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『追憶の余韻』【第三章・前】~ひとりかくれんぼ大作戦~【Kの暴想】
2014年06月03日
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苦手な方は閲覧にご注意下さい。
『追憶の余韻』シリーズ
~ひとりかくれんぼ大作戦~
第三章
『Kの暴想』
~愛情と欲望の果てに~
前編
夢を見た
いや夢だった様な気がする
真っ白な靄のかかったただッ広い草原で
俺は大きな大きな大樹にうつ伏せでもたれ掛かって、両腕で目を隠している
遠くの方で声が聞こえる
少女の声
…『マァ~ダダヨォ』…
俺は笑って尋ねていた
『もういいかい?』
その声以外何も聞こえない
静寂で優しい空気
モヤのような霧が風に揺れている
再び消え入りそうな声が聞こえる
…『マァ~ダダヨォ』…
その声を聞くと
心地いい…幸せな気分になった
ずっとここでこうしていたい…
再び尋ねる
『もういいかい?』
『…モゥイイヨ…』
俺は少し悪戯な気分で目を開けて振り返った
目の前には…
今にも割れて崩れ落ちそうな脆い空間が…
夜の闇よりも濃い闇に包まれていた…
静寂が五月蝿くて気が狂いそうになる…
カビの据えた臭い…
埃まみれの苦い空気…
そこは誰の記憶なも残らず
長い間忘れ去られたまま…
色めき立った時間も空間も、
そこに生きていたであろう全てが…
なんの色も持たない『タヒの色』に彩られていた…
フッ…フッ…フッ…
呼吸は細く、鼓動だけが高鳴っている
ドク…ドク…
心臓から流れる血液が、全身をめぐる振動を感じる
怖い?
そりゃ怖いさ…
だけどな?
お前らの怖さはおよそ『未来の自分』に対する『生への執着』から来る『欲望』だろう?
俺の『怖さ』はもっと深くて暗い場所で泣いてるんだよ
『サヨナラ』も言えない独りぼっちの部屋で、グツグツと煮えたぎった『絶望』を喰らって生き永らえてるんだよ
タヒぬことより怖い
永遠のジゴク
『退屈』とゆう恐怖感が
冷たい切っ先を背中に添えながら
俺をいつも強制的にタヒの縁に追い込むんだ
この意味が分かるか?
チッ…チッ…チッ…
『はい…三時に為りました…ひとりかくれんぼ……開始します。』
俺はハンディカメラを片手に、真っ暗な室内をライトを照らしながら
隠れ場所にしていた大広間の押し入れから出た
8月のど真ん中、真夜中でも蒸し暑い空気が俺の顔から汗を吹き出させる
部屋の中は荒れ放題だ…
俺は一体ここで何があったのかを無意識に想像していた
……………
『…ッハァ…ハァ…や、辞めろ…ダメだ!!…辞めてくれ!!』
夕飯の時間まであと少しだった
妻(49)は台所で夕飯の支度をし、娘(14)はリビングでテレビを見ていた
そしてもう一人、長男(19)は二階の自室で漫画を読んでいた
仕事から帰り、さっきまで新聞を読みながらしばらく無言でうつ向いていた父親が
突然そう叫びだした
妻と娘はその声に一瞬目を丸くして驚き、妻が声をかけた
『ど…どうしたの?おとうさ…』
と駆け寄ったその刹那
父親が振り向き様に妻の顔面を思いきり殴り付けた
ゴッ!!
と鈍い音がして妻は吹き飛んだ
ガシャアン!!ガラガラ…
『キャアアア!!』
娘は混乱して悲鳴を上げた
父親は『スマン…許してくれ…』と泣きながら
何かに操られるように
ゴッ!!
ガコッ!!
ガスッ!!
吹き飛んで意識を失った妻に馬乗りになって、何度も何度も顔面を殴り続けている
『イャアァ!!ヤメテ!お父さん!!』
娘は怯えて叫ぶことしか出来なかった
ゴフッ…
母親は赤い泡を吐いて白目を向いている
『ゴメン…ゴメ…ン…ゴォエアアア!!』
ガッ…
父親は目の間に合った台所の包丁を掴んで、胸元目掛けて一気に降り下ろす
バッ!!
と真っ赤な色が台所に撒き散らされた
『お、ご…ぇ…』
父親の言葉はもう認識も出来ない
声が濁って別人の様だった…
『イャアアアアァッッ!!!!おかぁさぁ…』
泣き叫ぶ娘
ゆっくり起き上がり…
震えながら振り返る真っ赤な父親
『や…やだ…やめて…やめてよお父さん…なんで?…なんで?』
ドタドタ…
『おいどうした?』
長男が騒ぎを聞いて2階から駆け降りてきた
ガラッ…
ドアを開けるとソコには…
父親にもたれ掛かる様にして
腹を包丁で突き裂かれた妹がいた…
『うおっ!!エ○リ…!!
お、おやじぃ…なにしてんだよぉ!!』
『ご…ぇん……ぉ…ん…おま…たちも…っしょに…こう…』
赤いの涙を流し、包丁を振りかざした父親が襲い掛かってきた
『うわぁ!!』
必死で逃げる長男は
階段を上り自室に立て籠ろうとした
ダッダッダン…
バタン…
扉を閉めて…力一杯押さえつける
『オォエァ…オォエァ…
』
ガン!!
