雪道の誘導者
真冬の怖い話。
霊現象とは、何も、夏に限って起こることでは、ありません。
暑さ寒さなど、季節には関係なく、彼らは進出鬼没です。
これは僕が本当に体験した不思議は話です。
■第1章: 深夜の迎え
東北の雪国の静かな夜、時計の針は深夜1時を指していた。
ネットで映画を見てそろそろ寝ようとしていた。
そこに友達の坪沼から電話が入った。
「すまんが車で向かいに来てほしい」と言うのだ。
田舎駅の駅前にある小さなスナックで飲んで帰るところだという。
都会ならタクシーでも拾えばいいじゃないかと言いたいがこんな田舎にはそんなものはない。
大抵は車で家族が迎えに来なければならない。
ここは、そんなの田んぼだらけの農村地帯だ。
坪沼とは俺は、中学時代の頃からの親友だ。
坪沼は別居して今は一人でいるから仕方がないと思い迎えに行くことにした。
俺は雪がしんしんと降り積もる中、車のエンジンをかけた。
フロントガラスやワイパーの雪を払い、駅へと車を走らせた。
駅で坪沼を拾い上げると坪沼は車の中ですぐに居眠りを始めた。
俺は、慎重に車を走らせながら家まで送り届けるつもりだった。
■第2章: 不気味な誘導
坪沼の家は駅から車で20分程度の場所にある。大した頼み事ではなかった。
とはいえ、さすがに冬の雪の中を歩いて帰るのは無理がある。命に関わるからだ。
すぐに到着すると思って走り出したが、この夜は違っていた。
田んぼ道を通る、いつものルートを走っているのだが、
除雪されていない雪の山に行く手を阻まれた。
「俺は これはまいったなぁ 予想外だった」そう思った。
「おい、坪沼!道がないぞ!どうする?」と訊ねた。
いつもの通り道は、除雪車が除雪を忘れたか、まだ手を付けてない感じだった。
「しょうがないな、迂回するか」俺と坪沼はそんな会話をして行ける方向に車を走らせた。
雪の中の田んぼ道は見分けがつきにくくどの道もよく似ている。
まして、雪が降る真夜中、ヘッドライトだけを頼りに、
走ると土地勘のあるなれた俺たちでも道に迷うことがある。
「おい 坪沼!おかしい こんな道あったっけ?」
俺は酔っぱらって寝ている坪沼を起こした。
坪沼も 「お前、道、 間違えたのか?」と聞き返したが見慣れた場所じゃないことに気が付いた。
「なぁ、なんか変じゃないか?」俺たちはそう思った。
坪沼もすっかり酔いが覚めたようだった。
「おいおい、地元の俺たちがこんなところで道に迷うわけないだろ 笑わせるな」俺たちはそう言いあった。
「だよなーーーーオカルトじゃあるまいし」と笑い飛ばした。
この時は、まだ、俺たちは不思議な怪奇現象に巻き込まれているとは、知る由もなかった。
「カーナビはどうなってる?」と、坪沼が言った。
「それが画面が真っ暗でな 故障みたいなんだ」と答えた。
お互いにスマホで現在地を確認しよとしたがGPSが起動せず認識されない
それどころかスマホの画面が真っ白だった。
「おい、坪沼 どうなってんだ?」そういうと、
「さぁね、よくわからんが、俺たちは何かに巻き込まれたようだな」
「何とかせんといかんね」と、坪沼が答えた。
「地元民が迷子になりました、なんて誰にも言えないな」と俺が言うと、
「確かに」と、俺と坪沼は笑いあった。
不安が高まる中、ナビが突然「目的地に到着しました」と告げた。
「えっっ」と、俺たちは同時に驚いて顔を見合わせた。
「目的地って、ここは、いったいどこなんだよ、なんの目的地だ」
俺たちはそう言いあった。
駅から何分走ったか時計を見て確認すると1時間は経過していた。
「本当に迷ったみたいだな しかも 深夜2時頃に地元の二人が迷子だよ」
「まぁこうなったら仕方ない とにかく帰ろう」と言いながら
フロントガラスを見ると、
そこに稲穂の形をした雪の模様が描かれていることに気が付いた。
その模様はとても美しく邪悪さは感じられなかった。
むしろ、美しくまるで芸術品のようで心を魅了するものだった。
ふと、気が付くと、さっきまで吹雪だった雪もいつの間にか止んでいた。
ヘッドライトに照らされた視界が広がっていた。
目の前には、朽ちかけた古い鳥居が現れた。
そこには、放棄された小屋がたくさんあった。灯篭もあった。
車の外に出て、その場所を二人でじっくり観察してみた。
「なぁ 坪沼 ここってなんだ?消滅集落なんじゃないか?」
「俺たちは迷い込んだんじゃないか?」そういうと、
昔から少しだけ霊感がある坪沼は、酔いが覚めたようで、
「俺たちは消滅集落のこの土地の神様に呼ばれたのではないか」と言った。
この村は おそらく生活が困難になり村を捨てて行って
こうなったのだろうと、
土地神が俺たちを呼び寄せたのは、この真実を伝えるためだったんじゃないかって。
考えて見れば俺たちの村だって限界集落だぜ。
いつこうなってもおかしくはないんだ
「確かにそうだな」と、俺たちはそう思った。
■第3章: 脱出への決意
「とにかく悪いものではないと思から ここから出よう」
坪沼がそう言った。
俺は頷いて車を走らせた。
カーナビもスマホもさっきとは違い通常通りの動作をしている。
雪は降る気配を無くしていた。
さっきまでのあの吹雪が嘘のように視界良好に変わっていた。
この場所は この県では有名な消滅集落の一つだったことに気が付いた。
しかし、どうやってここまで辿り着いたのかは、よくは分からなかった。
経過した時間を考えても距離的にしてもどうしても時間が合わなかったからだ。
何らかの力が働いたとしか思えなかった。
その後、カーナビの指示通り進み、
俺たちは無事に村に戻り、坪沼を家まで送り届けた。
あの迷い道の時間が嘘のようにスムーズに車は進んだ。
■第4章: 村の未来
村に戻った俺たちは、若者が減り村が消滅する危機があることを改めて認識した。
二人とも当初は村を出て行こうと思っていたが、考えを改めた。
俺たちは、移住者を募るNPOのボランティア活動に参加し、
生まれ育った村を存続させる活動を始めた。
村を再生し、未来へと繋げるために生まれ育った土地で頑張ろうと誓った。
あの日、あの吹雪の夜に、あの土地神様が見せてくれた
美しい稲穂が実る村を目指して。
Word:かっつぇ・imaging factory