見出し画像

『追憶の余韻』【第三章・中】~ひとりかくれんぼ大作戦~【Kの暴想】

2014年06月06日


『追憶の余韻』

~ひとりかくれんぼ大作戦~


第三章
『Kの暴想』
~愛情と欲望の果てに~


中編


気付いたら中に居たんだ

真っ暗な場所で

『ごめんなさい…ごめんなさい…』

って泣いていた


俺が『もう大丈夫だよ?』と声を掛けたら

『ありがとう』て笑っていたんだ

その娘は…





ハァ…ハァ…バンッ!!


『作業完了!!今、押し入れに隠れてます。』

ひとりかくれんぼの人形の儀式を終えた俺は
押し入れに戻るや否や報告の連絡を入れる

『了解しました』とTの返事

『じゃあ次俺行きます』とYの合図

この二人にはホンとに感謝しかないな

俺のこんな意味もないワガママに付け合わせちゃて

Tくんは初対面だけど、礼儀正しくて真面目で、自分を犠牲にしても他人を思いやれる良い奴だ。なにより彼のエンターテイメント能力は俺には真似の出来ない才能だと思う。


Yはやり過ぎなくらい人懐っこくて、ずかずか入り込んでくるけど、ちゃんと分を弁えてるから相手を不快にしない。
彼が誰からも愛されるのは人のために自分の犠牲をいとわない性格ゆえだろう
愛されキャラな彼の幅広い人脈やそれを可能にするコミニケーション能力は
それこそ人付き合いの苦手な俺には無い才能だ。


二人とも安心して背中を任せられる心強い仲間だ

俺一人じゃ俺は今ここにたどり着けなかったろうな

そう思うだけで、俺はやる気が沸いてくる



突然シーバーが鳴り出した

『ガッ…ザザ…アアォウ…ザザ…』

なんだ今の声?混線か?

『はいKです。今の誰?』

『ザザ…ガッ…』

おっと…さっそくなんか来たかな?

いきなり通信おかしくなった…

霊は機械と相性が悪いことは科学的なデータでも実証されている

こう言うときに気を付けなきゃダメなのは、
『怖い』とゆう感情に流されないこと

霊は負の感情に依ってくる

もうだめだ!!と
心に隙をみせたり、心が弱ると途端に襲い掛かってくるんだ。

だからそうゆう心の隙につけこまれない様に『負けない強い心』を持つことが肝要なのだ。

単純に言えば『気にし過ぎない事』

不安に負けてしまうと、途端に恐怖感に呑まれてしまうのだ。


『ザザ…ガッ…Tです。い、今…知らないヒトの声が…』

ホラキタ…

『大丈夫、気のせいだから気にすんな!!』

しかし思ったより、反応が早いな…

さすが最恐廃屋って事か…

そういえば二階に探索行ったとき兄貴の部屋だけ突然ハンドライトの調子が悪くなったし…

あそこも嫌な気が漂ってたな…

あの部屋だけ空気がチクチクして肌がピリピリしたから早めに切り上げたけど

ここには絶対何かいるはずだ…

不可解な事が多すぎる…


『風呂場で首を吊った父親』

『台所で顔の原型を留めないくらい殴られて撲殺された母親』

『リビングで腹を裂かれた娘』

『二階で頭蓋骨を割られた長男』

どこへいっても悲惨な現場ばかりだ

空気が重たい…



『ガッ…ザザ…さん…Kさん…ヤバイ…急にすごく…眠たくなって…ザザ…ガッ…』

えっ?

Y?

『おい、どうした?Yくん?』

『ザザ…ガッ…ザザ…』

『Tくん?今の聞こえた?』

『ガッ…え?なんですか?』

聞こえてすらいないのか…



くそっ、だから気にすんなって言ったのに…


パキッ…パキ…

『ガッ…ボェオァ…ザザ…アゥ…ガッ…』

クソ……俺のとこまでおかしくなってきた…ヤバイな…


『Tくん?聞こえる?…』

『ザザ…ガッ…』

『クソ…だめだ…こうなったら…』

ピ…ピ…プ…ポ…

俺は最終手段の携帯でTくんと連絡を取った

『もしもし?Yくんがおかしな事言ってるんよ…』

『ザ…大丈夫ですか?…ザザ…』

携帯までノイズが入ってる…

『ちょっと様子見てくるわ…』

ピッ

はぁ…ハァ…

もう、明らかに空気が悪い…

息が苦しくなってきてる…

ただでさえ熱帯夜のジメジメした暑さが額や腕から汗を吹き出させるのに…

気にするな…気にするな…


俺は必死で心を正常に保っていた…



パキ…パキキ…


ピキン…




一瞬



頭ではなく



心臓が悲鳴を上げた


俺を包んでいた空気が

空気の質が明らかに変わったのだ。

冷たい

凍るような悪寒が

一瞬で俺を包んだ

あれだけかいていた汗が一瞬でさーっと引いた

信じられなかった…

ハァ…ハァ…


吐く息が…

白く煙るのだ…



ちがう…気のせいじゃない

ホンとに気温が下がってる…


開始時には28℃前後を指していた、風呂場と廊下に設置したデジタル温度計が…


3℃~10℃を示していた


なんだこの刺すような空気は…

視線?

