サムライは田中将大を仕留められるか
2021年1月28日、東北楽天ゴールデンイーグルスは、ニューヨーク・ヤンキースからFAとなっていた田中将大の獲得を発表した。2013年以来、実に8年ぶりの復帰である。
衝撃の報を、皆さんは如何なる心境で受け取っただろうか。人気も高い同投手の復帰に歓喜した方も、まだまだMLBで先発投手として活躍できる状況での復帰に複雑な思いを抱いた方もいたことであろう。
筆者としても気持ち半々といったところであるが、MLBの開催さえ微妙な状況と各球団の緊縮財政に伴うストーブリーグの鈍化を見れば、とりあえず1年間は楽天で目一杯プレーする(オプトアウト可の2年契約)という選択は、決断の先延ばしではなく、それこそが素晴らしい決断だと感じるし、応援したいと思う。
契約云々に関しては本人の決断なので、これ以上は控えよう。
何はともあれ、現役大リーガーのプレーをNPBで見ることができるというのは非常に楽しみである。しかも初来日の外国人選手とは違い、ストライクゾーンや配球の違いなどの環境要因に成績を左右される心配がほとんどない状態で。
圧倒的な成績を残す可能性が高いように思える。しかし、田中がNPBで最後にプレーした2013年よりNPBのレベルは上がっている(はず)。むざむざと沢村賞を献上するのもなんだか癪なので、NPB打撃陣の奮起も期待したいところである。
そして筆者は、この田中とNPB打撃陣の攻防を通して、NPBとMLBの打撃力の差を注視したいと考えている。注目すべきは田中の「投球ミス」と「被長打」である。
近年の田中の投球は「晴天or土砂降り」といった内容が主であった。強力打線をシャットアウトする完全投球を見せたかと思えば、伝家の宝刀スプリットを含め、投球が甘く真ん中付近に集まる日はメッタ打ち。四球から崩れるタイプでも、守備に綻びがある選手でもない。ピンチになればギアを上げる術も持っている。田中の成績が安定しなかったのは、MLB打撃陣が圧倒的な打撃力(長打力)をもって田中の投球ミスを逃さなかったからであった。
被本塁打の数ひとつを見ても、NPB時代の66/1315回とMLB時代の159/1054.1回では圧倒的な差がある。特に2017年以降で見れば、2017年の35本を最高に毎年30本前後の被本塁打を喫している。(短縮シーズンの2020年は除く。)
近年の田中の投球を見るのは痛々しかった。好投を1球のミスで不意にしたり、修正が効かず早期降板してしまうシーンをたびたび目撃した。2017年以降フライボール革命は全盛を迎え、本人的にも技術面でスランプがあったようであるが、それを踏まえてもNPB時代では考えられない炎上登板を見るシーンが増えた。「甘い投球がファウルになっていたなら…」そう思わせる投球が山のように続いた。
そして今回のNPB復帰。同様の光景はNPBでも繰り返されるのだろうか。
田中を打ち崩すカギは甘い球を逃さないこと。NPB打撃陣は、そのアプローチを遂行できるのだろうか。
この問題に関して、昨シーズン北海道日本ハムファイターズでチーム最多タイの8勝を挙げたドリュー・バーヘイゲンは重要な示唆を残している。
彼らは選球眼が良い。それほど追わない。逆に、甘く入ってもそれほど酷いことにはならなかったりする
これは、米メディアのインタビューでNPBの印象を問われたバーヘイゲンの回答である。(詳しくはこちら。https://full-count.jp/2020/11/29/post986070/)
さらに「ど真ん中」をテーマに放送された2020年12月5日の球辞苑(NHK)では、バーヘイゲンが2020シーズンの真ん中投球割合がNPB全投手中2位であったことが取り上げられ、特に初球を真ん中に投げ込む割合がリーグトップだったことが判明した。
バーヘイゲンは被本塁打がMLB通算29/199回と多い投手で、中々活躍できずにいるところをNPBに活路を求めたタイプの投手である。その投手が甘いコースへの投球に安心感を持ち、チームトップクラスの成績を残した。(ちなみにバーヘイゲンの昨シーズンの被本塁打は7/111.2回とかなり少ない。)バーヘイゲンの例が田中にそのまま当てはまるかはわからない。しかし、こうした例が田中にも当てはまれば、田中は相当数の勝利を挙げる気がする。
昨シーズンの日本シリーズ以来、特にパ・リーグ打者のフルスイングが脚光を浴びた。実際のところ世界基準でいえば彼らのスイングはどのくらいのレベルなのだろうか。田中の無双を見たい気もするが、筆者はNPB打撃陣の奮起に期待したいという思いが強い。昨シーズンのままではやられるのかもしれないが、皆まだ発展途上のはずなのだ。
NPBとMLBの打撃力の差。近年は日本人野手のMLB挑戦がことごとく失敗に終わっていることもあり、厳しい論調も多く聞かれる。このままではいけないと皆が思っている。田中の復帰は、MLBとの差を確かめる機会にも、差を埋める機会にもなってほしいと思う。
2021年、田中将大のプレーはもちろん、彼に立ち向かうサムライ・スラッガーたちの活躍にも期待したい。
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