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『追憶の余韻』【第一章・後】~ひとりかくれんぼ大作戦~【Tの憂鬱】

2014年05月28日

『追憶の余韻』
~ひとりかくれんぼ大作戦~

第一章『Tの憂鬱』
~捲き込まれた惨事~

後編




そんなこんなでなんとか準備を終え

僕らは一旦廃屋を脱出した


後は待機組と実行組に別れて
開始時間を待つだけだ。

屋外の車内に僕をひとり残して
KさんとYさんは覚悟を決めた顔で再び現場へ戻っていった

スタートまで残り一時間を切っている

屋内を探索中もカンカンカンと鳴っていた
例の呪いの踏み切りも今は静かに目の前で佇んでいる

中も不気味だったが、
こっちはこっちでかなり怖い

車内とはいえ、こちらも心霊スポットで事故現場の前に
ひとりぼっちで待つだけの作業なのだから

街灯に照らされた踏み切りは不気味な陰影を際立たせながら暗く佇んでいて
みちゃいけないと思えば思うほど、嫌な雰囲気が満ちてくるみたいだった。

『なにもせずに待ってなさい』
と言われるのは目的のある作業よりキツいかもしれない
まるで拷問だ。一分一秒が普段より長く感じてしまう。

何か別の事に集中したい
僕は携帯で実況中継トピに現状を報告する
そしてトランシーバーを握りしめながら中からの通信はまだかまだか?と待ち望んでいた。


ガッ…ガガ…

来た

『…しもし?聞こえる?今Kさんの人形出来たから、これから僕の人形作ります…』

Yさんの声だろう、

『了解です』

返事をしてトピに書き込む

今の俺の役割はこれだけだ

連絡がないとかなり怖い不気味なのだが

この急にガッとなる感じはなんとかならないだろうか?

急に鳴り出すとかなりビビる

それにしても

あの人は本当にあの遺品の人形を切り裂いて呪いの人形を作ったのだろうか?

信じられない度胸だ…

いや人として間違っている気もする…

多分僕はあの人が本気で呪われても

そりゃそうだろう
と普通に納得しそうな気さえする…


そして
『人形完成しました』との連絡が入る

暫くして
とうとう時間が来た

シーバーからKさんの声
『…三時になりました、ひとりかくれんぼ開始します…』

とうとう始まった

中で何が起きているのかは分からない

ただこのシーバーだけが中の現状を知る唯一だ

Kさんは
10分毎に定期連絡を入れるから連絡がなかったらなんとかして?www
と言っていた

なんとかってどうすりゃいいんだろうか?

『Kです、作業終わりました、今から隠れます…』

『Yです、了解です、じゃあこっちも今から作業開始します…』

二人から同時に連絡が入る

開始直後は通信も良好だった

しかし、暫くして異変が起こりだした

『…ガッ…ガガ…くん?聞こえ…ザザ…ガッ…Tくん?…ザザー』

だんだんと通信状態が悪くなって来た
どっちの声か分からない…

『もしもし?どっちですか?』

『ピーガガ…ザザ…Kで…Yくん終わった…て…ドコ二…ル…聞こえた?ガッ…ザザ…レダオ…Tくん?マエ…ザザ…』

一瞬ビクッとした

明らかにKさんでYさんでもない声が混じっていたのだ

『聞こえてます、い、今知らない人の声がまじってたんですけど?』

『ガガ…気のせいだ…気にすんな…呑まれるぞ?…ガッ』

Kさんのハッキリした口調が聞こえてきた。

『Yくんと連絡取れるか?』
と聞いてくる

『大丈夫です…今かくれて…ザザーガガ…でもなんか変な臭いがします…』

Yさんの声だ

『はい、大丈夫です聞こえてます』
と答えた

『実況中継頼んだよ?』
とKさん

しかしそれ以来Yさんからの連絡がプツリと途絶えてしまった

それもKさんに報告する
『俺のトコはまだ通じてるから』とのこと

しかし明らかにさっきとは通信状態が違う事にビクビクしていた

ふと窓の外を見た

踏み切りに人影が見えた

気がした…

僕は窓を開けて顔を覗かせた
何もいない…

しかし聞こえるのだ

頭に直接響いて来るような

カンカンカン…とゆう耳鳴りのような踏み切りの音が…

?なんで?踏み切りにランプは着いていない、こんな時間に電車が通る筈もない

不可思議な事態に目を凝らす

どこから聞こえてくるのか分からない…

僕は思わずフラフラと車から出て音の正体を確かめたくなった…

瞬間

さっきのKさんの台詞が脳内に木霊した。

『気にするな、呑まれるぞ?』

次の瞬間

ピリリリ…
と携帯が突然鳴り出して

ハッとした

踏み切りからはもう何も聞こえない

心臓の音が酷い

ドキドキしながら携帯に出る

Kさんだ
『Tくん?聞こえる?シーバーが全然繋がらなくなってきたからこっちでかけたんやけど』

僕は今起こった出来事を言おうか迷ったが
それより先に機先を制された

『Yくんが変なことゆうてんねん』



『急に眠たいとか言い出してんねんけど…』

そんなことを僕に言われても…

と戸惑った僕は

『大丈夫ですか?』と気の聞かない台詞を返すのが精一杯だった。

Kさんは『取り合えず連絡がとれないままなら様子を見に行ってくる』

と言い残して携帯を切った。

Yさんの身になにか起こったのだろうか?

僕は助けに行かなくていいんだろうか?

