
深夜の霊園
この話は僕の知人が実際に体験した生霊の話です。
面接官の黒田は、就活の時期になると、いつも深夜バスで帰宅していた。
彼は面接の際、自分の好みの女性を顔で選ぶ癖があり、そのために学生たちのSNSやメッセンジャーで悪評が立っていた。
同僚の藤永からは「お前は顔の好みで採用する癖があるから、
ほどほどにしろ」と酒の席で指摘されることもしばしばあった。
ある夜、黒田は藤永と二人で酒を飲みながら就活生の話をしていた。
「なぁ黒田よ、またお前の癖で採用してんじゃないよな?」と藤永が笑いながら言った。
黒田は苦笑しながら「わかってますって、大丈夫、大丈夫」と答えてビールを飲み干した。
黒田と藤永は駅で別れてそれぞれの沿線の電車に乗った。東京郊外に住む黒田は最終電車に乗った。
終電の駅からの帰り道、雨が降り始めたので、
傘を持っていなかったため仕方なく霊園を通ることにした。
田舎の墓地とは違ってこの霊園は広大で通り抜けるだけで15分はかかる。
いつもは気持ちが悪い場所だから避ける道だったが、
その方が早く帰れると判断したからだ。
霊園に入ると突然、雨が激しくなり雷雨になった。深夜0時30分、黒田は霊園の中を一人で歩いていた。
霊園を通り抜ける方が家まで10分は短縮できる、
そう思いながら黒田は急いだ。
昼間に通り抜けるのと夜では雰囲気が、だいぶ違っていた。
雨が降っていて上着が濡れているせいもあってとにかく気持ちが悪い。
霊園とは似たようなお墓が並んでいるためどこも似たような雰囲気になっているから迷いやすい。しかし、黒田は昼間に何度か近道として通ったことがあるから問題ないと思った。
出口と入口はもちろん知っているはずだったが、
その夜は何かが違うと感じた。
霊園の中間地点に差し掛かった頃、黒田は大きな木の下にある墓石に座っている女性の姿を見つけた。
彼女は就活スーツの黒い服を着ており、腰まで長い髪が風に揺れていた。
顔は髪に隠れて見えなかった。
黒田は、自分より先に来て、この木の下で雨宿りをしているのだろうと思った。
黒田は、「こんばんは、酷い雨ですね?」と話しかけてみた。
女性は静かに顔を上げ、目を合わせることなく、じっと彼を見つめるだけだった。
その瞳には深い闇が広がっているように感じて、
黒田は思わず言葉を飲み込み、その場から遠ざかり帰ろうとした。
しかし、霊園を抜けようとする度に、女性の姿が目の前に瞬間移動するかのように現れた。
目の前の5メートルほど先の墓石に座っている。
まるで女性が彼を追っているかのように目の前に現れるのだ。
黒田は恐怖に駆られ、「どうなっているんだ!」と叫びながら走り出した。
霊園から出るためにスマホで位置を確認したが、
不気味な表示が出ていて位置情報はでたらめで、北海道と表示されていた。
東京にいるはずなのに。電話も通じず、110番もできなかった。
まるで迷路に囚われたかのように、霊園の出口はどこにも見当たらなかった。
夜明け近くになり、黒田は疲れ果てながらも何とか霊園から出ようとしたが、最終的に絶望的な気持ちでその場に倒れ込んでしまった。
ふと気づくと、女性の姿は消えており、薄明かりの中で黒田は霊園の外にいることに気が付いた。
しかし、その瞬間、遠くから複数のカラスが木の枝に止まり、
不気味な鳴き声がこだました。
それはまるで女性のような笑い声のようだった。
明け方の空は、雨の気配は全くなくなり、その夜の恐怖だけが心に深く刻まれた。
そして、二度と霊園を通ることはなかった。
あれは、きっと、就活生の生霊だったのではないかと黒田はそう思った。
word:かっつぇ・imaging factory