3軍が作れないのなら100敗すればいいじゃない(後編)

※本文は(前編)の続きです。

さて、前編を読んでいただいた読者諸氏には把握いただいているが、ようやく本題である。

3軍が作れないのなら100敗すればいいじゃない

その趣旨に関しては、MLBに興味のある方はなんとなくお察しいただいているかもしれない。

要するに

資金力に乏しく               3軍を作る余裕がないのであれば       いっそ1軍を育成の場にしてみてはどうか

ということである。

「勝ちきれない」状況が続く中、年俸高騰・故障・衰えなど、年々コスパが悪化するであろう主力を放出し、若手育成に切り替える。

これは

「当代」の天下は諦め「次世代」でその座を狙う

編成上における弱者の兵法である。

こうした編成戦略は、MLBにおいて資金力に乏しいチームがしばしば行う。

ホークスは資金力にも恵まれたチームであるが、あくまで「若手育成」を主軸に置いたチーム作りを進めてきたことは前編で確認した。

では、資金力に乏しい球団が、年々コスパの悪化が見込まれる高額年俸選手を登用し続けて、ホークスと争い続けられるだろうか。

NPBにはクライマックスシリーズがあり、勝率5割前後という「低い山」を目標に戦うチームが多い現状がある。

付け焼き刃の戦力でCSに出たところでホークスに勝てるだろうか?皆さんには1度自チームの戦略を見直していただきたい。

勝率5割前後、主力選手はピークアウト気味、しかし年俸はブレイク時の数倍に跳ね上がっている、CSを狙うためにベテランや新外国人を補強しがち、しかし1年で退団しがち…など

例をあげて申し訳ないが、ヤクルトスワローズのアルシデス・エスコバーなどはまさにこの例に当てはまる選手となり、1年で退団してしまった。

また、残念ながら筆者の応援する中日ドラゴンズなどは再建失敗の最たる例で、特に谷繁監督時代は衰えが進むベテランの重用や、生え抜きを育てる必要が急務であった遊撃手へのアンダーソン・エルナンデス起用など、他チームと互角に戦うために付け焼き刃の戦力を揃えるきらいが強すぎた。(森野将彦の復活などファン心理からすれば、ベテラン重用は嬉しい側面も多かったが、再建を考えると…)

チームの解体はファン心理を揺さぶる事態であることは重々承知である。しかし、資金力に乏しいという前提が立ちはだかった時、それでも本気で「打倒ホークス」を誓うのならば、スクラップアンドビルド。本気になったチームを応援してあげてほしいと思う。

MLBではこうしたスクラップアンドビルドが盛んに行われる。

当然、主力選手を放出した直後にチームに残るのは未来を羨望された選手とはいえ、まだ赤子である。屈強な男たちひしめくMLBにおいて、分不相応に出場機会を与えられることとなった彼らは、いくら金の卵生まれといえど完膚なきまでに叩きのめされる。

再建に入ったチームは、シーズン100敗以上を記録することもしばしばである。

しかし「世界最高峰リーグでの実戦経験」という最高の栄養を与えられた赤子はすくすく育つ。

近年の最たる成功例としてヒューストン・アストロズが挙げられる。

サイン盗み問題でケチがついてしまった彼らだが、その再建→黄金期の流れは素晴らしいものだった。

アストロズがチーム再建に乗り出したのは2010年のこと。2005年にロジャー・クレメンスらを擁しワールドシリーズ進出を果たした彼らだが、その後は勝率5割以上の「準強豪」ではあったものの、プレーオフ常連の「強豪」とは呼べない微妙な立ち位置にあった。

2005年のワールドシリーズメンバーの年俸も年々高騰する中でのこの戦績は、投資に見合う戦績とはいえないものであった。

そこで再建への舵を切ったのが2010年。チームは当時エースのロイ・オズウァルトと主砲だったランス・バークマンを放出。完全なる再建期に入った。

その後数年間の成績は負の意味で凄まじい。チームは3年連続100敗以上のダントツ最下位に沈んだ。

当時のアストロズはメジャー傘下のマイナーリーグをもじって「 A A Astoros」と揶揄されていたくらいだ。

しかし、ホセ・アルテューベ ジョージ・スプリンガー ダラス・カイケルら後のビッグネームがこの時期に実戦経験を積み、大きく育った。

再建4年目の2014年に最下位を脱出すると、2015年からは勝率5割以上を現在までキープ、逆にプレーオフを逃したのが2016年のみで、2017年にはついにワールドシリーズチャンピオンにも輝いた。