いろんな不安が頭を過った

その時

『ガッ…

ヤバイ…

なんかオカシイ…

今、急に空気が変わった…』

とKさんの狂喜とも悲壮とも取れる声が聞こえてきた

僕はビビりきった声で
『無理はしないでくださいね?』と返事をした。

『ガガ…ちょっとなんか不味い…とゆうか終わります。今から終わらせに行きます』

と連絡

僕は『了解しました』と返して事の転落を待った

それから数分後

『ザザ…え?なに?ガガ…Yくん?どうした?ザザ』

と混線したような声が聞こえて
取り合えず返事をしたが取り込んでいるらしく『ちょっと待って』と言われた

中で一体なにが起きているのだろうか?

そしてまた数分後

今度はまた携帯にKさんからの電話が

『あかん…シーバー全然繋がらん、

そんで、

俺の人形がおらんねん…』

僕は今日、頭の中で何度も思った言葉をまた繰り返した

何を言ってるんだ?この人は?

そんな馬鹿な?

人形が勝手に動き出すなんてあり得ない

『そんで、Yくんも反応がないから、今から様子を見に行ってくるわ』

僕まだ半信半疑のまま
『気を付けて?』と言うやいなや携帯を切られた



また暫くして携帯に電話が…

『Yくん居た、

取り合えず無事やけど、

なんか寝てたわ…』


なんだ寝てただけか…


て、いやいやおかしいやろ?

こんな状況で普通寝るか?

なにか執り付いたりしたんじゃ…

とYさんの状態が心配だったが

『取り合えず、今から二人で脱出します』

とのことなので、出てくるのを待った


それからどれくらいの時間がたっただろう

まったく連絡が来なくなったと心配して

中に入ろうかどうか躊躇しだしたころ


家の中から人影が飛び出してきた

Yさんだ。

よかった無事だったんだ…

しかしなにか様子がオカシイ…

悲壮な顔をしたYさんはこっちを見るなりダッシュしてきて
車に乗り込むなり
『出して!』と叫んだ

え?どうしたんですか?

人形はあったんですか?

Kさんは?

いろんな疑問が切羽詰まったYさんの勢いに欠き消されて
鬼気迫るその表情に
僕は訳もわからず怖くなって車のエンジンを掛けてその場を移動した

Kさんを置き去りにして逃げ出したのだ

Yさんは黙り混んだまま何も説明してくれない…


突然『やっぱりあかん、戻ろう。』とYさんがボソッと呟いたので

僕はさっきの踏み切り前より少し離れた場所に車を停めた


気がついたら真っ黒だった空が臼青く白んできている

時刻はもう5時前だ

そろそろ夜が明けるのだろう。


そうしてようやくYさんは重い口を開いた
『ふ、二人で部屋から出ようとしたら、廊下に…あ、あれがいて…見つかってん…そんでパニックになって…Kさんとはぐれて…置いてきてしもた…』

申し訳なさそうなYさんの話を
『そんな馬鹿な?』とまだ半信半疑で聞いていた俺は

その後、

この夜最高に怖いものを目の当たりにしてチビりそうになった。


二人で廃屋が見える位置で待っていると

邸から出てくる人影がある

もちろんKさんだろう

しかしどこか雰囲気がオカシイ
Yさんのように慌てて飛び出るでもなく

安心したように出てくるわけでもない

まるで、ゾンビの様にゆっくりと、
ノソノソと立ち止まりながら

首を項垂れて

足元もおぼつかない様子で歩いてくる

僕とYさんはその様子に絶句した。

動きが明らかにオカシイ…

そのままゆっくりと歩いて近づいてくる

ずるずると足を引きずりながら

だんだんとしかし確実に…


よく見るとKさんの右手に何か握られていた

カッターナイフだ

カッターを握りしめたKさんが虚ろな表情で近づいてくる

今にも突然走り出して襲いかかって来そうだ

僕はそれを見た瞬間に震え上がった

何が起きてるんだ?

空気が凍りつく

Yさんが
『け、kさん?…大丈夫ですか?』
と声をかけても反応もしない

ただゆっくりと近づいてくる

Kさんが僕らの二メートルほど近くに近づいた時、

スゥっと息を整えたYさんが突然近寄って

バシッ!!

と右手のカッターナイフを叩き落とした

僕はすかさずそのカッターを拾ってその場から離れた

Kさんはクイッと顔を挙げたかと思うと

まるで全身を支えていた糸が切れた操り人形のように

いきなりその場に
ドサッと膝から崩れ落ちた

今まで半信半疑だった僕は
今初めて目の前で起こった怪奇現象に生唾を飲み込んだ。

この人たちの言ってたことはほんとだったのか?

今起こった事が、未だに信じられない

なんだ今のは?



おそるおそる近寄ったYさんが
声をかける

『Kさん?Kさん!!』

するとKさんは『うう…』と呻き声を挙げて目を覚ました

その顔は『俺はなんでこんなとこにいるんだ?』という表情でキョロキョロと周りを見回していた

曰く人形から逃げてる途中から記憶がないらしい


太陽が上ろうとしている

『ヤバイ…早く撤収しなきゃ…』

とまだフラフラしたままのKさんが慌てて廃屋に戻っていった

僕とYさんも後を追う

カメラやテレコなど持ち込んだ器具を撤収しながら

僕らは人形を探した

居た!!

人形は…

Kさんの隠れていた押し入れの中で横たわっていた

Kさんは青ざめたような、

それでも半分笑った様な表情で




『見付かっちゃったんだな…』

とため息混じりに呟いた



第一章『Tの憂鬱』~捲き込まれた惨事~

後編

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