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『追憶の余韻』【第三章・後】~ひとりかくれんぼ大作戦~【Kの暴想】

2014年06月06日12:14

『追憶の余韻』シリーズ
~ひとりかくれんぼ大作戦~

第三章
『Kの暴想』
~愛情と欲望の果てに~

後編




『ヤメテ…』

どこだ…

『モウヤメテ…』

どこにいる…?

『チガウノ…』

アイツを…やらなきゃ…

『モウヤメテヨォ』

俺が…やらなきゃ…



真っ暗な穴の底で蠢く意思を持った塊

白と黒の影が入り乱れて斑模様に荒れ狂う

その渦の中心に

こちらを睨み付けながら近付いてくる

その人形が…居た!!


『ウワァアアア!!』

パニックになった

俺は辺り構わず逃げ出した

ガン!!

ドタン…ガシャア…

焦って振り返った俺はなにかにぶつかって吹き飛んだ…

ガシャン…ガララ…

しまった…ライトを落とした…

ライトがないとホンとになにも見えない

ハァ…ハァ…ヤベ…真っ暗で…なにも見えねぇ…

俺はガンガンなにかにぶつかったり、踏み壊したりしながら、暗闇の中を走りさ迷った…

ガシャ…ボン…グシャ…バキッ…

…どこだここは?…

まさに暗中模索

前後上下左右も見失った俺は

手探りでただ足の出る前へ前へと逃げた

アイツが追ってくる…

ヤバイ…ヤバイ…


ハッと前を見たら…

真っ黒な空間の中に蒼い四角が見えた

窓だ!!

俺は窓を突き破って外へ逃げようと

四角の方へ突き進んだ

ようやく四角に手が届いた


バンッ



ガタガタ…

?!

開かない…

くそっ、バンッバンッバンッ!

窓の外には薄暗い不気味な光に照らされた踏み切りが見える

家の中から誰か走って出てきた

バンッ!!

『Y!!おいY俺はここだ!!助けてくれ!!』

声になら無い声で叫んでいた

yは一瞬こちらを振り返ったが…

また走り出して行ってしまった…

くそっ、気付いてないのか…

俺はパニックのままの頭を無理矢理回転させた


まてよ…この窓…とゆうことはここはリビングか…

俺は記憶を便りに手探りであの場所を探り当てた

ガラ…

ズササ…


ハァ…ハァ…

バンッ!!

ここは押し入れの中

さっきまで隠れていた俺の隠れ場所だ

『モシモシ?モシモシ?』

『ガッ…キュウン…ザザ…』

案の定シーバーはまったく反応しない

携帯も…

プルルル…プルルル…


ダメだ出ない…

畜生…どうしよう…


俺は最後の望みとばかりに

ひとりかくれんぼコミュを開いてSOSを打ち込んだ


『出た、みんな逃げた、助けて』

<もう、冗談やめてくださいよ>
<嘘くせぇwww>
<助けてって言われても…>

ダメだ…誰も信用してない…

クソォ…

もう、ダメだ…


ギシッ…


ふすまのソバで音がした


来た…


もう終わりだ…


絶望感に満たされた俺は
無意識に電話をかけていた


プルルル…プルルル…

ピ『はい?』

出た…出てくれた…

俺は嫁に電話をしていたのだ

『○子!!俺…あの…あの…』

『助けてくれ人形に殺される…』

違う…

『今京都の廃屋にいるから…』

違う…

『さよなら…今までありがとう愛してるよ…』

違う!!



ダメだ…言葉が見つからない…

全ての原因は俺にあるんだ

自分で好き勝手して

自業自得も良いとこだ…

すまない…馬鹿な俺で…ホンとに…


『…っごめん…』


これだけしか言葉が出なかった



ふと目を開けると



知らないうちに



襖が…



開いていた…




赤い涙を流した顔がそこにあった…




笑っていた…




ような気がした…






世界が真っ暗に染まった




『ゥウワァ!!』










そこは真っ白な霧に包まれただだっ広い草原の中で

俺は大きな樹に寄りかかって、両腕で目を隠していた

遠くから声が聞こえる

少女の声

『マァダダヨ…』

俺は嬉しくなって尋ねた

もう…いいかい?


消え入りそうな声が響いている

『マァダダヨ…』


優しくて幸せな気分だ

再び尋ねた

もういいかい?