MLBでは成績下位チームにドラフト指名の優先権が与えられたり、年俸総額が一定の基準以上に到達した巨大戦力には「ぜいたく税」が課されるなど、再建チームに追い風となる制度が多い。そのことも手伝っての常勝チーム化ではあるが、潔い再建モードへの突入が、中長期的に「勝ち続けるチーム作り」に寄与したものは大きかった。

さて、NPBである。先ほども少し触れたが、「打倒ホークス」を目指すならば、目標はCSではないはずだ。

有望な若手を多く抱え、数年後のホークス撃破を誓うなら、直近シーズンの100敗は未来への確かな先行投資になる。

しかし、NPBには「育成シーズン」を作ることを嫌う風潮がある。シーズン開幕前のインタビューで、戦力に乏しいチームの監督は

「優勝を目指さないわけにはいかない」

と語る。内心絶対無理だと思っている。(偏見)

そしてシーズンの連敗が続いても「せめてCSは狙わないといけない」と伸び代が見えきっているレギュラー選手を起用し続ける。こうした選手は優勝を目指すチームのラストピースとなればいい。なんのためにシーズン中のトレード期限が7月後半まで設けられているのか。また、CSが「少し頑張れば届きそうな目標」なのも悪い。

そしてもう一つ、NPB各球団は、シーズン100敗を過度に不名誉に考えているような気がする。

NPB史上、シーズン100敗を超えたチームは1961年の近鉄バッファロー(当時は単数呼称)しかない。

当時のパリーグの下位チームは球団存続さえ危ぶまれるような状態(実際に高橋ユニオンズはじめ数シーズンで解散に追い込まれているチームも多かった)で、単純な比較対象とはならないこともあり、戦力均衡が図られたドラフト制開始後(1965年〜)という意味で言えば、100敗したチームはいない。2005年の新球団、東北楽天ゴールデンイーグルスでさえ97敗で収まった。

完全な再建期に入ることは未知の領域で、シーズン100敗が起こるかは誰もわからない。しかし、筆者にはNPB各球団が100敗を過度に恐れている気がしてならない。

当然見栄えは最悪である。しかし、いかなる勝率であっても最下位は最下位である。

申し訳程度の戦力を揃えて勝率.450前後にとどまるならば、いっそ再建期に舵を切るチームが現れてもいいと思う。

MLBとの圧倒的な違いとして、選手数がある。NPBにおいて「有望な若手」は思ったより少ないのかもしれない。

若手が怪我をするかもしれない。(なお酷使の対象となりがちな中継ぎ投手などは、再建期のチームでも中堅選手が獲得されることが多い。)

収益構造的にNPBはMLBより観客収入のウエイトが大きい。凄惨な成績は球団収入を大幅悪化させるかもしれない。

それでも優勝を、打倒ホークスを誓うなら、賭けに出てくるチームが現れても面白いと思う。







3軍が作れないのなら100敗すればいいじゃない

某アントワネット氏の迷言にのせてお送りした全2回の私見に基づいた乱文論説であったがいかがだったであろうか。

大前提3軍ができれば、ここまでの大博打はNPBにおいて必要はないと思う。しかし、それが叶わぬのなら、である。






さて、本日(2020 11/24)日本シリーズは第3戦を迎える。ホークス対ジャイアンツの日本シリーズは2000年のON対決以来で、当時の戦績も第2戦までは当時の福岡ダイエーホークスの2勝で同じであったようだ。しかしシリーズは、その後ジャイアンツが4連勝で逆転日本一を飾っている。

ここまでホークスを崇め奉りすぎたが、まだシリーズは終わっていない。ジャイアンツには是非とも頑張っていただきたいところである。

2000年当時、第3戦を迎えるにあたって、ジャイアンツ長嶋茂雄監督は第2戦までノーヒットだった3番高橋由伸を6番に、5番の清原和博を3番に起用する采配で勝利をもぎ取り流れを取り戻した。

個人的には今回も打順の入れ替えが鍵になるのではないかと思う。坂本勇人の1番、ゼラス・ウィーラーを思い切って3番に起用する打順が面白いと思うのだがどうだろうか。

「まだシリーズは終わってない」

今日もテレビの前で楽しく観戦したいと思う。

 打倒ホークス!(後編終わり)



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