私は女優、4月1日には、眼鏡オジサンになってみせるわ
こんにちは、わたくしは女優。
芸名は、パンダ・ゴロゴーロ。
自分で言うのも何だけど、ま、人気と実力を兼ね備えた美人女優よ。
ここ数年、来る日も来る日も仕事ばかりでね、忙し過ぎて、いつも眠気をこらえていたの。
セリフを覚えたり、打ち合わせに行ったり、新聞や雑誌の取材を受けたり、
撮影以外にも仕事ばかり。
のんびりする時間なんてまったくなくて、自由時間と言えば、食べて寝るだけ。
ある日、むなしくなっちゃった。
これがわたくしの望んでいた暮しかしら。
女優になる、という夢を叶えたのに、どうしてこんなに楽しくないの?
思い切って、事務所の社長に、仕事のオファーを断って欲しいと、直談判したのよ。
2ヶ月でいいから、人間らしい生活がしたいって。
社長は、せっかく人気も出て、引っ張りだこの今、仕事を休むのはもったいないと言ったけれど、マネージャーが説得してくれたわ。
このままの状態で仕事を続けて行けば、わたくしは燃え尽きてしまう、疲れがたまって、女優としての価値が下がってしまうと。
結果、2ヶ月という期限付きで、お休みをもらうことができたのよ。
☆☆☆☆☆
はいっ、妄想で〜す。
職場で転んで左脚の膝を骨折してからは、
『動くな、立つな』
という医師の命令のもと、
一日に十時間寝て、三食きっちり食べて、あとは本を読むだけ〜、という極楽生活を送って来ました。
ただ、慣れない極楽状態が続くと、
「こんなに毎日、何もしていなくて、いいのかしら…」
と不安になるんですね。
そもそも、初めに医師からは、安静2週間、完治2ヶ月と言われていました。
それが2週間目にレントゲン写真を撮ったら、まだ骨が半分しかくっついていないとわかり、もう2週間安静ね、と言われて。
明日からはギブスを外してリハビリだ〜、
と思い込んでいただけに、気持ちの持って行き場がない状態になってしまったのです。
ありがたいことに、夫も子どもも会社側も、ゆっくり過ごして養生に専念してね、と言ってくれました。
『いやっほー、極楽生活再び❗』
という思いと、
『いや、本当にいいの?』
という思いが交錯して、
でもどちらにしろ、ベッドの上に座って、左脚を極力動かさないようにして、読書している他はないのですが。
そんなモヤモヤしている時に、思い出したのです。
こういう時は、妄想だ!
と、どなたかがおっしゃっていました。
(誰かは忘れました、ごめんなさい)
どうしようもない時には、妄想すればいいのよ。
そうよ、私は、忙しすぎて、一時仕事をセーブして、世間の目をのがれ、気ままに過ごしている女優なんだわ。
ちょっと人気があり過ぎるものだから(おほほっ)、ふらっとカフェに行くなんてこともできなくて、マネージャーが借りてくれた家に閉じこもりきり。
口の固いばあやとよく気のつくメイドの二人と一緒に暮しているの。
この二人ったら、わたくしのことを甘やかして、
お台所仕事ひとつ手伝わせてくれないの。
「パンダ様はどうぞお座りになっててくださいまし」
「そうですわ、ばあやさんのおっしゃる通りですよ、ゴロゴーロ様。今までずっとお休みなしに働いて来られたのですから」
「たっぷり眠って、たんとお召し上がりになって、あとはご本でも読んでのんびりしていらっしゃれば、お元気も出ますよ」
「二人とも、こんなに気遣ってくれて、ありがとう…」
「なんのなんの」
「さ、ゴロゴーロ様、新しいご本を持って参りますね」
メイドが手渡してくれた本の表紙には、眼鏡をかけたオジサンのイラストが。
それを見て、わたくしは何かとても大切なことを忘れているような気がしたの。
「ねえ、ばあや、わたくし何か忘れていることがないかしら」
「お忘れのことですか、何ですかのう」
「ゴロゴーロ様の手帳を持って参りましょうか」
「ありがとう、そうしてくれる?」
「承知しました」
メイドが持ってきてくれた手帳の、3月のページには、何も書き込みはなかったわ。
4月のページを開けてみて、
「これよ、これ、思い出したわ。
眼鏡オジサンの日よ!」
「眼鏡…オジサン、ですと?」
「そうよ、4月1日は【眼鏡オジサンの日】と言ってね、わたくしたち女優はみんな眼鏡オジサンに変身するの。
もちろん男性もしていいし、近頃では俳優以外の職業の人たちも参加しているって聞くわ。
だから、あなたたちも眼鏡オジサンになっていいのよ」
ばあやとメイドは顔を見合わせていたけれど、
「じゃあ、ばあやさん、私たちも参加しましょうか」
「どんな風にすればいいのやら…」
「私がゴロゴーロ様からうかがって、ばあやさんにお教えしますわ。ねえ、ゴロゴーロ様」
「そうよ、わたくしの女優仲間のくーまさんとアヤチンコフちゃんが、詳しいやり方を書いてくれているわ。
あなたのスマートフォンに送るから、ばあやと一緒に読んでみてね」
皆様、楽しみましょう!
今日も最後まで読んで下さって、ありがとうございました。
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