vol.20「仲間のつながりがあるのが嬉しい」ビストロモンテメールオーナーシェフ・山下智久さん
高校3年生になったばかりの頃だったかな。
僕はテレビ番組に出ていたイタリアンレストランを見て「これだ!」と思って、すぐにそのレストランに電話をかけました。
そしたら「面接に来なさい」と言われて…
周りが「これから就職活動だぁ」と騒ぎ出す中、僕は高3の4月に就職先が決まったんです(笑)。
「きほくる | 紀北町魅力ナビ」にお越しいただき、ありがとうございます。
今回の「しごとカード」インタビューは、
紀北町船津(きほくちょう・ふなつ)にあるビストロモンテメールのオーナーシェフ・山下智久さん(やました ともひさ)さん。
山下さんは高校卒業後、都市部で20年間シェフとして働き、38歳のときに紀北町でビストロモンテメールを開業しました。
故郷で開業することになったきっかけや人気メニューの開発エピソードなどを楽しく語っていただきました。
この記事は「しごとカード」に登場していただく“紀北町で働くひと達”に、地域おこし協力隊の豊川がインタビューしていくシリーズです。
あなたは、どんな風に働きたいですか?どんなところで、どんな人たちと働きたいですか?
あなたが、自分に問いかけ、自分の中にある答えと出会っていく。そのきっかけに、この note がなれたら嬉しいです。
1.ラーメン屋になりたい。
ーーこれまでの経緯を教えて下さい。
山下さん(以下、敬称略) 僕は、1979(昭和54)年に紀北町船津(きほくちょう・ふなつ)で生まれました。
5年生の時に家が引っ越したので、船津小学校から相賀小学校へ転校しました。
その後は、潮南中学校、尾鷲高校と進学し、卒業後は岐阜にあるイタリアンレストランに就職しました。
ーー最初は岐阜で働いたんですね。
山下 はい、その後は名古屋のフレンチレストランなど何軒かの個人店で20年間シェフとして働きました。
そして、38歳の時(2017年)に紀北町にUターンしてビストロモンテメールを開業しました。
ーー料理人になりたいと思ったのはいつですか?
山下 小さい頃からなんです。小学校の卒業文集に「ラーメン屋になりたい」と書きました。
ラーメンが好きで料理するのも好きでした。
ーー実際は、ラーメンではなくイタリアンだったんですね。
山下 はい、僕が高校生になったばかりの頃はちょうどイタリアンブームで(笑)。
僕はテレビ番組に出ていたイタリアンレストランを見て「これだ!」と思って、すぐにそのレストランに電話をかけました。
そしたら「面接に来なさい」と言われて、お店に出向いて面接してもらい採用となりました。
僕は高3の4月に就職先が決まったんです(笑)。
ーーすごい行動力ですね。
山下 周りが「これから就職活動だぁ」と騒ぎ出す中、僕は「もう決まったよ!」って感じでした。
2.ここでいいんじゃないの?
ーー就職する時に目標はありましたか?
山下 僕は最終的には「自分のお店を持ちたい」と思っていました。
若いうちにたくさん経験を積んでおきたかったので、自分のやりたいことに合ったお店を紹介してもらったりして、数軒の個人店で働きました。
ーーレストラン以外でも調理することはありましたか?
山下 はい、次の店が決まるまでの間に短期でカフェの店長をやったり、学食の調理もやりました。
ーー学食でも?!
山下 そうなんです。調理という仕事も全く違う場所でやってみると勉強になるんですよ。
たとえば、学食では調理のおじさんが面白いやり方をしていたんです。
「そんなことをするんだ!面白いなぁ!」とちょっと驚くような。
そのやり方を僕のやり方にプラスしてみたら更に美味しくなったんです!そして、うちのハンバーグの味になってます。
いろんな経験での学びが今の仕事に活きています。
ーー開業のきっかけは?
山下 当時は友だちや料理仲間が名古屋に多くいたので、漠然と「名古屋郊外で店をやろうかなぁ」と思っていました。
最初は名古屋の郊外で物件を探しました。
そのうちどんどん南下して、気づいたら紀北町にたどり着いていました(笑)。
ーーすごく南下しましたね!
山下 はい(笑)。
僕が帰ると友だちや町で活躍している人達が寄ってきてくれました。
友だちが短期のアルバイトを紹介してくれたり、お店の物件探しに奔走してくれて…
「ここでいいんじゃないの?」と思ったんです。
仲間のつながりがあるのが嬉しかったし有り難かったです。
良い物件も見つかったので、紀北町で開業することにしました。
3.キッシュ「紀州」
ーー1日のスケジュールは?
