謡えない放浪楽師と、謳う自動人形
「旅の途中」
初夏のエルオエル草原。
天候は良好。
1頭立ての幌馬車は、軽快に進む。
「やー、こうも暇だと歌いたくなりますよねー」
「手綱握ってんだから、演奏は無理だよ?」
荷台で丸めた寝袋を枕に寝転がってる少女に、振り返らずに声を送る。
「分かってますって。ただ、ワタシの気分的なハナシですってば」
「気分ねぇ」
「あー、差別反対~!」
意図せず苦笑交じりになってしまったのを、耳聡く聞き咎められた。
「はいはい高性能高性能」
「Boo!Boo!」
後ろから抗議のブーイングと、荷台を蹴る音が聞こえるが、本気で怒ってる感じではない。
こんな軽口も、だいぶもう手慣れたものだった。
一緒に旅をするようになって、約半年。
この少女型自律式オートマタとの関係も、当初から比べるとかなりくだけたものとなっていた。
「悪かったって。こぶたちゃん。じゃあ、なんか一曲聴かせてよ。」
「その言い方、なんかナンパ師みたいで似合わない。というか、ちょっと気持ち悪いんで、二度としないでもらえますか?」
「本気トーンやめて」
「ヒトの事、小馬鹿にするからですよ。仕返しです!」
荷台から御者席に乗り込んでくる少女は、ニヤッと笑いながら、こう言った。
「だから、君はヒトでは無いだろ!」なんて突っ込むのは、野暮なんだろうな。
「良いから。ほら、なんか歌ってよ。歌いたいんだろ」
「リクエストは?」
いたずらっ子みたいな瞳で見上げる、その顔に敵わないなぁと思いつつ、呟くように答える。
「愉しいやつ。草小人(ハーフリング)のポルカとか」
「アカペラで歌ってもどうかと思いますよ?」
「良いから聴かせてよ」
たぶん、陽気過ぎる天気のせいだ。
ぽかぽかと穏やかな気温と、鼻先をくすぐる新緑の匂いと、浅葱色した少女の揺れるツインテと。
なんか、きっとそんなもののせいだ。
「ふふっ。じゃ、一緒に歌います?」
「ぼくが歌えないの知ってるくせに」
そうでしたっけー?なんてトボけた事をうそぶいて、彼女は口ずさみ始める。
確かに伴奏なしだと、ちょっと間抜けな、素っ頓狂な曲だ。
でも、やっぱり心が弾む。
街に着いたら、まずエールだな、と、楽師は思いながら。
のらりくらり、ふわりゆらり。
歌声に合わせて揺れるように、馬車は午後の街道を進んでゆくのだった。
テーマ曲「Ievan Polkka(イエヴァン・ポルカ)」
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