ガン!!
追ってきた父親が扉を叩く
『や、やめろよ…なんだよ、何がどうなってんだよ!!おやじィィ!!!』
ガン…
ガン…
ガン…
……
不意に扉を叩く音が止まった
『ハァ…ハァ…?』
扉に耳をつけて様子を探る長男…
次の瞬間…
バゴォン!!
工事用の大きな金づちで思いきりドアを叩き壊す父親
ハンマーは長男の頭を直撃し、扉と一緒に吹き飛んだ
『ハァ…ハァ…ハァ…いっ…ょに…いこ…』
頭から大量の血を流し、痙攣を起こして倒れ込む長男
父親は足を引きずり階段を下りる
ちまみれでタヒんでいる妻と娘の傍らで
父親は震える手で遺書を書き残した…
『妻だけ連れていこうと思ったが、息子たちを置いてはいけなかった。みんなを守れなくて申し訳ない』
その後父親は風呂場で…
首をつってジサツした
この騒ぎを聞き付けた近所の住人により通報が入り
長男だけは一命をとりとめ病院に搬送されたが、しばらくして頭蓋骨陥没が原因でタヒ亡
三つのタヒ体が転がる一軒家の
リビングの机の上には…
その一部始終を見ていたピーチ姫人形が
一人ポツンと佇んでいた。
…………
暗闇が意思を持ったようにざわめいている
俺はそのざわめきを避けるように
一歩一歩慎重に屋内を歩いて風呂場に向かう
手には俺の血にまみれた俺を呪いコロすために作った霊魂を憑依させる『呪いの人形』が…
この人形とこの廃屋で出逢い
初めて手に取った時
スゥッと人形と目が合った
何年も何年も独りぼっちで
ただ座っている事しか出来なかった人形
ここの家族に、特に娘のお気に入りだった人形
貰われてきたその日から、この家の喜怒哀楽全ての出来事を…
一家の最後と断末魔さえも
そしてその後の
永い永いただ朽ちていくだけの時間と空間を
ずっと黙って見届けてきた
寂しそうなピーチ姫人形
会いたかった
話を聞いてあげたかった
俺の命を分けてでも
こいつを愛した、
こいつの愛した
家族の話を
こいつの話を聞いてあげたかった
そしてそれができるのは
今、偶然にもここに居合わせた俺しかしない
そんな使命感にも似た感情が
俺のやるべきことを明確にした
『俺…この人形使うわ…』
YとTは言葉を無くしていた
『名前は…エ○リちゃん(腹をさかかれてタヒんだ娘の名前)…にしよう…』
俺は笑っていたと思う
風呂場に着いた俺は
人形をバケツに張った水に浮かべ
『お前の名前はエ○リちゃん、お前の名前はエ○リちゃん、お前の名前はエ○リちゃん…』
と自分に言い聞かせるように三回唱えた
呪いの人形は、魂の無い俺の分身だ
人形は魂の無い空っぽの器
腹をサき中に米を詰め、この人形に生きた肉を与える
その中に俺の魂の情報を入れるのだ
俺の細胞ならなんでもいい
爪や髪の毛、皮膚等の末端細胞
肉や血等の体内細胞
痛みや感情の籠った細胞ほど
効果は高く、その危険度も跳ね上がる
俺はその日の朝、床屋で丸坊主にした、その際の切った髪の毛の一部をビニールに詰めていた
一掴みの髪の毛を入れ
手足の爪を切って
それも入れた
そして持参したカッターナイフで指を切った
最初の傷は浅くてなかなか血が出てこない
俺は再び刃を傷口に当て、二度三度と傷口を深くした
痛みの恐怖は確かにあった
しかしそんな俺の抵抗を凌駕する愛情にも似た力が
強引にカッターの刃を傷口に押し付けていった。
人形に俺の血が染み込んでいく
被害者の遺品
爪、髪の毛、血液
これ以上考えられない材料で作り上げた最強の呪いの人形が出来上がった
その血を使って今度は糸を赤く染める
血に染まった赤い糸を使い人形の傷口を縫い留める
そのまま糸を人形に巻き付け縛っていく
赤い糸は血管や神経を意味していて、縛り付けた糸は魂を閉じ込める結界と成る
名前を与えて人格を作り
人形に血肉を与え、俺の魂の一部を吹き込み閉じ込めたのだ
これでこの人形は俺の分身と化した
『おい、お前、
俺は今からお前とかくれんぼをする…
最初は…俺が鬼だ…
隠れているところを見つけたら…』
俺は手に持ったカッターナイフを振りかざし人形に突きサす
グサッ…グリ…グリ…
『こうやって…遊ぶんだ…分かったか?』
この時人形を縛り付けていた糸を切る…
結界が破れて魂が解放される
『次はお前が鬼だ…俺を見つけて…コロしに来い…』
水の底に人形を沈めて
俺は隠れ家に戻った
さぁ、遊ぼうぜ?エ○リ…
お前の声を、無念を、憎しみを聴かせてくれ…
ひとりかくれんぼ…
スタートだ!!
俺はその夜
夢を見た
いや夢だった様な気がする…
『Kの暴想』
~愛情と欲望の果てに~
前編
完