『…モウイイヨ…』


目を開けて振り返った…



ドサッ…



『…ん!!Kさん!?大丈夫ですか?』

あれ?

Yくん?なんでこんなとこに?

俺は…今…あれ?

なにしてんだ俺?


気が付いたら俺は屋敷の外で倒れていた

どうやら俺は無意識に外に出てきたようだ

『…助かったのか…?』


なにがあったのか今でも信じられない…

それからしばらく三人で気持ちが落ち着くまでしばし、休憩した

が、空は既に明るくなってきて夜が明けようとしている

屋内の機材を撤収しないと…


俺は急いで撤収の作業に入る


屋内には、やはり人形が俺の隠れ家に落ちていた

『夢じゃなかったんだ…』


背中がゾワゾワしている


細胞が早くここを出たがっている

俺達は機材を撤収し終わると一目散に現場から脱出した。



三人ともひどい顔をしている。

疲労困憊…満身創痍…

口数も少なく、駅に到着した

だけどずっとみんな昨夜の話はしなかった

信じられないのか、信じたくないのか分からなかったが

三人とも暗黙の了解で、口には出さなかった


「帰りに絶対事故るなよ?」

とだけ忠告して


解散した。




その夜

俺は昨夜の全ての謎を解く


夢を見た


いや夢だったような気がする…




『おじさん…おじさん?』

『…誰?』

まっ暗闇の中、一人の少女が立っていた

オーバーオールを着たショートカットのボーイッシュな中学年くらいの少女だった

『アタシ…エ○リ…夕べはごめんね?』

『エ○リちゃん?』

なんで?

憑いてきたのか?

『ずっとずっと独りぼっちで寂しかったから、一緒に遊んでくれたの凄く嬉しかった…』

喜んでたのか?

あれで?

『でもね?アタシのお兄ちゃんが怒ってて…おじさん達に悪いことしそうだったから…』

あのたちの悪い気は…兄貴の霊だったのか?

『もう一人のお兄さん…お兄ちゃんに見つかりそうだったから隠してあげたの…』

『おじさんが見つからないように教えてあげたのもアタシ…』

『あそこにいたら危ないから外に連れ出してあげたのもアタシ…』

『でもホンとはお兄ちゃんは好い人なんだよ?でも、あの日からずっと怒ってるの…近づく人みんなに悪いことするの…お父さんみたいに…ひどいことするの…』

『ずっとアタシを探してるの…アタシはココダヨていっても怒ってて気付いてくれないの…』

少女は目に涙を浮かべながら語り続けている…


そういえば…寝室で聞こえた声は『エ○リ』って呼んでた…

悪霊がエ○リちゃんならそうは呼ばない…あれは兄貴の霊だったのか?

『お兄ちゃんは…なんで怒ってるの?』

少女の目から涙が溢れた

『…アタシを守ろうとしてくれてる…』

『アタシはもう悲しくないの、あまり覚えてないから…でもおにいちゃんにそう伝えたくても聞いてくれないし…ヤメテ、アタシはココにいるから、アタシはもう悲しくないから…って止めても…』

『俺が守ってやらなきゃ…』

『俺が助けてやらなきゃ…』

『…って泣きながら怒ってアタシを探してるの…』


ひとしきり話した少女はボロボロ泣いていた…

『ごめんなさい…ごめんなさい…』

『大丈夫…もう気にしないで?』


『ありがとう…遊んでくれて…ありがとう…』

『うん、モウイイヨ、こっちこそ助けてくれてありがとね?そんなに寂しいならまたあぞびにいっていい?』

俺はよかれと思いそう訊ねた

『ダメ…お兄ちゃん…まだ探してるから…次見つかったら…もうアタシには止められないと思う…』

ゴクッ…


『そうか…わかったよ』

『おじさん、お話聞いてくれてホンとにありがとう』


そう言い残して…エ○リちゃんはすゥっと消えていった…



そうか…


あの兄貴は

ずっと後悔していたんだ…妹を守れなかった事を…

その自責の念が…長い年月をかけて彼を悪霊に変えていったんだ

その愛情が故に

自分も他人もあらゆるものが許せなくて

ずっと居なくなった守るべき妹を探していたんだ

その声も届かない程に

愛しすぎたゆえに


あの日からずっと…

あの廃屋の中で


永遠に終わることの無い…


ひとりぼっちのかくれんぼを


続けていたんだ…



第三章
『Kの暴想』

~愛情と欲望の果てに~



後編


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