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回想 第五章 179

第179回
 「まああんまり急かさんでくれ。もうすぐちゃんと本題に入るから。」うそつきは急がされるのを楽しむかのように答えた。「わしが死んでないことはわかったが、まだまったく状況が理解できなかったんで、いろいろとその大きな影に質問したんだ。何を質問したかはあんまり憶えてないんだが、わしが今でも不思議なのは、わしのほとんどささやくような、それこそ蚊のなくような声にもその影がきちんと返事していたことなんだ。なんだかまるでわしの言いたいことを前もってわかっているような感じだったな。その影は野太い声で楽しそうにしゃべってたよ。そしてもしわしがこんな状態でも死んでいないなら、いったいいつまでこの世で生きのびることができるのか、聞いてみたんだ。するとやつはわしの顔をじっと見つめて『あなたはまだ当分死ぬ予定の人間ではないですね』って言ったんだよ!」
 「具体的にいつまでかは聞かなかったのか?」坊主が興味深げに尋ねた。
 「それは教えてくれなかったな。でもそれからすぐわしは変な男二人に倒れてるところを見つけられて、食い物と応急処置をしてもらって、ここの施設に連れてこられたんだ。まさか信じられんことだが、影の言う通りわしはあんな状態になっていながら死ななかったんだ!もしかするとあの変な男二人は悪魔の手下だったのかもしれんな。あいつらが離れたとたん、体が楽になったんだから。とにかく昨日駅長さんにも言ったんだが、昨日の夜雨が降ってみんながあわてていたけれど、わしには『まだ死なない』という自信があったんだ。」
 「でもいつまでかはわからんのだろう?」坊主が意地悪く言った。
 「わからん。でもやつは確かに『当分の間』と言ったんだ。だから当分の間は大丈夫さ。ところで、」うそつきは駅長の方に向いて話しかけた。「駅長さんはその悪魔と会った時、何を言われたんだ?」
駅長が何も言わずうつむいていると坊主が代わりに答えた。
 「駅長さんは、そいつにあさってに死ぬと宣言されたらしいんだ。」
 「本当か!」うそつきは大きな声で言った。「そいつは気の毒だな…。それでもう心の準備はできてるのか?」
 駅長はそれに対してもうつむいたまま何も答えなかった。うそつきに返事するのが妙に億劫に感じられたのだった。返事をもらえなかったうそつきは話題を変えた。

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