山下 8:30頃にお店に来ます。
ランチの準備や仕込みをして、11:30にランチタイムがオープンします。
14:30にランチ終了、少し休憩してからディナーの準備に入ります。
17:30から21:00までディナータイム、終わったら片づけをして22:30頃にお店を出て帰ります。
ーー仕事で大切にしていることは?
山下 「食べて美味しい!」ですね。
僕は見栄えにこだわったり細工に手間暇かけるよりも、「安く、美味しくすること」に手間暇をかけたいと思っています。
「出来るだけ安くて美味しい」ビストロスタイルにこだわってます。
ビストロ:(フランス語)フランス料理を提供する飲食店の種類(格式)の1つ。こぢんまりとしてカジュアルな近所の食堂。シンプルで庶民的、高価な食材を使わない料理を主に提供する。
ーー食材へのこだわりは?
山下 できるだけ地元のものを使いたいと思っています。
ーーなにか代表的なメニューはありますか?
山下 代表的なメニューは、オープン間もない頃から作っているキッシュ「紀州」かな。(見出し3の写真)
地元水揚げの魚の自家製燻製をふんだんに使ってあります。
他には、アオサノリ、トマト、シイタケ、卵などの地元食材と僕が厳選したチーズで仕上げました。
ーーメニューはどうやって考えているのですか?
山下 使いたい地元食材や買い出しに行って目に留まったものを中心に考えます。
ーー人気の「アオサノリが入ったチーズケーキ」は?
山下 ヤグチーですね(笑)。
※矢口浦(やぐちうら)のアオサノリとチーズケーキをかけて「ヤグチー」と山下さんがネーミング。
あれは、バスクチーズが流行ってきたので、まずバスクチーズを作ってみたんです。
そして、抹茶味を作ろうか?と思ったけど「せっかくだから地元のものを入れられないかな?」と考えて…
矢口浦のアオサノリを閃いたんです。
ーー色はどちらも緑ですね(笑)。
山下 試しにアオサノリを粉末にしたものを入れてみたら「これはきっと美味しくなるだろうなぁ」という出来だったんです。
そして本格的に作ってみたら「うまいな、こりゃ!」ということでメニューに加わりました。
(ヤグチー)
ーーメニューのネーミングは山下さんが?
山下 はい。賛否両論ありますが(笑)
キッシュ・紀州を思いついたときは「僕は天才か?!」と思いました。
4.好きだからやっている。
ーーこの仕事をしていて楽しいことは?
山下 地元のひと達と一緒に何かをやることが楽しいです。
海・山こだわり市とかね。
これって都会では味わえないことです。田舎ならではだと思いますよ。
海・山こだわり市は、紀北町の生産者がこだわりをもって作った商品を、生産者が消費者に直接こだわりを伝えながら販売することを目的とした市場。https://www.facebook.com/kodawarimarket/
ーーこの仕事をしていて大変だったことは?
山下 そうですねぇ、オープン当初は大変でしたね。
僕は「ぼちぼちやっていけばいいかな」と思っていたのですが、オープンしてみたら沢山のお客さんが来てくれたんです。
予想外だったので食材が追いつかず、売り切れが続出してしまいました。
「なんとかしなければ…」と毎日夜中まで翌日の仕込みをして店に泊まる。
朝は入浴のために一度帰宅してからまた店を開けるみたいなドタバタぶりでした。
ドタバタが落ち着くまで半年ぐらいかかりましたね。
ーーあなたにとって仕事とは?
山下 僕にとって仕事は好きだからやっていること。
美味しい料理を作ることも好きだし、食べてもらって「美味しい!」と言ってもらうことも好きです。
ーーなるほど。
山下 仕事は生活と一体化してますね。
遊びにいくときも現地のものをひたすら食べて面白いものを探したり、B級グルメを食べ歩いたり…
休日も、何かしら仕事にプラスになるものを意識しています。
そう考えると僕にとっての仕事は好きなことだし、生活のほとんどを費やしている「自分の人生の発表の場」というイメージかな。
ーー今後やりたいと思っていることは?
山下 地元のひと達といろいろやりたいです。
あと、最終的な目標としては、加工品の製造があります。
ーー加工品というと?
