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奥さんとカニと僕。

「ほら、立派なカニを頂いたからみんなで食べましょう♪」
お義母さんが嬉しそうに蟹の乗った大皿をテーブルに運んで来た。

年末になると僕ら夫婦は妻の実家に帰省する。
2泊か3泊滞在してただひたすらのんびり、食っちゃ寝するのだった。

帰省のお土産は妻が選んでくれて、買って持って行ったり、直接届くように配達してもらう。
その年のお土産は蟹だった。

蟹がテーブルに置かれると
「おー美味そうだなー、着ぐるみ君ありがとうな」とお義父さんが言う。
義兄も「お、いいねー」と喜んでくれている。

「いただきまーす」
美味しい物でテンションが上がると何故だか全員の声が揃う不思議。
食事が始まり、早速みんな蟹に手を伸ばす。

カチャカチャ
チョキチョキ
パキッ

「美味しい、美味しい」
ハサミで殻を剥きながらみんな夢中に食べている。

ただ1人を除いては。。。

それはうちの奥さん。

最初に蟹の脚を1本食べただけで
あとは他のおかずをずっと食べている。
悟りを開いたみたいな何とも言えない無の表情で。

うちの奥さんは皮や殻を剥くのが大変な食べ物は食べない。

「あ!この蟹美味しいね!もっと食べなよ」
ひと口食べた僕がウキウキで勧めても
奥さんは微動だにしない。

不器用な私にはうまく剥けない、
一度そう判断したものはいくら美味しそうでも絶対に手を出さないうちの奥さん。

一本筋の通った人だ。あっぱれ。

「おいしいねー😆」って二人で喜びを分かち合いたかった僕はちょっぴり寂しい。
まぁしかたない、僕一人で食べるかと思って次の蟹の殻を剥く。

剥いた蟹を食べようと顔を上げると
奥さんの無の横顔が目に入る。

蟹のむき身をこっそり奥さんの取り皿に置いてみた。

テレビを見ながらお義母さんと話して食べている奥さんはしばらく蟹のむき身に気が付かない。
そんな奥さんを僕は内心ニヤニヤしながら平静を装って観察している。

蟹のむき身に気付いた奥さんは
「むふっ!カニがある!」
荒い鼻息を吐きながら
そう言って蟹をムシャムシャし始めた。

そこでやっと2人で「おいしいねー😆」ができる。

僕はせっせと蟹を剥いては奥さんの皿にのせる。
奥さんは「はっ!蟹が増えてる!」とかなんとか言いながら、天から蟹のむき身が降ってきたみたいなテンションで食べている。


カニとかエビとか栗とかフルーツとか、
決まってこのパターンである。
あと、とうもろこしの実を芯から外すのも。

この話をすると
「優しい旦那さんだねー」って言われるんだけど、それは半分正解で半分不正解
だから褒められると申し訳なくなる。

奥さんを喜ばせたい気持ちが3割くらい。
残りの7割、僕には僕の楽しみがあって、
僕は皮や殻を剥く時に
「あ!さっきよりちぎれないで大きく剥けた!」とか
「今度はこっち側から剥いてみよう!」
っていう、
むきむき職人としての修行を心の底から楽しんでいたりする。

凝り性な僕は多くの人にとって
「それの何が楽しいの?」っていう事にハマってしまったりする。
でも手先を使う細かい作業なら何でも好きな訳じゃないからどこでスイッチが入るかは自分でも分からない。

そんな奥さんと蟹と僕の三角関係。

これからも続きそうだ。




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