世界だ。こういう本物の博物館を設計させてIM Peiの右に出るものはいないと思う。

展示室

重箱の隅

こういう建築を体験していると、ついつい細かいところにも目がいってしまう。階段の段割りと石の割があっていない。なぜだろうか。吹き抜けから見ると鉄のまぐさも微妙にレベルが違う。とはいえ材料を鉄のまぐさにして馴染ませている。平面方向は完全にコントロールされているが、断面方向のモジュールは少し爪が甘かったか。これは会社の師匠と一晩語り明かせそうなポイント。帰ったら話そう。

なぜかレベルが合っていない
巾木はないので鉄のまぐさの天端がFL
馴染ませている

床の石割

床の石割りも徹底されている。隅っこで一瞬目地があっていない場所もある。これは壁際のボーダー石との関係を優先させたわけで間違ったわけではない。ここまでモジュールを徹底した建築。感服です。

壁際のボーダー
天井との関係性はあっている

OMAとIM Pei

2人の対極にいる建築家の建築を同時に体験できるのは素晴らしかった。自分の立ち位置がよくわかる。この経験を通して、自分の軸足はIM Peiでありながら、OMAのような建築が作りたいということがよくわかった。会社員生活と自分のこれまでの好みで徹底的にIM Pei的な、工法としてのディテールと、デザインとしてのディテールは習得してきた。もちろん、OMA的なそれを実現するためのトライアルもしてきているが、今の社会情勢と求められる役割の中では難しかった。自分に残された時間もあと少し。うだうだ言っている場合ではない。そんな事を考えながらこの建築を後にした。

素晴らしい建築をありがとう

所在地


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