山下 うちの店でテイクアウトで提供している料理、たとえばピザなどを通販できるように加工したいんです。
今はお店で食べるかテイクアウトのみで、お店に来られる人にしか提供できない。
テイクアウトした料理をお客さんが冷凍して遠方の家族や友人に送っているという話も聞くんです。
だったら、お店に来られない遠方の人にもビストロモンテメールの料理を食べてもらえるような形に出来たらいいなと思って…
ーーそのためには何が必要なんですか?
山下 今の調理場の他に、加工用の調理場が必要なんです。
ゆくゆくは加工場を持って、通販が出来るようになったらいいなと思っています。
5.是非に及ばずじゃ!
ーー好きな言葉は?
山下 2つあるんです。
1つめは「鶏口牛後(けいこうぎゅうご)」
鶏口牛後:「大きな団体の属員になるよりは、小さな団体でも、そのかしらとなるほうがよい」という意味。(コトバンクより一部引用https://kotobank.jp/)
この言葉を胸に「僕はいつか自分で店をやるんだ」と思って、明確に自分のゴール地点に向かって進んできました。
2つめは「是非に及ばず(ぜひにおよばず)」
是非に及ばず:①当否や善悪をあれこれ論じるまでもなく、そうするしかない。②どうしようもない。しかたがない。やむを得ない。(コトバンクより一部引用https://kotobank.jp/)
「是非に及ばず」は2つの解釈があります。
僕は「あれこれ迷っている場合ではない、今すぐ行動を起こそう」と捉えています。
コロナ禍になった時に「是非に及ばすじゃ!」と思って「テイクアウトやるぞ!」と行動を起こしました。
この言葉が僕の背中を押してくれたんです。
ーーそうだったんですね。
山下 開業までは「鶏口牛後」をモットーにしてきました。
これからは「是非に及ばず」を胸に進んでいきたいと思っています。
ーー紀北町の好きなところは?
山下 地域密着型で仲間が集まってくるところかな。
みんな仲良くしてくれてあったかいです。
紀北町に帰ってきて良かったと思ってます。
ーー二十歳の頃の自分に声をかけてあげられるとしたら?
山下 自分で言うのもなんですけど、二十歳の頃って結構苦労してたんです。
「給料は安い、休みはない、自由はない」の三重苦。
未だに忘れられないんですが、初任給は81200円。
アパートの家賃を払ったらほとんど残らない。理不尽なことを押しつけてくる上司もいたりして…
ーー大変だったんですね…
山下 僕はこう見えて結構負けん気が強いんです。
だから上司に無理難題を言われても「絶対やってやる!」と思って、夜中に作業したりしていました。
上司は「絶対に出来ないだろう」と思って朝出勤してくるんです。
そこで、僕は涼しい顔をして「終わってますよ」と言う、みたいな(笑)。
ーー強い!
山下 そんな性格なので、あの頃に自分に声をかけるとしたら「自分のことを信じて頑張れ」かな。
あれこれ言わなくても乗り切ると思うので。
ーー最後に、若い世代のひと達へメッセージをどうぞ。
山下 「田舎って就職先がない」と思われているけど、実はいろんな所で活躍している人はいるんですよね。
そして、田舎で新しいことを始めようとすると周りの人達がフォローしてくれたりバックアップしてくれたりします。
最初から「田舎は就職先がない」と諦めないで、視点や発想を変えて地元を見てほしいと思います。
「都会も田舎も”可能性”という部分では大差はないよ」と伝えたいです。
ーー視点や発想を変えて地元を見ていきたいですね!これからもどんどん美味しいお料理を作って下さい。今日は貴重なお話を聞かせていただき、ありがとうございました。
【ビストロモンテメール・山下智久さんからのメッセージ】
・いろんな経験での学びが今の仕事に活きている。
・仲間のつながりがあるのが嬉しいし有り難い。
・是非に及ばず(あれこれ迷っている場合ではない、今すぐ行動を起こそう)
・都会も田舎も”可能性”という部分では大差はないよ。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
今回の ビストロモンテメールオーナーシェフ・山下智久さんのお話はいかがでしたか?
あなたの中にある仕事に対する思いや大切にしていることを感じるきっかけになったら嬉しいです。
(取材先情報)ビストロモンテメール
三重県北牟婁郡紀北町船津1598-3 Tel:0597-31-0101
インスタグラム https://www.instagram.com/bisutoromontemeru/
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