行き過ぎた完食指導はNG!心の傷になることも
昨年、保育施設で相次いで行き過ぎた給食指導が問題視されました。給食を強要したり、完食を要求することが報告され、これが子供たちの食事に対する楽しみを奪い、将来の食行動に悪影響を及ぼす可能性があると、専門家が指摘しています。
(※2024年3月4日(月)朝日新聞朝刊の記事を参考に要約しています。)
昨年3月、三重県桑名市の認定こども園で不適切指導
昨年3月、三重県桑名市の認定こども園で2歳児クラスの男児が給食を約4時間にわたって強要され、失禁する事案が問題視されました。県と市は特別監査を実施し、市は昨年9月に第三者委員会の調査報告書を公表しました。報告書によれば、給食を強要するケースは少なくとも3年前から2~5歳児の各クラスで確認され、完食を要求する意識が不適切な保育の原因になった可能性が指摘されました。また、園内で保育士が乱暴な言動で接するなど、不適切な保育が行われている実態も明らかになりました。報告書は、保育士が疑問点や意見を出しやすい民主的な組織風土の構築や、保育士の研修、労働環境の改善が必要であると指摘しました。
横浜市内の認定こども園でも2021年から子どもの口に食べ物を押し込む
横浜市内の認定こども園でも、2021年から昨年の2月にかけて、給食を完食させるために園児に食べ物を強制的に口に押し込む事例が発生していました。市によると、複数の職員から目撃証言が寄せられたとのことであり、市は昨年5月に運営法人に対し、改善を勧告する行政指導を行いました。担当者は、「給食は栄養バランスを考慮して提供されているため、園や保育士には『完食すべきだ』という考えがあった可能性がある。ただし、力を行使すると虐待になる可能性がある」と述べています。
奈良県三郷町の私立認可保育園では完食強制?
奈良県三郷町の私立認可保育園では、園の方針により給食を全員同じ量にし、完食を強要していました。これに対し、昨年2月、県と町は園を運営する社会福祉法人に対し再発防止を求める行政指導を行いました。県の調査によると、食べるのが遅い子に食べ物を口に押し込むことが複数の職員から「適切でない」と指摘されました。県の担当者は、「完食を強要するのではなく、体調や体格に応じて配慮する必要があると考えています」と述べました。保育所が守るべき国の「保育所保育指針」には、食べることを楽しむ食育に関する記述はあるものの、完食を指導することについては具体的に記載されていません。また、文部科学省によると、学校給食法にもこの点についての記述はありません。
大学時代に異変、トラウマで人との食事が怖くなってしまった
加藤菜々子さん(26)は小学生時代、完食指導による精神的苦痛を経験し、食事の場面で不安を感じるようになりました。小学校時代は食事を避けるために学校を休むこともありました。大学生になると、外での食事が苦痛となり、会食恐怖症としての症状が現れました。会食恐怖症は外での食事に不安を感じ、その場面を避ける傾向があり、これが友人関係や仕事にも影響を与えることがあります。完食指導や周囲からの強要が会食恐怖症の原因として挙げられ、学校の先生の指導が子どもたちにプレッシャーを与える一因となっていることが指摘されています。また、給食での一律の指導が摂食障害のきっかけとなることもあり、子どもの多様性に配慮した給食指導が必要であるとの意見もあります。
食べる量や時間はその子が決める、でOK
東京都世田谷区の「さくらしんまち保育園」では、食べ残しをほぼなくすために完食指導に頼らず、子どもたちが自分に合った量や時間で食事をするように工夫しています。園児はセミバイキング形式で食べる量を調整でき、苦手な食材を無理に食べさせない方針です。園長の小嶋泰輔氏は、「無理しなくていいよ」と伝えることの重要性を強調し、「撤退する勇気」が大切だと述べています。園では、子どもたちが食べやすいように工夫し、食事の時間やメニューについて園児や職員が毎月話し合う「給食会議」を開催しています。彼らは子どもたちが楽しみながら食事を摂ることを重視し、子どもたちの「最高の食事」を提供することを目指しています。
専門家の意見をまとめると・・・
神奈川県立こども医療センターの大山牧子医師によると、言葉や態度による強制や指導は子どもの食事行動に逆効果をもたらす可能性があります。強制は子どもにストレスを与え、その結果として食事量が減少することがあります。子どもが何を食べるか、どの程度の量を食べるかは自己決定させるべきです。食事の目標は、子どもが自ら必要な食事を選び、必要な量を摂取することです。大人は子どもが自分で行動できるようにサポートすることが重要です。栄養バランスを考慮し、少量でも食べるように促すことは大切ですが、強制は効果がありません。子どもが「食べたくない」と言った場合は、無理に食べさせないでください。家庭で十分に食事を摂っている場合は心配はありませんが、保育士は子どもの成長状況を確認し、心配な点があれば保護者に相談するよう勧めています。
玉川大学の大豆生田啓友教授(保育学)によると、保育においては「こうあるべき」という考えではなく、「子どもにとってどうしたら最も良いか」を個別に考えることが重要です。多くの保育園ではこの考え方を実践しています。保育士や栄養士、調理員が連携し、子どもの成長を丁寧に見つめ直している保育園もあります。しかし、一部の園では不適切な保育が起こることがあります。その背景には、国の配置基準に適切な余裕がないことや、保育士が多忙で思考停止してしまっていることが挙げられます。食事に関しては、個々の子どもの食べる量や好みが異なるにもかかわらず、「みんな同じでなければ」という思い込みがあるかもしれません。職員同士が気軽に意見交換できる環境を整えるためには、配置基準の見直しだけでなく、日々の保育活動全体で子どもの主体性を尊重する必要があります。職員同士も、経験豊富な者が若手に対して積極的なフィードバックを行うなど、「リスペクト型マネジメント」を実践することが大切です。