ちがう…嫌な予感を何倍にも濃くしたような…

言うなれば『殺気』

そんな身体中を強張らせるに足る

明らかな違和感が

部屋中に漂っている

カララ…

カタン…


カララ…

カタン…


ミシッ…

ミシッ…

ミシッ…



ハッとした、

何かいる…


ふすまの外で何かが動いてる…


これは…

ヤバイ…


もう限界だった


度重なる不可解が

いつの間にか、気づかぬ間に

俺の心にも隙を作らせたらしい


『スマン、もう無理や、終わらせます!!』

シーバーでそう宣言した俺は

慎重に準備を済ませて押し入れから出た

寒い…冷気が部屋中に漂っている…

凄まじいプレッシャーが俺の足を重くする


廊下まで出た瞬間


シーバーが反応した


『ガッ…ザザ…ダメ…今…風呂場は…ダメ…やめたほうか…いい…ザザ…』

Yくん…の声…なのか?

なにかエフェクトフィルタのかかったような違和感のある声だった

『Y?無事か?風呂場はダメってなんだ?なにがあった?』

『…今は…ダメ…』

『くそっ、…どうなってんだ…』

俺は一旦押し入れまで引き返した…

『Y?大丈夫か?』

『ザザ…キュイ…ガッ…』


後日談になるが

この時、Yは黒い影に捕り憑かれていて、完全に気を失っていたはずなのだ


だめだ、掛けてはみたが携帯も通じない

ラチが空かない

俺はしびれを切らして風呂場に向かった…



すると

さっき無かったはずの

あってはならないものが

足の裏に触れた…


ピチャ…

廊下の途中

小さな範囲に

水が…溜まっていた…

ライトで廊下を照らすと

その水溜まりの跡は風呂場まで続いている…


嘘だ…

まさか…


俺は…ガクガク震えながら水溜まりの跡を追った…


ガラリ…

風呂場のドアを開けて中を照らすと

やはり


バケツに人形が居なかった


チッ…

明らかに緊急事態だ

ピピプ…

『Tくん、Tくん!やばい…人形がおらん…』

その時俺は、自分がどれだけ動揺していたのか思い知った


そうか…馬鹿か俺は…

水溜まりは『風呂場に』続いてたんじゃない…

『風呂場から』続いてたんだ

風呂場から廊下へ…

そしてその先は…



Yくんの隠れてる寝室だ!!


ヤバイ!

『Yがヤバイ…様子見てくる!』



俺は…焦ってYの部屋へ向かった

ハァ…ハァ…

目眩がする…

廊下が歪んで見える…

ドクン…ドクン…

自分の鼓動と呼吸が五月蝿いくらいに暴れている

生唾を飲み込み…

寝室に入る…


真っ暗だ…


空気が…一段と重い…


まるで水中にいるような息苦しさだ…



ライトでクローゼットを照らす…


誰かいる…


Yだ…


でも…


おかしい…


なんだ?

Yの体が…

闇のなかで黒く光って見える…

近付いてライトを照らす


寝てるのか?


『Y?…おいY?』

反応しない



くそっ、


バシン!!

俺は思いきりYの肩をハタいた
背中から肩を払うのは『霊を祓う』一番簡単な徐霊術だ

刹那
パシッ…

とYの体から黒い光が散った

今だ

『おいっY起きろ!!戻って来いコラァ!!』

体を揺すって活を入れる



『う…うう…』

yが気が付いた

よかった

まだ連れ去られてはいなかったみたいだ…




しかしまだ体調は良くなさそうだ

頭を抑えて項垂れている

だが俺はもう一刻の猶予もない危機感に襲われていた

空気がうねり暴れだしていたのだ

まるで怒っているかのように


カタカタ…と部屋が鳴いている…

ラップ音が激しくなる

パキ…ピシッ…


そして俺は無意識に聞いていた

ラップ音に紛れた低く響くような声を

パキキ…エ…パン…パシッ…ミ…リ…ピキ…ィ…


『今すぐここ出るぞ?』

フラフラしているyを無理矢理引き起こして

出口へ向かった


真っ暗な暗闇の空気がどんどん重くなる…


『ちょ…ちょっと…』

Yが急に肩をつかんでおれを止めた

『なに?』

『なんかいます…』

『え?』

まるで底の無い穴のような真っ暗な廊下

震えた手でライトを翳したその先には


ズズ…

ズ…

全身をヘドロのようなどす黒い液体に包み

目を見開いて血の涙を流した

無気味すぎるピーチ姫人形が


こっちに向かって近付いてきた…









その夜


気が付いたら中に居たんだ

真っ暗な場所で

『…おにぃちゃん…』

って泣いていた


俺は多分最初から気付いてたんだ

あの人形と目が合った時から…



第三章
『Kの暴想』
~愛情と欲望の果てに~

中編

いいなと思ったら応援しよう!